第49話 それぞれの思惑
ちょっと短めです。
エスリーの砦を奪還し、砦内の制圧、残党狩りや周りの安全確認が終わる頃には次の日の夕方だった。
予定ではもうすぐ第三師団の部隊がこちらへ向かってくるはずだ。
とりあえず危険はないようで、昼ぐらいに傭兵団はそのまま帰還していった。
今残っているのは第四師団だけだ。
報告をみると、エスリーの砦は城壁の欠損も少なく、十分砦としての役割を果たしてくれそうとのこと。
もしかしたらと思っていたため、その報告を聞いてウキエさんと共に安堵したものだ。
第三師団にこの砦を引渡し、もう少し南部を偵察した上で帝国内に引き上げる予定をしている。
早くとも明後日になるだろう。となれば帰還はさらに先か...。
とりあえず、国王の命は完遂したのだから問題ない。
だが、戦果にはあまり満足はしていない。
今回の戦いで、何人か怪我人と死人も出ている。
当たり前だと言われそうだが、さすがに被害が0とはいかなかった。テレス砦で止めておけば出なかった被害だ。そう考えると憂鬱になる。
今できる仕事といえば砦の調査や補修に関するものばかりで、俺が言えることはない。ウキエさんに任せっきりになっている。
じゃあ師団長は暇なのか?といえばそういうわけじゃない。
現在俺は、正座させられ、お説教をくらっていた。
俺を囲むのは近衛のみなさんだ。
怒られているポイントをまとめると以下のようになる。
テレスの砦
・近衛を無視して大将が単身敵陣に突っ込むとは何事か。
・敵将の首を取ったら後ろから指揮をする約束じゃなかったか。
・魔力回復薬は1日2本までだ。
エスリーの砦
・近衛を無視して大将が単身敵陣に突っ込むとは何事か。(2回目)
・戦場ど真ん中で無防備に魔法詠唱し始めるとは何を考えているのか。
・身体の負荷が大きい使ったことのない魔法をいきなり使うとはどういうことだ。
・魔力回復薬は1日2本までだ。(2回目)
・あの猫娘は一体何なんだ(ユリウス)
ほとんど言い逃れできないものばかりだ。
近衛としては護衛対象である相手が自分達をふりきった上で戦場を駆け巡り、最前線にずっといられるとか、たまったもんじゃない。
特に怒っていたのはクインとユリウスだった。
そしてリザがたまに冷たい一言を放つ。
残念ながら味方はいない...いや、まだ珀や翠がいないだけマシなのかもしれない。あの2人までいたら、もっと追い詰められそうだ。
長いお説教の時間は深夜まで続いた。
帝国の王城、その謁見の間の隣に用意された部屋では皇帝と宰相、そして第三師団長であるヘイミング卿とその副官がこの3日間で上がってくる報告に神経を一喜一憂させられていた。
最初に上がってきた報告は、テレスの砦前にて野戦でオークの軍勢と交戦というものだった。
そして次に上がってくる報告で勝敗が決まる。
予想外に早く上がってきた報告は期待以上のものだった。オークの軍勢を壊滅させ、死者なし、負傷者数名という快挙だ。
これには、彼らも喜び、国民への発表をどうしようかと相談していた。
そして国民への発表内容が決定し、急いで帰還するよう命令を出そうとした矢先に、次の伝令が来た。
テレスの砦が使い物になりそうにないのでエスリーの砦に進行します。という端的なものだった。
これには全員が驚いた。
皇帝など飲んでいたお茶を吹いたぐらいだ。
更にきた伝令で場に緊張が走る。
エスリーの砦付近でオークの奇襲を受け、交戦中。
これはまずい、せっかくテレスの砦を手に入れても第四師団が壊滅的な打撃を受けては意味がないのだ。
国民に発表する内容ももう一度考え直す必要がある。結果次第ではヒアの砦に軍を送る必要すらあった。
ハラハラしながら次の報告を待つが、なかなか来ない。
次の伝令は、第三師団を経由して届けられていた。
オークの軍勢を打ち破り、エスリーの砦を奪還。死者、負傷者は若干名。とのことだ。
この報告に初老の宰相が年甲斐もなく、ガッツポーズを決めた。
普段物静かな彼からすれば珍しいことだが、無理もない。
最近の国民からの不平不満、国軍への不信を皇帝の代わりに矢面に立っているのが宰相だった。
彼からすれば、これで国軍は汚名返上。やっと極度のストレス状態から幾分解放されるのだ。
