表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第3章 国軍時代
42/204

第32話 仮面との対話

 玄関で頭をフル回転させるチルにウキエは再度、笑顔を向けながら声をかけてきた。


「すいません。イレーゼさんかローラさんはいらっしゃいますか?」


 その声にはっとなったチルが答える。


「はい。すぐに呼んできますので、よろしければ上がって頂けますか?」


「それはありがとうございます。では、上がらせて頂きますね。」


 これも予想外。

 まさかあっさりと上がってくるとは...。手紙のことを知らない?あれはアレイフがライラに託したもの、ならその可能性も...。チルは案内しながら、彼らの様子を見て思案していた。


 ウキエ・サワはニコニコしており、後ろの2人は仮面のせいで表情はわからないが、1人は長い棒?を布でくるんで持っている。

 もう1人は大きな袋を重そうに前に持っていた。武器を持っている様子はない。ワッカーの情報ではウキエ・サワは武芸に秀でているわけではないはずなので、実質護衛は棒をもった仮面の男のみ。

 そしておそらく仮面の大男が金貨を運んでいる。

 まさか一人で運んでくるとは考えていなかったが、人数が少ないのは好都合と分析しながらもチルは丁寧に3人を先導した。


 3人を食堂に通し、椅子を進めると、ウキエは座ったが、残り2人は立ったままだ。


 ここでチルが奥に待機しているイレーゼを呼びにいく。

 捕獲パターンは3つ目、食堂の入口に団長、そして窓側にライラとミア、そして私とララがイレーゼを庇いつつ正面で取り囲む作戦でいくことをこの時までにこちらの様子を見ている仲間にハンドサインやあらかじめ決めていた暗号でチルが伝えていた。

