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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第26話 別れと転機2

あまり読み返さないので誤字指摘とか本当に助かってます。

ありがとうございます。

 園へ向かう道の途中でウキエさんと合流した。

 園長に話をするには僕だけでは信じてもらえない可能性があるのでウキエさんに同行をお願いしたからだ。


 ウキエさんとはあれから何度も合い、結局いくつかの条件を追加してもらって同意した。

 条件はともかく、契約する相手に直接会うことができたことで、僕はウキエさんの言葉を完全に信じた。

 後は僕が身の回りを整理し、正式な契約をして、国軍についていくだけだ。


 園に着き、園長の元に向かう。

 あらかじめ話があると伝えてあったので、園長はきちんと部屋で待っていてくれた。


 ウキエさんに国軍でスカウトしたいという内容の話をしてもらい、更に訓練のために数年は帰れないこと。

 本人の希望で国から園に毎月いくらか仕送りをすること。

 すぐにでも国軍の訓練に出て欲しいことを伝えてもらった。


 僕は園長の顔色を見ていたが、意外にも園長は喜んでくれた。

 やっぱり本当のことをいわなくてよかった。


 最後まで嘘ばかりついたことを、密かに心の中で謝る。

でも、最後になるかもしれないし、できれば笑顔で送り出してほしい。


 その夜、ウキエさんが帰ったあと、園で夕食をとった時に、園長からみんなに説明があった。

 ローラ姉さんやイレーゼが僕の方を見て何か言いたそうにしていたけど、年少組に泣いてしまった子もいたので、あやすのが大変だった。


 翌日、朝早くから僕はウキエさんと約束していた場所で待ち合わせをし、馬車に乗り込んだ。

 最終確認と契約がこれからある。

 そのために城まできてほしいと言われ、ウキエさんに従って、馬車で城にむかっている最中だ。


「私が言うのもなんですが、本当によかったのですか?」


 ウキエさんが僕の方を見て問いかけてきた。

 僕は笑って、「ありがとうございます。」とだけ伝える。


 城に着き、通された部屋には、僕の契約主がすでに席について待っていた。


「お待たせしました。」


 ウキエさんが声をかけ、僕の契約主の少し後ろに立つ。


「座りなさい。」


 男性に促され、僕も椅子に座った。


「契約内容は本当にこれでいいのかね?」


 ウキエさんと詰めた契約書がそこにはある。

 僕は中身をさっと確認し、内容が合っていることを確認する。


「はい、間違いありません。」


「では、調印しよう。これは魔法的な契約となる。破った場合は相応のペナルティが課せられることも知っておるな?」


「はい。」


「では...。ウキエに従って調印しよう。」


 そういうと、ウキエさんが僕等の間に立ち、呪文を唱え始めた。


「...契約者、アイク・ルクトル・フォボライマ、その血にて契約書に名を記せ。」


 小さなナイフで指から血をだし、それで名前を記載していく。


「...続いて、契約者アレイフ、その血にて契約書に名を記せ。」


 僕も同じように、親指から血を出し、契約書に名前を記載した。

 記載を確認し、ウキエさんの呪文が続く。


「ここに血の契約が成立したことを宣言する。コントラクト!」


 契約書が一瞬、激しく光を放った。

 汗を拭いながら、契約完了ですとウキエさんが伝えてくれる。


 これは命をかけるレベルの正式な契約魔法らしい。

 契約違反した場合、その相手に命の危険を伴う罰則が与えられるという。

 正直、この契約が本当に説明された通りの効果があるのかは確認しようがない。


 僕が契約について信用したのは、目の前にいる相手。

 それが、先日見たこのシュイン帝国の皇帝だったからだ。


 そう、僕の目の前には、本来一般人が一生会うことがない、遠目に見ることすら稀なはずの相手が座っている。この帝国の皇帝、アイク陛下と国民に呼ばれている相手だ。


 はじめて会った時、思わず「え?本物?」と声に出してしまった。

 城に来たのも始めてなら、まさかそんな大物と合うなんて...。葬儀のときに顔をみていなかったらなかなか信じられなかっただろう。

 僕の反応を見た皇帝はニコリと笑って、今回と同じように僕に椅子を進めた。

