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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
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第40話 影の功労者

<Ukie>


「このあと、レイは半日ほど眠り、国王と面会しました。」


 記憶石の再生を終え、私は説明を続ける。

 全員がショックを受けているようだ。

 ...無理もない。


 目の前で家族が変貌し、そして殺されたのだから。

 これでもレイを恨むのなら、もう私から止める方法はない。


 見れはアフの姉達はお互いに抱き合い、涙を流している。

 マウの妹はあまり表情が変わらない子だとおもったが、その頬には涙の跡があった。


 さて、一番問題なのはサイの家族たちか。

 一番年上、サイの兄はじっと目を閉じて何かを考え込んでいる。

 レイに殴りかかった姉の方は膝をつき、呆然としているようだ。

 残りの3人は...無表情に私の説明を聞いている。


「そして、レイは皇帝との契約で第四師団長として国に仕えることが決まっています。今日のうちに帝国の各領主や責任者には周知されており、ちょうど明日の昼前に国民にも周知されます。そのあと貴方達は奴隷の身分から解放されます。」


 誰も反応しない...。

 少しレイの株を上げておこうと考え、私は契約内容を少しだけばらすことにした。


「レイが皇帝に出した条件はいくつかありますが、貴方達に関係するのは3つです。1つは貴方達の奴隷身分の解放、そして犯罪歴の抹消。更に、いくらかの金貨が支払われます。2つ目は他種族の迫害禁止の条例。国王による他種族迫害の禁止を条例として名言してもらいます。そして最後ですが...この儀式に細工をした者を炙り出し、裁く権利です。」


 全員が私の方を向く。


「見ていてわかったかと思いますが、今回の儀式は何者かに細工を施されました。簡単にいえば失敗させられたのです。確かに元々失敗の危険性はありました。4人のうち誰かは今回のようになっていたかもしれません。それでも3人が変異し、変異を免れたレイも身体に不調を訴えています。儀式としては最悪の結果です。その主犯はもちろん実行犯を逃す気はありません。」


 私の声に最初に反応したのは意外にもアフの姉だった。


「犯人を見つけることはできるんですか?」


 私は包み隠さず、その可能性を示すことにした。


「レイは風属性の使い手です。この帝国では彼の右に出るものはいません。風属性には探索や痕跡を辿る魔法もあります。おそらく今頃レイは探索を始めているはずです。」


「...今?」


 膝をついたまま、サイの姉が反応した。


「ええ、皇帝陛下と契約を果たし、彼は真っ先に貴方達の保護に動きました。明日の朝には式典があるのでそれまで少しでも多くの手がかりを捜すつもりでしょう。」


 ちょうどそこに、レイと共に捜査にあたっていた部下が飛び込んできた。


「ウキエ様!急ぎの報告が!」


「なんですか?」


 驚きつつも、平静を装い対応する。


「...レイ様の探知の結果ですが。」


 部下は言いにくそうにしている。部外者がいるからだろう。


「構いません。ここにいるのはその報告を聞いても問題ない方々です。」


「では。改変された魔法陣の変更時間から人物を割り出し、レイ様が追跡を行った結果、カルミナフ子爵邸につながりました。そこから外に出た形跡はないようで...こちらから捜査の協力を申し出たのですが通らず拒否されました。それで...止めたのですが...。」


「...押し通りましたか。」


「...はい。私は門が破壊されるのを確認してからここに通達を。」


 ...カルミナフ子爵。

 たしか特定派閥には所属してはいないものの、元商人の家系からか、独自の商業ルートをもっており、その資金力は南区でも5本の指に入る貴族だ。派閥に入っていない貴族ではかなり有力な人物のはず。私兵の数も質も国に目をつけられないギリギリのラインだった...目に見える戦力だけならば。

そこを押し通りましたか...そうですか。


 ある程度、歯止めがきかないのはわかっていましたが...貴族家に押し入るとは。

 私は痛み出してきた両目の奥をねぎらうように眉間に指を当てながら指示をだした。


「...とりあえず、第三師団に連絡を。捜査権と証拠がある以上、問題はありませんが無駄に騒がせる結果になるかもしれません。」


「はっ!それでしたら問題はありません。捜査を始める段階で、第三師団副官のフリー・リー様が同行しておられるので、すでに第三師団周知の上です。屋敷の捜索も第四師団、第三師団連名での正式なものとなっています。」


 さすがです!

