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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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第48話 エスリーの砦

 テレスの砦を落とした翌日、周辺の状況を確認する中である問題が浮上した。


「やはり、この施設は再利用が難しいですね。村の方はどうとでもなりますが、壁が壊されているのが...これでは籠城もできません。」


 ウキエさんが苦い顔をしている。

 テレスの砦は村と併設している。それはいいのだが、砦自体が2メートルほどの壁を要しており、もともとは篭城できる作りとなっていた。

 しかし、調査の結果、それが何箇所か破壊されていたのだ。

 予定通りこの砦を第三師団に明け渡しても、オークの群れが襲いかかってくれば、1日も持たないだろう。

 それでは砦としては機能していない。援軍が来るまで耐えられなければ意味がないのだ。

 しかも、補修するにも数十日はかかるだろう。


「そうなると、やはり。」


「ええ、私はエスリーの砦まで落としたほうが得策だと思います。あそこなら多少壊されていても守りやすい砦ですし、索敵もしやすい。そしてここから半日も離れていません。」


「おいおい、予定と違うぜ?」


 異を唱えたのはガレスだ。


「そんな行き当たりばったりで大丈夫なのかよ?」


「一応、最悪を考え、兵糧は十分用意してあります。なにより、今のこの勢いを殺すのは惜しい。」


「随分と準備のいいことだな。」


 ウキエさんの反論にガレスがこちらを見る。

 もとから予定していたのか?と問うような目だ。


「最悪はここの攻略が長引くのは想定していたが、さすがにエスリーの砦に目をつけるのは打合せになかったはずだ。ウキエさん、説明を。」


 再びウキエさんに注目が集まる。


「はい、ありませんでした。しかしながら、最速の予定より半日前倒していることと、残りの兵糧、兵の状態を見ても、不可能ではありません。」


「勝算は?」


「嬉しい予想外がありました。昨日の戦いですが、皆さんはどう思われましたか?」


 ウキエさんが2人の傭兵団長に話を振る。


「...完全勝利だな。」


「俺もそう思う。」


 その答えを満足そうに聞きながらウキエさんが俺の方を向く。


「ええ、ほとんどのオークを駆逐し、こちらの被害はほぼなし。相手のオークはといえば、敗走できたものはわずかでほぼ殲滅。傭兵団の方々も拍子抜けしているのではないですか?」


「それは、そうだがよ。」


「確かに、後詰といいながら俺たちはほとんどなにもしてねぇ...。」


「昼前に行軍を開始し、小休止を挟みながら陣を引けば、エスリーの砦も目の前です。もちろん、傭兵団の方々には追加で報酬をお支払いします。」


 ノリノリで進めて行くウキエさんに、その気になっていく傭兵団長。3人の視線がこちらに集まる。


「エスリーの砦の情報は?」


「大丈夫です。もともと魔軍からの攻撃には強固な砦ですが、内側からは脆い作りになっています。」


「わかった。じゃあとりあえず近くまではいってみよう。砦の様子も見ないとわからないし、ダメそうなら威力偵察ってことにすればいい。」


「すぐに支度を始めます。」


「ガレスさんとカシムさんも傭兵団の方に戻って人員のまとめをお願いします。ついてこなくてもここまでの依頼料は払うので、希望者を募ってください。」


 こうして、エスリーの砦へ行軍が決まった。


 行軍は滞りなく進み、エスリーの砦を視認する距離で陣を張る。

 まだ日は高く、昼を過ぎたぐらいか。

 遠目に見る砦はそれほど以前と変わっていないように感じる。

 砦を守る塀も健在だ。


 少し異なるのはこちら向きの門が閉められているということか。

 塀の上にはオークらしき影もあると斥候が言っていた。

 すでに敵が近くまで来ていることをわかっているのか、籠城の構えを取っているようにすら見える。

 オークがどこまで知識伝達をするのか知らないが、間違いなく警戒はしているだろう。

 勢いに任せて攻めるのは早計かもしれない...。


 ところが、攻めるかどうか軍議をと思った瞬間、兵士が急ぎの知らせを持ってきた。

 オーク達が出撃してきたらしい。

 隊列など組まず、恐ろしい速度でこちらに向かっているとのことだ。


「ウキエさん!後ろからくる傭兵団に伝令をとばせっ!戦闘の準備だ、シドっ!陣形を組めっ!」


 急いで指示を出す。

 まさか明るいうちにあちらから、それもこの距離でいきなり野戦を仕掛けられるとはおもっていなかった。普通なら様子を見る位置、タイミングも悪い。本来なら直ぐに退却できたが、ちょうど陣を組むために隊列をといた矢先だった。相手が人ではなくオークだということを失念した結果だ。俺の知識には対人の攻城戦知識しかなかった。

