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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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ある小隊長の話

 俺の名はドルマン、第四師団の小隊長をしている。


 2年前の戦いで生き残った部隊長の1人だ。

 あの戦いで、直属の中隊長や大隊長も死んだ。

 そして何より、第四師団長も帰らぬ人となった。


 あの悔しさは忘れられない。


 それからの2年は諦めと失望の毎日だった。

 第四師団長がいなくなった途端、幅をきかせたカム副長のやりたい放題だったからだ。

 隊の規律は乱れ、同僚の多くが別の隊に異動願いを出したり、国軍を去っていった。

 俺は家族がいたから辞められなかったが、独り身ならきっと見切りをつけていただろう。


 変わったのは新しい第四師団長が決まってからだ。

 フードをつけていてちゃんと顔を見たことはないが、なんでも平民から実力を評価された叩き上げらしい。

 何より、隊の規律が元に戻ったことが嬉しかった。

 最初に辞めたい奴は辞めろと言われ、残ったのは100人に満たない。

 俺みたいに家族があるやつや、他に行き場がないやつ。

 いつか昔の第四師団のようになることを諦めていないやつばかりだった。


 1ヶ月後に出陣を控えた今、魚鱗とかいう陣形の練習を毎日繰り返している。

 なかなか上手くいかない。

 期間が短すぎる。

 それに、新しい第四師団長は神格者とかいう特別な人らしいが、本当にこれだけの人数で勝ち目はあるのかという疑問を全員が共感していたと思う。


 そんなある日、調練場に子供が紛れ込んでいた。

 といっても、小さな子供ではないが、13,4歳ぐらいだろうか?

 広場の隅で座りながら調練をじっと見ている。


 ちょうど交代で休憩だったこともあり、声をかけた。


「君、どうしたんだ?こんなところに入っちゃダメだろう?」


「へ?」


 一瞬、その少年は驚き、首をかしげたが、ちょうどいい話し相手でも見つけたかのようにこちらに質問してきた。


「ねぇ、あれはなんの訓練をしているの?」


 調練に興味があるんだろうか。


「あれは陣形の訓練なんだ。最終的にどういう形かは分からないが役割を身体に叩き込んでいるんだよ。」


「...陣形の訓練なのに形がわからない?」


「おじさんは末端でね。上の指示て陣形を作るんだ。だから末端は知る必要がないんだよ。」


「あの人がそう言ったの?」


 少年が指をさすのはシド中隊長だ。


「いや、そういうわけじゃないけど、昔からそう教わってきたんだよ。たぶんシド中隊長、あぁ、あの人はシド中隊長っていうんだけど、あの人も同じだと思うよ。」


「ふーん。」


 何かに納得したのか、少年は立ち上がり、シド中隊長の方へ歩いていく。


「あ、ダメだよ。もう出ないと、さすがに邪魔したらつまみ出すことになるし。」


 焦って止めたがダメだった。どんどん少年は広場の中心に向かって歩いていく。

 無理矢理腕をつかもうとしたが、その前に中隊長がこちらに気づき、走り寄ってきた。

 しまった、怒られる!と思ったが、そうはならなかった。

 中隊長が少年に膝を付き、礼をしたのだ。


「これは師団長閣下、わざわざの御足労、痛み入ります。お呼び頂ければこちらから伺いましたのに。」


「あーいや、元々用があったわけじゃないんだけど、散歩のついでに調練を見させてもらってたんだ。」


「はい、何かありましたでしょうか?」


「シド、魚鱗の陣がどういうものが知ってるか?」


「はい、もちろんでございます。」


「それは以前から知っていたか?」


「いえ、今回ウキエ殿に教わりました。」


 俺はシド中隊長と少年...いや、師団長様の会話を隣で呆然と聞いていた。

 なんて無礼を働いたのだろう。噂では師団長は候補であったとき、無礼な兵士の首を跳ねてあっさり殺したと言われている。

 これは...やばいのでは?逃げ出すべきか?それとも地に頭をつけて詫びるべきか?


