第30話 依頼完遂
私は久しぶりに、この場所を訪れた。
約2年ぶりだろうか?
いや、間に何度か団長を捕まえ...いや、迎えに来たので実質1ヶ月ぶりぐらいか...。
まったく、団長のおかげでいらない仕事がかなり増えた。
会合や打ち合わせ、その度に団長不在の理由を適当にでっち上げ、頭を下げる。
まったく、イイ歳して恋煩いもほどほどにしてほしい。
さっさと告白して、白黒はっきりつければいいものを...。しかし、もし合意されれば更に仕事をしなくなる可能性もある...。
早く告白してフラれてもらえないだろうか。
まぁ、今日はそんな駄目な団長を連れ戻しに来たわけじゃない。
今日はある依頼を完遂する為にこのドミニク園に来た。
時間はもうすぐ夕方。
”ちょうど”2年だ。
時間に正確な私は建物の外で夕方の鐘が鳴るのを待つ。
たしか、これを受け取ったのは鐘が鳴った後だった。
だから鐘がなってしばらくしてから届けなければならない。
私は顔見知りの依頼だからといって手を抜くことはしない。
依頼を了承し、報酬を受け取ったのだから完璧にこなさないといけない。
そして、夕方の鐘が鳴る。
私は鐘が鳴り終わり、周囲が店じまいをはじめるのを確認してから、その門をくぐり、扉を開けた。
「お届けものです。」
声をかけてすぐに、中からバタバタと足音が聞こえて来る。
「はーい。」
そういって出てきたのはイレーゼという子だった。私も団長のせいでここによく出入りしているので、顔見知りもすっかり増えた。
「あれ?ライラさん、どうしたんですか?お届け物?」
「ああ、依頼されてね。」
「えっと、誰にです?」
「うん、園長さんに届けものだ。」
「えーっと、園長は実は最近帰らないことも多くて...とりあえず上がってください。」
そういうと、イレーゼが私を中に招き入れる。
園長が帰っていないとはどういうことだろうか?ここの責任者のはずじゃ...。
いつも通り、食堂に通される。
とりあえず、椅子に座りながら私は園長のことを聞くことにした。
「帰ってないってどういうことだい?」
「それが...なんていうか、元々お酒が好きな人だったので...。余裕ができてからというものすっかり。」
「それは...まさか、彼の仕送りのお金で飲んでるんじゃないだろうね。」
「あ、それは大丈夫です。仕送りと国からの援助金は私とローラ姉さんが管理してるんで、園長は自分で稼いだお金で出かけてますから。今だと園長が稼いだお金は少しでやっていけるので。」
イレーゼが困ったような顔を向けてくる。
その表情でだいたいわかる。どうやら園内でもかなりもめているらしい。
知らない中ではないので、あまり揉めるようなら関わらないことはないが...。
「もし、困ったことがあったら気軽に相談してほしい。私も一応は大人だ。」
「ありがとうございます。カシムさんもそう言ってくれました。」
そうか、あの男も頻度が下がったとはいえ、まだここに通っているんだった。
まさか、あの団長と揉めたせいで園長が家に寄り付かなくなったなんてことはないだろうな。いや、まさかな...。
「えっと、届け物ですよね?代わりに預かりましょうか?えっと何か受け取った証がいりますか?」
「いや、それは必要ない。」
園長がその調子ならイレーゼに渡した方がいいだろうと、私はアレイフから預かった封印付きの筒を取り出す。
「園長が駄目なら君か、ローラさんに渡すようにと言われている。」
「私かローラ姉さんにですか?誰から?」
「アレイフからだ。」
「アレイフからですか!?」
イレーゼが驚いた声を上げると、遠くからドタドタと大きな足音が近づいてくる。
「アレイフから手紙が来たのかにゃ!?」
ミアだ。なんだ、来てたのか。
にしてもたぶん広間にいたんだろうけど、よく聞こえたものだ。
ミアがすごい勢いでイレーゼの隣に並んだ。
「なんて書いてあったにゃ?」
「ちょっとまって。ローラ姉さんやララも連れて来て。それから開けましょう。」
