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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第1章 孤児院時代
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第5話 新しい出会い

 

「なぁ、どー思うよ?」


「いいと思うよ。」


 ゼフの問いかけに僕は素直に同意する。


「でもさ、具体的にどうするの?」


 否定ではなく、疑問を挟んできたのはイレーゼだ。


 今僕らは園の仕事をだいたい終わらせ、食堂に集まっている。

 僕とゼフ、イレーゼといういつものメンバーに、僕らの集まりを見つけたリュッカ姉さんが加わっている。


 僕らが話しているのは今朝のこと、ローラ姉さんが大怪我をして、またここで暮らすことになったということについて。正確にはローラ姉さんのことというよりは、園の経済状況についてだ。

 昼過ぎになんとなく集まると、ゼフが「なぁ、このままだとやばくないか?」と言い出した。


 この園は国の援助と寄付で成り立っている。

 そして、園長の方針で受け入れられるギリギリの孤児を養っている。余裕はない。

 なので、経営状況はいつもギリギリだ。

 ここで暮らせる年齢は決まっているので、人数を調整することはできるものの、今のローラ姉さんの状況が園にとって良くないことは分かる。

 だからといって、ローラ姉さんを追い出すことはできない。

 園長はもとより、現在の園のみんながお世話になった人を追い出すなんて発想は元からない。

 なら、ローラ姉さんの分ぐらい働けばいいんじゃないかというのがゼフの意見だ。

 それに対して疑問を挟んだイレーゼだが、対案があるわけじゃないようだ。

 年長者に相談していないのは、卒業を控えた年長者はみんな王立学園や職人など自分の目指すもののために勉強をしている。意外と自由な時間が多いのは僕らのような中間の年代になる。

 なのでなるべく僕らで解決できないかと相談しているのだ。


「いや、普通に成人前でも雇ってくれるところあんだろ?荷物運びとか、小間使いみたいやつ。そりゃー賃金は安いけどよ。安くてもないよりマシじゃねぇか?」


「確かにそうだけど、園長の許可がとれると思う?」


 それは…と口ごもるゼフ。


「園にいる間に、あまり仕事とかした子はいないとおもうわよ?私も花屋さんをお手伝いすることはあるけど、あれは花屋のおばあさんが高齢だからたまに手伝ってるだけだし…。」


 いつの間にか仲間にはいっていたリュッカ姉さんも難しい顔をする。


「それなら社会勉強とか、知り合いの手助けとか、適当にごまかせないかな?」


 僕の案にゼフが明るい顔を向ける。


「それいいな!それなら許可とれそうじゃねぇ?実際に姉さんは手伝いしてるわけだしよ。」


 そしてリュッカ姉さんの方を向いて手を合わせる。


「姉さん、なんとか園長に許可もらえるように話してくれねぇか?」


「確かに、リュッカ姉さんから頼んでもらった方が通りそうね。」


 ゼフとイレーゼの押しに、リュッカ姉さんは苦笑しながら「しかたないなぁ。」と了承してくれた。


「でも、仕事のアテはあるの?」


「んー正直、まだわかんねぇけど、外で何度か募集してるのみたから大丈夫だと思うぜ。とりあえず俺とアレイフで探そうと思うんだ。」


「じゃあ、私は2人の分、園のことをしたらいいのね。」


「そういうことだな。アレイフ、とりあえず午後から街にでて仕事さがそうぜ。」


「そうだね。数日中にできそうな仕事を見つけて園長に相談しよう。」


 こうして、昼から僕とゼフが街に出かけることになった。

 イレーゼは僕らの分まで、園のことをしてくれるらしい。


園を出て、町の賑やかな方へ向かう途中、僕は疑問に思っていたことをゼフに聞いた。


「なんで、今回みたいなことを思い付いたの?」


「ん?仕事のことか?」


「うん。園の状況が厳しいのはわかってたけど、そのために働こうなんて考えてなかったよ。」


「いや、正直自信なかったからお前らに相談したんだよ。レーゼやお前のが頭いいからな。」


「そんなことは…。」


「それによ。ローラ姉さんだって肩身狭いだろ?金のこと気にしなくてよくなれば、少しは気がらくになるんじゃねーかとおもってな。」


そういってゼフはニヤっと笑った。

たった1つしか違わないのに、それでも自分と比べるとゼフは立派な兄なんだと改めて実感した瞬間だった。来年には僕もゼフのように気がまわる兄になれるだろうか…。


「ん?どうした、惚れ直したか?」


じっと見ていたのがバレたのかゼフが今度はポーズ付でキメ顔をつくった。


「てっきりゼフはリュッカ姉さん狙いだと思ってたよ。」


「ぶほっ!」


盛大にむせるゼフ。

照れ隠しのひとことは大打撃を与えたらしい。


「お前からまさかそんなこと言われるとはな…だが、間違いじゃねぇ。本命はリュッカ姉さんだが、リュッカ姉さんがダメならローラ姉さんと添い遂げてぇ…いやむしろ二人ともと…。」