 そして、イレーゼ、ララ、ミア、ライラ、そして最後にチルが来たのを見て、ウキエが眉をひそめた。


「すいません。お取り込み中でしたか?」


 友人同士で集まっていたのかと誤解しているようだ。

 ウキエの前、机をはさんでイレーゼが座った。


「大丈夫ですよ。ウキエさん...でしたよね?お久しぶりです。」


「そうですね。イレーゼさん、あなたとは2年ぶりですね。」


 ウキエが笑顔を向ける。

 イレーゼの表情は少し強ばっていた。


「もう契約書は受け取りましたか?」


「はい。」


「ですか...。では、マウ。」


 マウと呼ばれたウキエの後ろに控えていた仮面の男が持っていた袋を机に置く。


「金貨300枚です。お手間をとらせますが、ご確認頂けますか?」


「...アレイフはどこですか?」


 イレーゼは金貨の方を見ず、ウキエを睨みつける。


「すいません。お教えできません。」


「...なぜですか?」


「機密事項です。」


「無事なんですよね?」


「それも、私からは何も。」


 ウキエを睨む、イレーゼの目が厳しくなる。


「とはいえ...一応私が来たのにも理由はあります。嘘の契約書の件は謝罪させてください。」


 そう言うとウキエは頭を下げる。


「謝罪はいりません。どうせあのバカが考えたんでしょう?今、どうしているかだけでも教えて頂けませんか?」


 ウキエは頭を下げたまま、言葉を続けた。


「申し訳ありません。それは言えない規則です。同様に生死に関してもお伝えすることはできません。」


「いつ教えてもらえますか?」


「...教えることはできません。」


 ウキエは頭を上げ、イレーゼの潤んだ瞳を見つめる。


「例え、生きていても、死んでいても、契約が破棄されるまでは何も教えることはできません。」


それはほとんど教えないと言っているに等しかった。何故なら本人が死んだ場合、契約の破棄は行えない。そしてそれ以外で契約主が破棄を許すとは思えない一方的な契約。

 その言葉に、イレーゼが立ち上がり、後ろに下がった。

 チルとララがイレーゼを後ろに隠すように前にでる。


「チッ。」


 舌打ちはウキエの後ろから聞こえた。

 金貨を持ってきたのとは別の仮面の男が布を取り払り、槍を肩に担ぐ。


「囲まれてるな。」


 窓際のライラとミアが立っており、食堂の扉からはカシムが顔を出した。


「...なんの真似ですか?」


 椅子に座ったままウキエは食堂の入口に現れたカシムに問いかけた。


「いや、なに。ちっと情報がほしくてな。協力してくれねぇか?」


 カシムがニヤっと笑う。


「やはりですか...あなたの目的はなんですか?」


 ウキエがカシムを睨む。


「おいおい、今言ってたろ?アレイフの情報。知ってんだろ?」


 その言葉にウキエがカシムの方をじっと見つめる。


「...本当にそれだけですか?」


「何言ってやがる?」


 眉間にシワを寄せたカシムを見て、ウキエがイレーゼの方を見た。


「もしかしてですが、あなたは脅されているのではなく、主犯の1人ですか?」


 イレーゼが無言でウキエを睨む。

 それを見て、ウキエは椅子に深く腰を落とし、笑い出した。


「サイ、我々の勘違いのようです。槍を収めてください。」


「いいのか?」


「ええ、それにここで暴れるわけにはいかないでしょう?」


「...それもそうだな。」


 そういうとサイと呼ばれた仮面の男は槍を再び布に巻きだした。

 その姿に、カシムやチルは眉を寄せる。


「さて、落ち着いて話しませんか?逃げたりしませんし、少し誤解があったので譲歩しようと思います。」


 席に着くよう進めるウキエ。

 今度は護衛のはずの仮面の2人にも離れて席に着くよう指示をだした。

 敵意はないと示す為だが、これにより、全員が席に着くことになる。


「まずは謝罪します。実はあなた方を抵抗勢力だと思い、そちらのイレーゼさんが利用されているのかと思っていました。」


「それで、わざわざ仮面を連れて、あなた本人が出向いてきたと?」


 睨むイレーゼの変わりにチルが聞く。


「はい、餌は大きいほうがいいでしょう?」


「あんた、そんなに恨みかってるのか?」


「いえ、私がというよりは...。」


 そういうと、ウキエは後方に座る仮面の2人組をみる。


「あの2人の上司に当たるから狙われやすいと?」


「ええ、私はひ弱な文官ですし、見せしめに狙われることが予想されていましたので。実は私のことを調べている連中がおり、その連中がこの施設に入り浸っていると情報がありまして...。」


「あの野郎...。」と唸るカシム。ウキエの周辺を調べたことが逆に疑いを呼んでしまったことに気づいたのだ。


「一応、国の機密ですからね。そう簡単に探られても困ります。」


 ウキエが苦笑する。

 彼なりのフォローなのだろう。


「でもまさか、イレーゼさんが主犯の1人とは思いませんでした。我々の想定では、あなたは利用されているだけだと思っていたので。」


 そういうとウキエは笑顔をイレーゼに向ける。

 それでも、イレーゼは睨むことをやめようとしなかった。


「少しだけならお話できますよ。」


 ウキエのその言葉に、イレーゼが口を開く。


「生きているんですか?」


「ええ、元気ですよ。」


「何をしているんですか?」


「詳細は言えませんが、私の下で働いてもらっています。」


「...会えませんか?」


「それはできません。」


「仮面の一人ですか?」


「いえません。」


「手紙や伝言はできませんか?」


「機密の関係上、それもできません。」


 ウキエとイレーゼが再びにらみ合う。

 しばしの沈黙を破ったのは、意外にも端の方で話を聞いていた槍をもった仮面の男だった。


「伝言ぐらいいいんじゃねぇか?」


 その言葉に、隣に座っていたもう1人の仮面の男も追従する。


「あいつは俺たちと違い、自由には会えないのだぞ。」


 その言葉に、ウキエが少し考える素振りを見せるが、「私にもそんな権限ありません。」と、ため息をついた。


「じゃあ、こうしようぜ。俺らの前で言いたいことを言えよ。そしたら俺とマウが帰ってから独り言として呟いてやる。独り言が聞こえても問題ないだろう?」


「仕方ありませんね。」とウキエも苦笑している。


「てことだ。伝えたいのはあんただけか?なんて伝える?」


 仮面の男…サイと呼ばれた男が、イレーゼの方へ近づいてきた。





 そして夕方。

 王城の一室には、仮面をつけた4人が報告の為に集まっていた。

 椅子に座って、仮面を置く、彼らが仮面を外すことが許される限られたスペースだ。

 順に報告を行う。といっても、この日、上司のウキエと別行動をとっていた2人の報告だけだ。

 大した内容でもないので、すぐに終わる。


 ここでいつもなら解散となるはずが、ウキエはサイに話しかける。


「さて、これで終わりですが、サイ?」


「あぁ、そうだな。ちっと独り言を呟きたい気分だ。」


「...どうしたの?」


「独り言?」


 サイのおかしなセリフにマウが小さく笑い、アフとレイが首を傾げる。


「えっと、猫娘が「いつ帰ってくる?」と、ハーフエルフが「みんな寂しがってる」あとは...。」


 ウーンと悩む仕草のサイ。


「元上司とやらが「任務完了。」団長とやらが「園のことはまかせろ」と。」


 マウが助け舟をだす。


「あーそうだった。それと、幼馴染が、「嘘つき!覚えてろ!」って言ってたぜ?」


 サイがニヤっと笑う。

 笑顔を向けられ、意味がわかったのか。


「......ありがとう。」


 会議室に噛み締めるような静かな声が響いた。


ブックマークありがとうございます。

もし可能なら、評価や意見もくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