「わかったにゃ!」
そういうとミアはまたドタドタと走っていった。
たぶん呼びにいったんだろう。
ララも来ているらしい。
しばらくたって、ミアとララ、そしてローラさんと…なぜ団長がいる。
「いや、今来たらなんかタイミングよかったみてぇだな。ていうかライラ、お前そんな手紙いつ預かったんだよ?聞いてねぇぞ?」
なんて都合のいいタイミングで。
「そんなもの言う訳ないでしょう。依頼として2年後に渡すように言われたんです。もし報告していたら2年も経たずに団長が、そうでなくてもミアかララが中身を見ようとするでしょう?」
「そ、それは...。」
私の問いに3人とも目をそらす。
アレイフ、私に依頼した君は正しかったよ。
私は心の中で、元部下を賞賛した。
「で、何がはいってるんだい?その筒。」
「じゃあ、開けますね。」
気を取り直してイレーゼが筒に施された封印を剥がし、筒を開ける。
中には丸められた紙が入っていた。
無言で紙を広げていくと、それは2枚の紙に分かれる。
大きな紙は契約書。もう1つの小さな紙は短い文面ですぐに読み取れた。
みんなまず、その小さな紙に目が行く。
『嘘をついてごめんなさい。 アレイフ』
書かれていた文字はとても短文。
「どういうこと?」
そうイレーゼがつぶやく。
「まて!なんだこの内容は!」
契約書の方を見ていたんだろう、団長が大きな声を上げる。
ローラさんも目を見開いていた。
私も契約書の内容を読む。
序文や細かなものもあるが、団長が声を上げた内容はこれだろう。
・契約者のすべての権利を契約主が持つ。
・契約者はいかなる場合(生命の危険がある場合)も、契約主に服従を誓う。
・本契約により、契約主は金貨2枚を毎月契約者が希望する人物に届ける。
・上記希望者はドミニク園のイレーゼ、ローラ、フーリ・カーリのいづれかを対象とし、明記順に連絡を行う。
・上記希望者が受け取れない状況となった場合、ドミニク園の経営者または年長者が受け取る。
・本契約が可決後2年と10日後、上記契約者が希望する人物に金貨300枚を届ける。
・本契約は契約者と契約主が合意した時のみ、解除できる。
これは...以前見た奴隷契約に似ている。
金銭の授受があるので少し違うが、要するに、契約主に金で命を売ったということだろう。
「嘘でしょ。」
ローラさんが呻く。
私もそう思う。こんな一方的な契約、報酬は破格だが、まさか命を売る契約とは。
そもそも契約した本人は支払われるかどうかわからない。一方的に不利だ。
「ちょっと待て、なんだこのサイン。」
団長のセリフに、契約主の欄を見る。
そこには『アイク・ルクトル・フォボライマ』と書かれていた。
この街に住む者なら知らないわけがない。皇帝の名前だ。
要するに、この契約書はアレイフが皇帝に命を金貨で売るという契約書になっている。
「そんな。じゃあ、あの時見た契約書は...。」
ガタっと立ち上がったイレーゼはどこかに走り去り、すぐに1枚の紙を持ってきた。
それにも契約書とある。
内容はかなり違うが、雇用契約のようで、契約の相手は『ウキエ・サワ』となっていた。
所属は第四師団だ。
「...わざわざ2年後に渡せってことは、こっちは偽物ってことか。このウキエってやつもグルだったんだな。」
「2年と10日後ということは私が2年後に届けるのも見越してってことですね。」
イレーゼとミア、ララは呆然としていた。
それはそうだ。
国軍に入るだけだと思っていたら、この契約書は命左右するものになっている。
現在生きているか、死んでいるかすらわからない上に、生きていても帰ってくる可能性は低い。
それこそ、契約者と契約主が同意し、契約を解除しない限りは。
そして、こんな有利な契約を契約主が普通は解除しないだろう。
「やべぇな。2年もたってると、このウキエって奴も簡単に連絡がつかなくなってる可能性があるぜ。」
団長が苦い顔をする。
やめてください。泣かす気ですか!?