真面目な顔でブツブツ考え出すゼフ。

さっき見直したのが台無しだった。


「…綺麗な人なら誰でもいいと?」


「男は皆そうだろ?夢は美人ハーレム!…アレイフは違うのか?」


「どうだろう…少なくともローラ姉さんやリュッカ姉さんは家族って感じで、幸せにはなってほしいけど、自分がどうこうとは思えないかな。いい人と結婚してほしいなとは思うけど。」


「それは例えば俺ってことか!?」


「…はいはい。頑張ってハーレム目指してー。」


「投げやりだな…まぁ、おまえはレーゼがいるからな。ハーレムなんか考えたら…命にかかわるな。」


「…レーゼ?なんでそこでレーゼが?」


「確かに美人なんだけどなぁ~性格が…ていうか沸点が低すぎるんだよな…。おまえ確実に尻にしかれるぞ?」


「いや、だからなんでレーゼが?」


「お前とレーゼって付き合ってるんだろ?知ってるぜ。」


「いや…付き合ってないけど?」


「隠すなって。皆知ってるし。おっと、そろそろだな。さっき言ったけど、割りのいい仕事はすぐとられちまうからなっ。手分けするぞっ!お互いいい仕事見つけたらあとで情報交換なっ!」


「え、ちょっと、何その情報!?ていうか皆って!?」


 何も答えずゼフの背が遠くなっていく。どういうことだ?

 レーゼと自分が付き合ってる?確かに仲がいいのは認めるけど、それはゼフも同じはずだ。

 ていうか、皆って誰!?

 僕はこのあとモヤモヤした気分のまま、仕事を探すことになった。


 いくつかある広場の広告を見る。

 この南区では仕事や求人募集の張り紙などがまとめてある「ボード」と呼ばれる壁がいくつも点在する。

 そこを順に見て、年齢問わずなど自分でもできそうな仕事を探すのだ。


「ねぇーこれなんていいんじゃないかな?」


 フィーが嬉しそうにボードに貼ってある募集を指差す。


『傭兵団 銀鷲 経験者歓迎、年齢不問、面談、試験あり』


「いや、傭兵って…年齢不問でも無理だよ。」


「えーだって不問って書いてあるんだから、面談と試験さえ通れば合格じゃないのかい?」


「…それ以前にこんな子供雇わないよ。」


 僕は誰が見てもわかるぐらい大人しそうな普通の子供だ。いや、実際そうなんだけど、ゼフのようなガッシリ系とは無縁なんだ。


「でも、君なら魔術師としての実力は間違いないよ?」


「いや、そういう物騒なのじゃなくて、荷運び…は、力仕事だから書類整理とか、皿洗いとかそういうのをね。」


 さすがに、後で園長に許可をもらわないといけないので、危ないことはできない。


『荷運び募集 15歳以上、10日間短期 成功報酬』


『魔術教師募集 王立学園卒業者のみ 最大雇用期間1年 条件は要相談』


 それでもやっぱり子供でもできるような仕事はなかなかみつからない。歳はごまかせないこともないけど、そもそも子供ができる仕事ってどこにあるんだろう…ゼフのいってたボードってこれとは別なんだろうか。

