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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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第43話 皇帝から命令

何か今日のPV数が今までで一番多い。休みに入った人が多いからかな?

嬉しい限りです。なので予定繰り上げて投稿します。

「それで結局何人残ったんです?」


 隣を歩くウキエさんに質問しながら手元の資料を読む。

 馬車がかなり揺れるので、読みにくい。


 第四師団を辞めたいやつは昼までに!といったが、受付が昼ギリギリで大混雑していたため、結局その日いっぱいまで延期することになった。

 それが昨日のことだ。


「武官は...82名ですね。半分以上が辞めたことになります。」


「結構残ったんですね。」


「そうですか?ちなみに残ったのは歴の浅いものがほとんどですよ。入隊1年未満とか。まぁ何人か幹部だったのものいますが、中隊長が1人と小隊長が数人ですね。」


「えっと、小隊長が10人ぐらいをまとめる人で、中隊長が100人ぐらいをまとめる役割でしたっけ?」


「その通りです。最低人数で、ですけどね。まぁ、要するにほとんどの隊長クラスは辞めたことになりますね。」


「まぁ仕方ないですよね。ということは、ウキエさんの言っていた副官も辞めたということで?」


「カム・テイルという方なんですが、真っ先に私に辞表を突きつけてきましたよ。その時に、お前ごときに軍が回せるかっ!といわれました。」


「それは...見返さないとですね。というか良かったんじゃないですか?部下との関係でギクシャクしなくて。」


「勘弁してください。」


 ウキエさんが頭を抱えている。

 心労をかけているのはわかっているが、もう少し我慢してもらわないと困る。


「で、文官と使用人の方は?」


「文官は、辞めたのが数人だけですね。ほとんど残っています。今残っているのはほとんど私の部下ですし、師団長も顔見知りばかりのはずですよ?」


「あれ?それだと全然少ないんじゃ...。」


「そうですよ?知りませんでしたか?文官はほとんど2年前に辞めているのでそもそも足りていません。」


「なるほど。」


「大丈夫ですよ。そんなに人数はいりませんから。10人も雇えば十分です。できれば文官の公募は私に任せてくれませんか?変な人が来ても困りますし、少し伝手があります。」


「了解です。よろしくお願いします。」


 手元の資料に目を通すと、割り当てられた予算と、経費などの支出が一覧になっている。


「使用人は?」


「0です。」


「全員辞めたと!?」


「いえ、辞めるものがいませんでした。」


「...びっくりした。」


「すいません。使用人は元々国仕えじゃありませんからね。それにトップが変わったことでむしろ期待されています。」


「期待?どういうことです?」


「この2年でかなり使用人も辞めましたから、残っていたものはトップが変わったぐらいで辞めませんよ。それに今までより待遇が良くなるという期待の方が大きいと思いますよ。」


「それはどういう?」


「あの粛清でだいぶクズは排除しましたからね。あの頃より悪くなることはないだろうと。」


「なるほど。」


 資料に目を通し終え、わからない部分などをウキエさんやその横にいる文官に質問しながら処理していく。過去にかなり叩き込まれたけど、実際にやってみると全然違う。お試しと実務の違いは大きい。それにまだまだ覚えることも、仕事も多い。


「そろそろ着きますよ。」


 御者から声がかかった。

 彼も使用人に分類されるので辞めずにいてくれた者の1人なんだろう。


 資料を文官に渡し、馬車の窓から見えてくる王宮にため息をつく。

 ...忙しい。




 王の間には皇帝と宰相、そして第三師団長のイスプール・ヘイミング伯爵が待っていた。


「遅くなって申し訳ございません。アレイフ・シンサ。参りました。」


 皇帝陛下に向けて跪き、礼をする。

 左後方では後ろからついてきていたウキエさんが同じように膝まづいていた。


「ラクにしてかまわん。どうだ?師団長になった気分は。」


「...忙しいですね。覚えることやすることが多すぎます。あと、師団の再編も手こずりそうです。」


 予想通りの答えなのか、陛下がニヤリと笑う。


「そうか、まだまだ再編には時間がかかるか、ならばヘイミング卿には感謝しなければならないぞ?」


「そのことでお願いがあるのですが...。」


「南区の治安をもうしばらく第三師団に見てもらえないか。というのか?」


「その通りです。」


 先にこちらの要件を言い当てられて少し驚いたが、ヘイミング卿も呼ばれているのだからそういうことなんだろう。南区の治安維持を行うには兵が足りない。それはすでにお見通しということだ。