「じゃあ、そこの、えーっと、端の人。」


「は、はい!」


 ちょうど調練していた小隊の1人がいきなり指名されたのに驚いて敬礼する。緊張しきっているのがわかる。無理もない。かわいそうに。


「魚鱗の陣って知ってるか?どういう形どどういうときに有効な陣形?」


「......。」


「どっち?」


「...勉強不足です!すいません!」


「ふーん。じゃあ...今の人の小隊長、手を上げて。」


「はっ!私です!」


 続いて、答えられなかった兵士の小隊長に白羽の矢が立った。


「君は知ってる?」


「...申し訳ございません。」


 汗をタラタラ流しながら答える小隊長は俺の同期だ。可愛そうに足が震えている。まぁ、俺も他人事じゃないかもしれんが。


「シド、全体的な動きがわからないと、奇襲を受けたら総崩れになりかねないし、効率も悪いとおもうんだけど。どう思う?」


「そ、それは...確かに、私もそう思いますが、調練のやり方は以前と同じ方法で行っておりますので。」


「ではシド、以降は過去のやり方があっても、あくまで自分の正しいと思ったやり方で調練してほしい。」


「はっ!心得ました。」


「もちろん責任はついてくるが。」


 その言葉にシド中隊長は青くなった。

 そうして少年...もとい師団長は調練場をあとにしていった。

 お咎めはなかったものの、さすがに平民みたいな格好でこそっと見るのはやめてほしい。心臓に悪すぎる。


 少なくとも俺を含めて4人の寿命が縮まったと思う。


 そんな変わった少年師団長の噂は兵士達の間でも有名だ。

 私服でブラブラしていたり、ふらっと食堂に現れて、兵士と一緒に食事を取っているところが何度も目撃されている。フードをつけていると顔が見えないからあまり顔は知られていないが、食堂や今みたいなタイミングで覚えられ、すぐに広がっていくだろう。こんな心臓に悪い体験をしたら二度と師団長の顔を忘れたりなんてしない。

 だが、同時に親しみやすいと言う話もよく聞く。普通に接してくれて、気位も高くない。平民出身というが、権力をかさにかけるタイプじゃないらしい。

 街中で暴漢を取り押さえて、第三師団に一緒に連行されたが笑って許したって噂まであった。


 貴族らしくない貴族。


 更に近衛には亜人を採用しているので有名だ。

 別に俺は亜人を差別するつもりはないが、長くこの国で亜人は嫌われてきた。

 だから好き好んで自分の部隊に編成するなんて聞いたことがない。


 そんな少し変わった師団長様の印象が劇的に変わったのはエスリーの砦での戦いだった。


 テレス砦の戦いでも驚かされたが、今回は特に度肝を抜かれた。

 オークどもが襲いかかってくると情報が流れてからすぐにオークどもの方から竜巻が上がったんだ。

 規模は小さいものの、立派な自然災害だ。

 そして陣形を組み終わった後にはあの師団長が立っていた。

 竜巻の中から現れた師団長は、よく通る声で俺たちに語りかける。


「さぁ、仕切り直しだ!我ら新生第四師団の力を示せ!この地は過去の英霊の眠る場所!後を担う我らの力を見せつけろ!そして眠る者たちに安息をっ!」


 そう、この場所はかつて、多くの仲間が散った場所だ。

 特にあの戦いの生き残りで、何も感じない奴はいないだろう。


 そして何よりあの鼓舞するセリフ。

 テレスの砦の時も思ったが、この言い回し、そして戦場によく通る声、更には最前線に立つその姿勢まで、前第四師団長を重ねてしまうのは俺だけじゃないはずだ。


 今回も不思議な力が身体を駆け巡る。

 敵はオーク、人が1対1じゃかなわない化物だ。

 だがなぜか、負ける気はしない。


 雄叫びをあげながら俺たちは武器を構える。

 見せてやろうじゃないか、死んでいった同士達に。


 後のことは任せて安らかに眠れっ!


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