と目線で訴えたが、気づいてくれない。
「ていうか、この2年ってやっぱりあれか?当時13、4歳のガキの考えることじゃねぇな。」
そう、私もそれは思いました。
けど今は禁句です!周りを見て!
睨むが、まだ気づかず団長の演説が続く。
「...2年ってどういう?」
俯いたままイレーゼが団長に聞く。
肩が震えている。声も絞り出すような声だ。
団長、ダメ!答えたら...。
私の思いも虚しく、団長(空気が読めない奴)はそのまま話しだした。
「いや、俺ら傭兵はやっぱ死ぬってことも一般人よりは身近なわけよ。それでもちろん弔いはするんだけどよ。死んだ奴のことは忘れねぇ!あいつの意思は継いでやる!って思っても、だいたい2年ぐらいで忘れて昔の思い出みたいになっちまうっていう2年目の法則があるのよ。」
団長が空気に気づいた時にはもう遅かった。
イレーゼは涙をこらえるように俯き、ローラさんはそのイレーゼさんに寄り添った。
ララとミアが団長を睨みつける。
2年目の法則。あの第四師団と関わった戦いの時に、死人も出たからもしかしたらあの子も知っていたのかもしれない。
なんて声を掛けようかと思った矢先、大きな声が響いた。
「絶対!見つけ出す!」
涙を流しながら、歯を食いしばるイレーゼ。
鼻にシワを寄せ、肩を怒らせている。
みんながその豹変ぶりに驚いて彼女を見る。
「ふざけやがって!いっつもいっつも勝手に決めて!そもそも嘘つきすぎなのよ!何もバレてないと思ってたの!?馬鹿にしすぎじゃない?こちとらずっとあんたと一緒に育ってきたんだ!」
イレーゼが地団駄を踏む。
...え、こんな子だっけ。
「黙ってればいい気になって!もう許さない!ミア、ララ!とりあえず10日後に来て!金貨を渡しに来たやつをとっ捕まえるわよ!」
「は、はいなの!」
「わ、わかったにゃ!」
勢いに負けたミアとララがピシっと返事を返す。
「カシムさん!」
「な...なんだ?」
団長も勢いに押されてる...。
「ウキエ・サワって人を捕まえてほしいんですけど、依頼料いくらですか?」
「え...っと、どうだろうな。そもそもいまどこにいるか...。ていうか、国軍の要人だと捕縛するわけにもいかねぇし。」
「いくらで捕まえてこれますか?」
イレーゼが団長に詰め寄る。
...断れる雰囲気じゃないな。
団長、どうするんだろうと私がなぜか他人事のように見ていると、ローラさんが止めに入ってくれる。
「イ、イレーゼ、さすがにどこにいるかもわからない人を探すのは...それにいくらでもってそんなにお金は...。」
「10日後に300枚金貨が手に入ります。それよりかかるなんてことないでしょ?」
「そ、それはそうね...。」
ローラさんでも止められなかった。
「で、どうなんです?」
イレーゼがさらに団長に詰め寄った。
「いや、少し待ってくれ、とりあえずそのウキエ・サワだっけ?そいつの身元調査からするから、捕まえる...は置いといて渡りをつける方向でどうだ?手付金はいらねぇ。明日からでも洗ってみるぜ?」
「...明日から?」
イレーゼの目がすっと細まる。
「...わかった。今日帰ってすぐに動こう。」
「本当ですか?」
「あ、あぁ...神に誓う。」
イレーゼがぐっと近づき、ボソっと小さな声でつぶやいた。
「嘘ついたら、ローラ姉さんに二度と合わせませんよ?」
ギリギリ私にも聞こえたが...今、団長の目の色が変わったのを確認した。
きっと団長は今日すぐにたまり場に戻ると大声で諜報担当のワッカーを呼び出し、無理矢理にでも依頼をねじ込むだろう。
たしか、今朝何かの依頼が終わったばかりとかで寝不足だと言っていたはずだ。
「では、行動しましょう。あの偽善者をとっちめるために!」
豹変したイレーゼに私達は完全に主導権を奪われていた。
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