 おそらく乱戦になる。

 そうなってはこちらも大きな被害を受けるだろう。


 オーク達は隊列を組むでもなく、ただわらわらとこちらに向かってきていた。

 こちらの準備が整う前に襲いかかる気だ。


 魔力回復薬をいくつか身体に仕込み。

 シドに指揮を任せると、敵陣に向かって、旋駆を唱えて走り出す。


「主様っ!」


「うわっ!ちょっとまって!」


「しまった!おい、リン!グリ!急げっ!やろぅまた走り出しやがった!」


 後ろから近衛の焦る声が聞こえた気がするが今は無視する。

 思ったより距離が近い、オーク達の姿はもう表情まで視認出来る。


「風斥!鼬風!」


 無詠唱で、魔法を繰り出し、自分は昨日と同じように天駆で相手の前衛を飛び越える。

 ここで、オーク達の進行は止まった。

 注意が自分たちの中空にいる俺に向いたようだ。


「ウインドレイ!」


 敵の大将がどこにいるのかわからない。

 空から周りを見ても、守りの硬いところはなさそうだ。

 難しい命令を出さずに、ただ突撃してこいとでも言われたのだろうか。


 厄介だ。


「風爪!」


 オーク達をなぎ払いながら、そのまま高度を下げ、地上に着地する。俺を囲むようにオークたちが円になり、槍や斧を構える。


「我、古の契約に基づき、汝が怒りを顕現せん。風龍」


 槍を構えて一気に突撃しようとしたオーク達が中空に舞う。

 大きく渦に飲まれるかのように回転しながら大空高く、身を引き裂かれながら大空に舞い上がる。

 そしてある程度の高さで急に手放され、重力に沿って落下する。


 この魔法は簡単にいえば自分の周りに竜巻を引き起こす。

 自然のものと違うのは局所的で、規模が小さいということと、俺を中心に巻き起こるので、発動中は渦の中心から動けず、竜巻もまた移動しないということぐらいだ。


 これでオーク達も少しは焦るだろうか。

 シドやウキエさんは間に合ったかどうか...。

 竜巻が土埃も巻き上げるので、そのせいで周りの様子がわからない。


 息を整えて、竜巻を解除する。

 かなり距離をとったところまでオークたちが下がっている。

 竜巻に驚いたのだろうか、ちょうどオーク達と第四師団がにらみ合っている中間に俺が立っているような状況になっていた。


 予想より状況がいい。第四師団の後ろには傭兵団も見える。

 後詰のはずが第四師団に並ぶ勢いで前に出てきていた。


「我、古の契約に基づき、汝が加護を我が友へ。風の福音ふくいん


 魔力がごっそり吸い取られるようになくなるのを感じる。

 ここで魔力回復薬を打ち込み、声を張る。

本来はテレス砦で、乱戦になったとき用に用意していた鼓舞の言葉を少し組み換えて、風に声をのせる。


「さぁ、仕切り直しだ!我ら新生第四師団の力を示せ!この地は過去の英霊の眠る場所!後を担う我らの力を見せつけろ!そして眠る者たちに安息をっ!」


 俺の声に呼応するように第四師団が雄叫びを上げる。

 オークの数はざっと200。だが、エスリーの砦からはまだオークたちが湧き出ていた。

 終わりは見えていない。


 第四師団とオークの群れが俺に向かって走り込んでくる。

 両軍とも俺の先を見ているのか、俺を見ているのかわからないが、貴重な体験だとこんな状況で少し笑ってしまう。

 たぶん今回は少なからず被害が出るだろう。

 いくら風の魔法で付与をかけても正面から当たるのだ。

 オークの一撃を防げるのはせいぜい2,3発。

 それ以上攻撃をくらった兵士は倒れていくだろう。


 負ける気はしない。だが、多くの兵を失うことは今後に大きな影響がでる。

 この先も魔軍と戦う為には少しでも経験を積んだ兵士が必要だ。


 魔力回復薬がまだあることを確認し、切り札を使い切ることにした。

 走り込んでくる第四師団が僅かに早い。

 オーク側にもう一度、風斥をかけ、魔法と弓矢を封じる。

 更に鼬風を放ち、出鼻をくじいた。


 俺を避けて突撃していく第四師団。