 皇帝陛下に許可をとってからヘイミング卿にお願いする必要があったので、手間は省けた。


「よかったな。シンサ卿、実はヘイミング卿の方からもうしばらく南区を管轄したいと申し出があったところだ。」


「ヘイミング卿からですか?」


 予想外だ。第三師団は国軍最大規模とはいえ、他人の担当地区まで管理する余裕があるようには思えない。

 面倒事を頼むのだから、陛下から先に許可をもらってお願いしようと思っていたのに。


「驚くことではないでしょう?シンサ卿。民のことを思えば、貴殿の師団が形をなすまで、他の師団がフォローするのが当然のことです。」


「それは...誠にありがとうございます。」


 どうやら驚きが顔に出ていたようで、ヘイミング卿が笑いながらこちらに声をかけてきた。

 国軍師団長唯一の文官で、シュイン帝国の頭脳とまで言われる稀代の軍師。

 男性なのに綺麗な黒髪、長髪。見た目はきつそうに見えるが、表情が豊かでとても接しやすい雰囲気を醸し出す人だ。


「あの、何を差し出せばいいのでしょうか?」


「おいおい、そういうつもりはないよ。それにシンサ卿。自分から条件をふっかけてくれなんて言うものじゃない。交渉でそれはタブーだ。完全降伏だよ?」


「すいません。ご忠告ありがとうございます。」


 言われてみれば確かにそうだ。親切な指摘に素直にお礼を言う。

 すると国王が大きな笑い声をあげた。


「ヘイミング卿、それぐらいにしておけ、シンサ卿はまだ学びの最中だ。それに条件が良すぎて何か要求されると思うのも無理はない。」


 改めて、ヘイミング卿の方を向き、礼をする。


「ヘイミング卿。ありがとうございます。最低でも半年はお願いしたいのですが大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だよ。1年ぐらいまでなら管理してもいい。新任の訓練にちょうどいいし、君と仲良くしておくのは私にとっても有益だしね。師団としての体制ができてきたら徐々に移行していこう。」


「ありがとうございます。」


 話がついたのを見計らって、皇帝陛下が咳払いをする。


「ちなみに、ワシがお前を呼んだのは別件なのだがな。」


 国王の方を再び注視する。


「1年はヘイミング卿が南区を見るといっているのだ。お主は軍の再編がある程度形になった時点で、郊外の砦をいくつか取り戻して欲しい。」


「砦をですか?」


「お主も知っておろう?2年前、エスリーの砦まで後退し、オークどもをなぎ払ったのは良いが、それから徐々に勢力を伸ばされ、今はエスリーの砦、そして更に帝国に近いテレス砦まで陥落しておる。南の最前線はヒアの砦という小さな砦だ。そしてそこが陥落すれば1日もかからずこの帝都の門にたどり着くだろう。」


「進軍して取り戻せと?」


「少なくともエスリーの砦までは取り戻してもらいたい。」


「砦2つは落とさないといけないということですね。」


「そうなるな。そのための臨時徴兵も許可するし、戦時金も出そう。なるべく早くに兵を集め、進軍してもらいたいのだ。」


 国王の命令はかなり難しいものだ。

 現時点で兵力と呼べるものがほとんどいない。

 100人に満たない新兵程度の兵と、実力未知数の近衛数名。

 相手の戦力次第とはいえ、かなり厳しい気がする。


「これには理由があるんだよ。」


 考えていると、ヘイミング卿が説明してくれた。


「前の第四師団がエスリーの砦で戦い、壊滅に近い打撃を受けたが、援軍が間に合い、何とかエスリーの砦は守りきれた。けれどその後でどんどん後退することになったからね。住民の不安は募る一方なんだ。帝都に乗り込まれるなんてことになるんじゃないかってね。だから新生第四師団に早く目立つ功績を立てて国民を安心させて欲しいんだよ。」


