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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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影に潜むもの

 仕事にも慣れ、砦奪還への進行を前に少し余裕がでてきた。

 今では1日に数時間自由な時間ができる。

 といっても、それほど長い時間自由になるわけではないので、兵舎にある本を読んだり、近くを散歩したりする程度だ。


 午前中の仕事を終え、少し自由な時間ができたタイミングで、ふとウキエさんがこちらの顔を凝視していることに気づいた。


「ん?なに?」


「...いえ、最近きちんと寝てますか?」


「寝てるけど...なんでそんなことを?」


「いえ...クマが。」


「クマ?」


 ウキエさんの言っていることがよくわからない。

 するとちょうどお茶を運んで来ていたはくがどこからともなく出した手鏡をこちらに見せてくる。


「はい。目の下を見てください。ウキエ様の言う通り、酷いクマですよ?」


「...そうかな?」


 鏡を見てもよくわからない。


「あまり眠れていないのですか?確かに仕事でとれる睡眠時間は少ないですが。」


「いや、夜は普通に寝ているつもりだけど。」


 ウキエさんの心配を否定しておく。

 本当に心当たりがないのだ。

 確かに、最初の頃はきつかったけど、最近ではあまり苦にならなくなってきている。


「えーっと、ちょっと待ってくださいね。」


 そういうと、はくはまたどこからともなく、メモのようなものを取り出し、中をめくりながら声に出して中を読む。


「例えば...昨日ですが、朝は日が昇る前に起床し、部屋で瞑想。朝食を取ったあと、執務室にて執務。この日はいつもより遅かったらしく、昼過ぎまでかかりました。昼食は兵士たちに混じって食べ、昼食後はクインさんを伴い散歩。帰ってからは資料室にこもって歴史書を読み、そこからまた執務室に戻って夜まで仕事。深夜になって仕事を終えたあと、お風呂に入ってから部屋で読書し、就寝。今日の起床時間を考えると少し睡眠時間が足りない気がしますね。」


 メモから顔をあげ、こちらに睡眠時間が足りていませんともう一度言い直すはく

 だが、そうじゃない。それより気になることがある。


「なんで俺の行動を完全に把握している?」


 そう、おかしいのはそこなのだ。もちろん昨日、はくとも何度か会ったが、ずっと一緒にいたわけじゃない。クインだってそうだ。少なくとも、寝る前に部屋で読書しているとき、周りに誰もいなかった。


「とりあえず、ウキエ様、師団長様は少々睡眠不足のようです。少しお休みも必要なのではないでしょうか。」


「えーっと、そうですね。今日の仕事は大したものではないので、昼からお休みにされてもいいですよ?」


 なぜだろう、俺の質問がスルーされた。

 もう一度聞いてみる。


はく、どうやって俺の行動を把握している?そのメモは?」


「これはマル秘メモです。あ、誰にも見せませんから安心してください。部屋で独り言をつぶやいていることや、お風呂でうたた寝して溺れそうになってしまったことなんてバレたら威厳に関わりますからね。」