 フィーは自分の意見が通らずに不満そうに腕を組んでいる。

 僕はフィーを無視して、ボードの書き込みを順に見ていくが、なかなかいい条件のものはなく、並んでる次のボード、また次のボードと進んでいく。





◼️別視点です。


「ねぇ、あの子変なの。」


 目深くフードをかぶった少女が、他の2人を呼び止める。


「変?…あの小さい子のこと?」


「うにゃ?」


 同じくフードを目深にかぶった少女と、革の鎧を着込み、腰に2本の剣を指した剣士風の女性が振り返った。


「ほら、あの子。」


 ボードの前で、仕事を探しているのだろうか、まだ成人していないだろう少年を指差す。


「仕事を探してる?変なところはニャさそうだけど。」


「仕事って、あんなに小さい子が?でも、それ以外は普通ね。何が気になるの?ララ。」


 ララと呼ばれたフードの少女は少年をジッと見つめている。


「精霊が騒いでるの。いや、懐いてるの?どっちにしてもやっぱり変なの。」


「あちしには、変に見えにゃいけど、そんな気になるのかにゃ?ライラには変に見えるのかにゃ?」


 ライラと呼ばれた剣士風の女性は首を横に振る。


「いや、私もミアと一緒で普通の子供にしか見えない。あの年で仕事を探しているのは気になるけど、身なりも普通だし、おかしいところはないかな…。」


「そう…ごめんなさい。じゃあいいの。先を急ぐの。」


 ララはそういって目線をライラとミアの方に向けた。

 しかし、そこにはライラしかおらず、ミアの姿はない。


「あれ?ミアは?」


 その問いにライラが苦笑いしながら指をさす。

 先程ララが見ていた方へ




◼️アレイフ視点に戻ります。



 ボードを見ていると突然、怪しい人物から声をかけられた。


「やぁ!少年。お仕事を探しているのかにゃ?」


 声に振り向いてみると、フードを目深に被った…少女?が声をかけてきた。

 身長と声の感じから自分と同年代か、少し上ぐらいかと思われるが、フードを被っているのでかなり怪しい。

 僕の訝しげな目を気にせずフード女は続ける。


「実は!にゃ、にゃんと!ちょうどいい美味しい仕事があるにょですよ!」


 …あやしい。


「どうかにゃ?これからにゃんだけど、ちょーっと、街を出て、ささっと草をとって戻ってくるだけの簡単なお仕事にゃのです!」


 ……更にあやしさが増す。


「し~か~も!それで銅貨1枚プレゼンッツ!」


 ………破格すぎて関わってはいけない気しかしない。


 銅貨1枚あれば、僕らなら1日暮らせる。

 本当に近くの草をとってくるだけなら破格すぎる報酬だろう。…街から出るっていってるから首都の外にでるってこと?詳細はわからないけど、依頼人が簡単だというのをそのまま信じる人はいないも思う。


 手をブンブン振り回しながら、勧誘していくるフード女に、僕は冷たく告げる。


「すいませんが、お断りします。」


「にゃんですとっ!?」


 僕の冷静な断りを予想していなかったのか、フードの少女は大げさに仰け反ったまま固まってしまった。

 そこで、怪しいフード女の後ろからこっちに駆けてくる2人組が見えた。

 1人は剣士風の女性、もう1人はフードで顔は隠れているが、体つきからしてこの怪しいフード女と同じくらいに見える。


「すまない。連れが失礼なことをしたようで。私はライラ・サミー。こっちはララ。」


 剣士風の女性が苦笑しながら自己紹介してきた。

 フード女とちがって、僕みたいな子供にもちゃんとした対応をしてくれている。


「僕はアレイフといいます。すいませんが、真面目な仕事を探しているので、これで失礼します。」


 怪しいフード女の連れということで、「真面目な」というセリフを強調した上で、すぐに去ろうとしたがそれは、さっきまで固まっていたフード女に阻止された。


「ちょっと待つにゃ!仕事を探してるにゃ?こんな美味しい仕事、他にはにゃいよ?」


「怪しすぎるから嫌です。」


「にゃんですと!?」


 また固まるフード女。

 ライラさんが苦笑いしながら説明してくれた。


「すまない。こいつはミアというんだけど、ちょっと常識にうとくてね。荷運びの仕事をしてくれる子を探していたんだ。今すぐに行きたいから無理を聞いてくれるなら銅貨1枚出すけど、どうかな?」


 仕事が急だから報酬が高い?

 それなら納得できる?いや、ボードをみた限り、それでも相場よりは高そうだけど…。僕は考えながらララと呼ばれた少女を見る。

 さっきから睨まれているような気がするのだ…。


 やっぱり断ろうかと悩んでいると、珍しく人と話しているところにフィーが割り込んできた。


「大丈夫だと思うよ。ついていっても。」


 僕は声に出さず、問いかけるように見つめると、フィーが胸を張る。


「3人とも悪い感じはしないし、お金を稼ぐなら確かにいい条件だと思うんだ。ここは話に乗ってみるべきだとボクは思うよ?」


 なぜかやけに勧めてくるフィーが気になったが、それが決め手になった。



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