 どうやら第四師団としてはやらなければならない依頼らしい。

 なるべく早くというのがどれぐらいのものなのかわからないが、第四師団としての最初の課題となりそうだ。国王の方を向きなおり、正式に命令として受け取る。


「砦の奪還の件、確かに承りました。なるべく早くに体制を整えます。可能であれば、現時点でわかっている魔軍の情報を教えて頂けますか?」


「それは私の方から提供するよ。少し時間がほしいから後日うちに取りに来てくれないかな?」


 ヘイミング卿が笑顔で情報提供を受けてくれた。


「わかりました。」


「そうだ。美味しい紅茶があるから良ければ少し時間を作ってくれないか?」


「...?ええ。かまいませんが...。」


「ついでにうちの妻と娘も紹介しよう。世間話でもしながら親交を深めようじゃないか。」


「はぁ...。」


 途中からおかしな話になってきた。

 ヘイミング卿が更に何か言う前に、皇帝陛下が咳払いをし、退出を許された。

 ウキエさんとともに退出する。


 ヘイミング卿は皇帝陛下とまだ何か話があるらしくそのまま残る。

 まだ話したいことがあったのか、ヘイミング卿が少し残念そうな顔をしていた。


 馬車に戻り、待っていた文官からまた資料を受け取り、目を通す。

 今度は近衛隊の設立関連資料らしい。


「どう思う?まともにいくなら、正直今の兵力じゃ全然足りない気がするんだけど。」


「...同感ですね。」


「なるべく早くにといってたし、少し無理して...いっそ、俺だけで乗り込んで、後詰めに兵を使うというのは?ここにかいてる規模なら、なんとかなるかも。」


「1人でですか?...確かに貴方の魔法なら魔族でも人間でもさして変わらないでしょうし、可能かもしれませんが、散り散りに逃げられたり、捕虜や、保護すべき者がいた場合に困りますね。」


 確かにウキエさんのいうとおり、俺だけでも砦自体はなんとかなるかもしれないが、100名以下の兵で、むしろ戦った後のことをなんとかできるか怪しい。

 しかも、砦を落とす毎に兵数は減るはずだ。死者や怪我人だけでなく、その場を警備するもの、補給路の確保、伝令と帝国から遠くにいくほど人員がいる。


「なるべく被害は少なくしたいところですからね。貴方中心で砦を落とすのはかまいませんが、それでも足りませんし、何より出陣の姿を民に見せて安心させる必要があります。100人未満では...ちょっと。」


「臨時徴兵とかいうのをかけるのは?」


「...正直あまり集まらないと思います。やらないよりはいいので、即対応しますが、期待薄かと。それよりは傭兵を雇っては如何ですか?戦時金も出すといっていましたし。」


「傭兵を?」


「師団長も傭兵時代に参加してますよね?第四師団は昔から他の師団に比べて、人数の少ない少数精鋭部隊でしたので、傭兵団に協力を仰ぐことも多かったんですよ。」


「それは傭兵団に依頼を出して、討伐を手伝ってもらうということですか?」


「ええ、師団長の所属していた銀鷹と、もうひとつ、赤獅子という2つの傭兵団にはよく依頼していましたね。傭兵団の団長と前師団長が旧知の仲だったそうで。」


「カシムさんと前の師団長が?」


「えぇ、知りませんでしたか?なんでもどちらの傭兵団長も前師団長に世話になったらしく、よく共同戦線を張ってたんですよ。」


「知らなかった。」


「前師団長が亡くなった時も...2人の傭兵団長は自分たちが参加しなかったことを悔やんでおられました。以降は付き合いがなくなりましたが...どうですか?少なくとも後詰めとして依頼すれば、兵力の面は解決かと。しかも、なるべく早くという話も守れます。」


「...そうですね。その方向でいきましょうか。とりあえず、ヘイミング卿からの情報と残った兵の練度を見ないとですね。」


「わかりました。」


「にしても、本当に仕事が多いですね...。」


「...全くです。」


 馬車の中でウキエさんとともにため息をついた。

 ウキエさんは俺以上に泊まり込みが長くなるだろう。


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