 私は心の中だけで、第三師団の副官を賞賛した。

 第三師団の副官は何人も知っているが、フリー・リーという名は聞いたことがない。

 改めて、有能な副官として記憶しなおすことにした。

 街の自治権がある第三師団の副官の中には他師団との連携を好まないものもおり、あからさまに邪魔をする無能者もいるのだ。


「さて、そうなると数時間後には本人の確保も可能かもしれませんね。早い段階で動けたのがよかったようです。」


「はい、レイ様の迅速な行動の賜物です。」


 ...迅速。

 いや、今回は偶然だ。

 怒りで頭に血が登っているみたいだが、現時点でレイを無理矢理でも止められる歯止めがいない。

 これは...今後の課題になりそうだ。


「あなたはこのことを王城にも知らせてください。緊急度は下げて構いません。」


「はっ!了解致しました。」


 敬礼し、出て行く部下を見送りながら、私は周りを見渡した。

 私と部下の会話をじっと聞いていたのだろう。

 視線は私に集まっている。


「一つ聞いてもいいだろうか。」


「なんでしょう?」


 それまで私に対してはずっと無言だったサイの兄が口を開いた。


「サイレウスと...いや、死んだ3人と生き残ったレイ殿の関係は貴方から見て、どうだったのだろうか?」


 この質問は私にとって予想外だった。

 しかし、レイに敬称をつけているところや死んだ3人との関係を聞くのには理由があったのだろう。

 ...ここは正直に話しますか。


「私から見れば彼らは友人ではなく...家族のようでした。たった2年と少しの間でしたが、レイとマウなら弟と兄のように。レイとアフは逆に兄と弟のように。そしてレイとサイは...あの2人は私から見れば双子のように息がぴったりでした。性格は全く違うのに、お互いの考えがわかるような動きをすることがよくあったと思います。コンビを組ませれば最強。ただ止める人間がいないのであまり組ませることはありませんでしたが...。」


 彼らを指揮していた頃を思い出し、自然と口元がにやけてしまう。

 ジャレあう彼らが目に浮かぶようだった。


「マウとアフ、サイとレイの組み合わせがバランスもよく効率はいいのですが...どうしてもこのペアで組ませるのはリスクが高くて。都市内でこの組み合わせはほとんどありませんでしたね。」


 昔の話がどんどんでてくる。自然と私はいろんな話を語っていた。


 レイやサイが何度も大食い勝負をマウに挑んだ話。

 アフが姉自慢をしてサイと自慢合戦になった話。

 マウが何げに3人のうち誰かを妹の婿にしようとしていた話。

 サイが騙されて誰もが引くほど深い落とし穴に落とされた話。


 はっと気づいたのは頬を涙がつたった時だ。

 私は無意識に涙を流したらしい。

 私は「すいません。」といいながら涙を拭うと、自分の感情を正直に告げる。


「貴方達、血のつながりのある本当の家族の前で言葉にするのはおこがましいのですが...私も...いえ、私達もまた、たった2年と少しの間でしたが...大事な家族を...失った気持ちです。」


 私の後ろからも鼻をすする音が聞こえる。

 部下達もいつの間にか感傷に浸ってしまったらしい。

 あの4人は契約があったとはいえ、私達と良好な関係を築いていた。

 仲のいい文官も1人や2人ではなかったはずだ。

 私はもう一度、昔話を聞かせてしまったことを謝罪した。


「...ありがとう。十分だ、ウキエ殿。」


 サイの兄は何を思ったのか、私にも頭を下げ、押し黙った。

 私は気分を落ち着け、彼らにこれからの話をしなければならない。


「さて、これからの話ですが、明日奴隷身分の解放及び、いくらかの金貨をお渡しします。そのあと、どうしたいか希望を教えてください。まだ考える時間がほしいなら部屋を用意します。どこかに行きたいなら途中まで送りますし、帝都に住むのは...お勧めしませんが、場所と仕事を用意します。聞きたいことがあれば、私か、後ろにいる部下に聞いてください。答えられる範囲で答えます。」


 そのあと、いくつか質問に受け答えしていると、遠くの方からドタドタと足音と、何か揉めるような大声が聞こえてきた。


 足音と声がだんだん大きくなっていく。


「お願いですから、手当を!血止めだけでもお願いします!そのまま動いては!」


「そうです、すぐに済みます!だから簡単な手当だけでもさせてください!」


 声が近づき、この部屋の扉がバン!

 と開け放たれる。


「ウキエさんっ!」


 入ってきたのはレイだ。

 だが私は顔をしかめてしまう。

 その姿は、一言でいえば血まみれ。

 ローブのほとんどが赤黒く染まり、血と思われる赤い雫がポタポタと落ちている。

 フードは取れ、髪も赤黒く染め、顔にも血を付けた状態のレイが私の方に大股で近づいてくる。

 返り血なのか、本人の血なのかはわからないが、私の部下が2人、必死の形相で治療を促していることから無傷というわけではないのだろう。

 この姿のままカルミナフ子爵邸からここまで歩いてきたのだとすれば、明日には恐ろしい逸話が街中に広まっていることだろう。


 治療を促す必死な部下を無視しながら私の眼前にせまったレイが大きな声で告げた。


「ウキエさんっ!トーマという人物の詳細を教えてくれ!可能であれば探知に仕える物品も借してほしい!すぐに!」


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