そう考えれば派手なガッツポーズも無理はない。
「それにしてもハラハラさせてくれるな、新しい第四師団長は。しかも、これでは発表内容を考え直さねばならん。」
「同感ですな。」
皇帝と宰相が笑い合う。
この約3日間、終わってみれば大勝利であるが、伝令を待ちわびた時間が長く、本当に長い3日間に感じた。
「面白い報告も上がっていますよ。」
「ほぉ、どんな報告だ?」
ヘイミング卿の言葉に皇帝が興味を持つ。
「実は許可を得て、あちらからの伝令以外に見聞きしたものをまとめて報告する伝令も配置していたのです。その伝令からの報告に面白いものがありました。元々客観的な報告と自分が感じた主観的なものも報告するように指示を出していたのですが、2人の伝令が似たようなことを言っています。」
ヘイミング卿は国王と宰相を順に見てから、笑顔で告げた。
「1人目はまだ若い伝令でしたが、トルマ・フィードベルト様と重なるという感想を述べています。特に軍の鼓舞に関してはその言い回しから口調までも、とても特徴的だったと。自然に出たのか、それとも元から用意していたのかはわかりませんが、後者なら策士ですね。」
「それは...一度見てみたいものだな。」
「それで、これが本命ではないのであろ?」
宰相は感想を、ヘイミング卿の性格を知っている皇帝は続きを促した。
「もう1人は長年仕えてくれているベテランでしたが、彼の一文はこうです。再び軍神に出会うとはおもわなかったと。」
その言葉に皇帝と宰相は驚きの声を上げる。
軍神。それは以前、第四師団にいた指揮官の通り名だ。前第四師団長トルマ・フィードベルトの部下であり、若くしてその才覚を発揮した人物。天性の戦上手と言われ、行方不明になるまで戦いで負けたことがない無敗の軍神。一時は前第四師団長の隠し子説から養子に迎え入れられるという話まであったほどだ。
魔軍だけではなく、反乱分子の鎮圧や他国への進行でも驚くべき戦果を上げてきた人物である。特徴的なのは兵士の心をつかむ仕草、そして魔法を使った奇策。
かつての軍神の働きを知る部下があげてきた報告。
一介の兵が上げた報告とはいえ、無視できるものではなかった。
「...記録石を持っていってはいないのか?」
「指示してはいませんが、ウキエなら持っているかもしれませんな。帰り次第呼びつけましょう。」
国王の言葉に宰相がうなづく。
そしてヘイミング卿は愉快そうに笑みを深めた。
「いやぁ...恩を売っておいてよかった。私の目もまだまだ棄てたもんじゃないと安心しました。」
第四師団の帰還前に、皇帝から戦果の発表があり、その内容に国民が沸いた。
特に南区の国民は、新生第四師団の実力に満足の声を上げている。
しかし、それを良しとしない人物もいる。
「これはどういうことなのだ?無謀な作戦で第四師団は壊滅、邪魔者はいなくなるはずではなかったのか?」
不満の声を上げた人物は傍らにいる人物に新聞を叩きつける。
「まさか、勝利するとは。」
その顔には驚きの表情が浮かんでいる。
彼の名はカム・テイル。
かつて第四師団の副官を勤めていた人物だ。
第四師団長就任後に、その役職を辞職し、今では昔の伝手をつかってある貴族に取り入っていた。
「お前の読みが甘かったようだな。やはり政治的に追い落とすしかないかもしれん。」
「はっ、申し訳ございません。」
「だが、しばらくは目を瞑っておかねばなるまいて。今回の働きもあり、皇帝陛下の覚えもいいときている。今正面から敵対するのは得策ではない。時期を待つ必要があるようだ。」
「はい。私は軍事面でご助力させて頂きます。」
「期待しておるぞ、第四師団の副官であったそなたの、魔軍との戦いの経験に期待しておるのだからな。」
カム・テイルは頭を下げたまま、後ろに下がる。
部屋には思惑を巡らせる貴族だけが残った。
「儂の思惑通りに進めば数年以内に、小僧を追い落とし、儂がその座に成り代わることになろう。」
密かに笑いながらワイングラスを傾ける。
ある貴族低での、とある一幕であった。
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