 クインをはじめとした近衛は俺の周りに走り寄る。


「主様!先行しすぎです!少し下がってください!」


「クイン!」


 クインが俺を前線から遠ざけようとするが、それを押しとどめる。


「近衛隊。俺はしばらく動けない。警護を任せる。」


 それだけいうと、俺は周りから意識を切り離し、目を閉じてブツブツと呪文の詠唱を開始する。

 魔力を練り上げ、呪文により魔法陣をいくつも展開、更に補助魔法を同時展開し、魔力の放出力を高める。いくつもの補助魔法と、魔法陣、そして呪文によって一つの魔法を完成させる。


「範囲を絞ったほうがいいよ。たぶんいきなりそんな広範囲は見れないはずだから。」


 唯一耳に届いたのはフィーの声だ。

 この魔法はフィーに教わった今の俺の切り札。

 儀式のあと、発動の仕方だけ教わって一度も試したことがない魔法。フィーによると、風の神格者にのみ許された魔法。


 目を開けると、そこにはオーク達と刃を交わす近衛の姿があった。

 けっこう危なかったらしい。


 完成した魔法は目の前に大きな魔法陣となり浮かび上がっている。

 あとは唱えるだけだ。


神風かみかぜ


 その魔法は全てを知覚し、全てに対応する神の風。

 聖風、風爪、そして、知覚する魔法、風の眼の複合でなり立つ神を冠する風の魔法。


 発動と同時に、いくつもの情報が頭を駆け巡る。

 自分の目ではなく風を通して戦場を多角的に認識する。

 頭の中に戦場の情報が次から次へ伝わってくる。

 あまりの情報量に頭痛を起こしそうになりながら、対象を人と交戦中のオークに絞る。

 情報量が減り、更に手傷を負った兵士や傭兵と交戦中のオークに絞ると、その場所と状況が見える。

 該当は12体。

 すべてに風の刃を繰り出した。

 オークの首が宙を舞う。


 戦場の情報を集積、検索、対処を繰り返す。

 途中で魔力が底をつきそうになり、魔力回復薬を追加で使い切った。


 情報量を絞り、なるべく危険の迫った味方に加勢する。


「はい、ここまで。これ以上はダメだよ。」


 ある程度敵を散らしたところで、フィーの声と共に目の前の魔法陣が飛び散り、魔法が四散した。

 ガクっと膝をつく。


「主様っ!」


 すぐに身体を支えられた。

 身体にひどい倦怠感。そして自分の姿をみると、ところどころ血にまみれていた。

 腕も何箇所か赤黒く打ち身のように変色している。

 魔力もほとんど残っていない状況に驚くが、それ以上に自分の身体がボロボロだ。


 支えてくれたのはユリウスだった。彼女の身体も俺の血で酷く汚れてしまった。

 そのまま戦場を見回すと、周りに第四師団の兵はいない。

 いるのは近衛兵のみ。


 すでにオーク達が撤退を始めているようだった。

 たしか魔法を発動したとき、まだこの辺りは乱戦状態だったはずだ。

 今はかなり砦に近いところまで押し込んでいる。

 魔法発動中は時間間隔にズレがでるのかもしれない。


 ...考えるのは後にしよう。

 まだ戦争は終わっていない。


「リザっ!」


 それだけでわかったのか、リザは魔力回復薬を渡してくれた。

 念のため、普段からいくつか予備を渡していた。

 それを腕に打つ。今日この短時間ですでに許容量は越えてる。若干の目眩と吐き気を感じるがグッと我慢する。

 魔力が回復すると倦怠感が少し軽くなった。


「さて、後詰に行こう。」


 たった7人の後詰。

 今更、意味があるのかは疑問だ。


 だが、まだここが戦場であるなら全力を尽くすべきだろう。

 今度は自分だけ先行せず、全員に旋駆の魔法を駆けた。


ブックマークや評価を下さった皆様、誠にありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い致します。


短い話を19時にも投稿予約してます。

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