 ...独り言ってまさか、フィーと話しているときのことだろうか?にしても、風呂の中の出来事まで知っているなんてやっぱり変だ。


「ウキエさん、使用人ってこういうもの?」


 念のため聞いてみる。

 するとウキエさんはブンブンと首を左右に振った。


はく、頼むから仕事をきちんとしてくれないか?」


「何か勘違いされていませんか?私は普段から屋敷の掃除などのメイドの仕事をきちんとこなしていますのよ?」


「...そのメモはどう見ても俺を監視していないとできないと思うのだが。」


「何言ってるんです?私は師団長付のメイドから報告を受けているだけですよ?」


 師団長付?そんなの聞いたことがない。

 というか、メイドが俺に付き従ってることはこれまでなかったはずだ。


「俺付き?そんな話きいてないが...。」


「あれ?いってませんでした?すいちゃんは師団長付きのメイドをしていますよ。」


「...聞いてないぞ?というか、そういえば屋敷ですいを見たことがほとんどない気がするが。」


「何いってるんですか?今もそこにいますよ。」


「...は?」


 俺は周りをキョロキョロと見回した。

 ウキエさんとはくしかいない。


 (はく)の顔を見直したが、からかっているわけではなさそうだ。

 なので。もう一度周りを見渡した。周りに隠れられそうなところはやはり見当たらない。

 ウキエさんに目できいたが、首を左右に振られるだけだった。


「あれ?すいちゃんから聞いてないんですか?」


「なんのことだ?」


すいちゃん、言ってなかったの?」


 そういうと、はくは俺の足元に向かって話しかけた。

 正確にいうと、俺の足元にできた影に向かって話しかけている。


 すると突然、影がまるで水のように波打ち、中からゆっくりと赤い髪が見えてきた。

 しゃがんだ状態のまま水から浮上するように現れ、立ち上がる。


「...言い忘れていました。」


 すいが小さな声で答える。


 ...嘘だろ...影からなんか出てきた。

 俺がウキエさんを見ると彼も驚いているようだ。どうやら俺と同じで本当に知らなかったらしい。


 人の影から出てきた本人は立ち上がり、前で手を組む。

 あいかわらずの無表情だ。


すい...いったいいつから?」


「...いつとは?」


「例えば今日ならいつからそこに?」


「...昨日からです。」


「ずっといたのか?」


「はい。」


 なんてことだ...聞けばすいはかなりの高確率で俺の影に入りっぱなしだそうだ。

 それこそ食事をしていて食堂から出てこない間や、トイレなどに入るとき以外はずっと影の中にいたらしい。

 酔っ払って帰れなくなった時に、すいが俺の居場所をどうやって見つけたのか謎がとけた。

 彼女はいたのだろう。

 あの酒場に、正確には俺の影に入った状態で。


「これは...魔法か?」


「んーそうなんですけど、種族特性の魔法ですね。私はあまり得意じゃないので、すいちゃんみたいにずっと潜ったままなんてことはできません。」


 俺の質問にははくが答えてくれた。

 これは種族特性といわれる魔法で、他の種族には習得不可能な特殊魔法らしい。

 影の中に潜み、暗殺を行う魔法だそうだ。


 気配や魔力、臭いまでも完全に消すことができるため隠密性がすさまじいいが、制約もある。

 選んだ影の中から移動ができないらしい。

 生き物の影ならその生き物が動けば移動もできるが、建物の影なら移動ができない。

 移動する場合、一度影から完全にでないといけないらしい。


 そして魔力がつきると、無条件で影から放り出されるらしい。

 中というのがどんなものなのかわからないが、真っ暗な柩に入っているような感覚とのことだ。

 ちなみに、影の中から外は見上げるような形で普通に見え、音も普通に聞こえるらしい。

 本当に便利な魔法だ。


 すいは使用人になってからほとんど俺の影の中にいたらしい。

 どおりで屋敷の中で合わないはずだ。


 なんの為に潜んでいたのか聞くと、用があるときすぐに駆けつけるためらしい。

 もっともらしいことを言うが、これには矛盾がある。

 影に潜んでいることを知らない俺が、どうやってすいを呼ぶというのだろう。

 本人に伝えると、「以後気をつけます。」という返事が帰ってきた。

 ...影には潜むつもりらしい。プライバシーがなくなるので、できたらやめてほしい。


 とりあえず、無断で影に潜るのを禁止して、昼からは自由時間を満喫することにした。

 昼寝も悪くないかもしれないが、とりあえず、屋台が立ち並ぶところに行こうと思う。

 密かに常連になりつつある肉串屋に行ってからどこに行くか考えよう。


 そろそろドミニク園に顔を出したほうがいいかもしれない。

 仕事も一段落したし、いい機会な気がしてきた。


 ぐっと伸びをし、屋台へ向かう。

 途中またもや俺の影に入ろうとしたすいと、護衛と言いながら屋台へ行くのが目的のイチを撒いて外にでる。

 いい天気だ。

 何をお土産に買おうかな。と鼻歌を唄いながら歩き出した。



年内はこれで終わりです。

皆様良いお年を。


ブックマークや評価頂き、誠にありがとうございます。

とても嬉しく、励みになります。

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