 そして、驚くべきことに、いきなり僕にむかって頭を下げたのだ。

「どうか、国のために協力して欲しい」と。

 僕も、もちろんウキエさんも頭をあげてくれるよう頼んだが、皇帝は頭をさげたまま僕にあやまった。


「ワシは国民の...未来ある若者の将来を犠牲にすることを恥ずかしく思う。」


 その姿を見て、僕は相手を信用してしまった。

 契約が終わると、ウキエさんから1枚の紙が渡される。


「これが条件の1つ目、偽の契約書です。」


 僕が要求した1つ目の条件だ。

 これには雇用契約のようなことが書かれている。

 要するに園長に見せるためのものだ。


「明日からだったな?」


 アイク陛下が僕に問いかけた。


「はい、明日からよろしくお願いします。」


「しばらくは会えなくなる。今日は帰って少しでも家族と過ごすがよい。」


 陛下は僕との会話の中で終始、2度と会えないとはいわなかった。

 前になぜ成功前提で話すのかときいたら、眉を寄せてた顔で、「成功するに決まっている。私がそれを信じなくてどうする?」と質問を返されてしまった。


「では、送っていこう。」


「はい、ありがとうございます。」


 偽の契約書と、2枚ある本物の契約書のうち1枚を受け取り、僕は城を後にした。





 馬車から降りると、僕は1年以上通った傭兵団のたまり場に顔を出す。


「聞いたぜ!国軍だってな!大出世じゃねーか。」


「出世したら俺を雇ってくれよ?」


「5年たったら婿にもらってやってもいーわよ?」


 僕の顔を知ってる人達が、笑顔で迎え入れてくれた。

 激励やお祝い、または冗談に笑顔でお礼を返しながら目的の人物を探す。


「ん?ミアとララなら部屋に引きこもってるぞ。呼んでこようか?」


 僕の目的の人物、ライラさんはカウンターで寝ているナットさんを引き起こそうとしていた。


「いえ、ライラさんにちょっとお願いがあるんですが。」


「私に?」


 不思議そうな顔をするライラさんに、僕は封印を施した筒と銀貨1枚を渡す。


「これは?」


「正式な依頼の手続きを取る暇がないので...これを明日からちょうど2年後に園に届けてくれませんか?」


「この筒は...?」


「中にはちょっとした手紙が入ってます。一応封印してますけど、開けないでくださいね?」


「園の誰に届けてほしいんだい?」


「そうですね...園長にお願いできますか?もし何か理由があって園長が無理ならイレーゼか、ローラ姉さんに。」


「了解した。確かに受け取ったよ。」


 ライラさんは笑顔で自分の胸を叩いた。

 僕が知る中でもっともちゃんとした、信用できる相手だ。

 特に報酬が発生した場合、ライラさんは必ず責任を果たしてくれる。


「ところで、いつから行くんだい?」


「明日、朝には城に向かいます。」


「ずいぶん急だね、まいったな。ミアやララと仲直りする時間はないか...。」


「はい...できれば、仲直りしたかったんですが...2人には申し訳なかったと伝えてください。」


「わかった。けど、休みに帰ってきたら、ちゃんと自分でも言うんだよ?」


「...はい。もちろんです。」


 僕が笑顔を向けると、ライラさんも「よし!」と笑ってくれた。

 それから他の傭兵団員の人達にも一通り挨拶し、僕は酒場を後にした。





 園に戻ると、イレーゼが待ち構えていた。


「どういうこと?」


 こちらを睨んでいる。


「どうって、就職のこと?」


 僕が苦笑いすると、イレーゼが詰め寄ってくる。


「本当に?成人前よね?しかも園にお金を入れるって?」


「ほ、ほら、これ。」


 そういって僕はウキエさんに渡された偽の契約書を渡した。


 簡単に要約すると、次のようなことが書かれている。

 ・2年間は訓練、教育が必要となるため、自由な外出、外部への連絡は許可されない。

 ・訓練後は通常の幹部候補生とし、国軍に配属となる。以降は国軍規定の雇用契約に属する。

 ・上記拘束時間の給与は支払われるが、2年後まとめて本人に支給する。うち金貨2枚は毎月契約者が希望する人物に届ける。

 ・上記希望者はドミニク園のイレーゼ、ローラ、フーリ・カーリのいずれかを対象とし、明記順に連絡を行う。

 ・上記希望者が受け取れない状況となった場合、ドミニク園の経営者または年長者が受け取る。

 ・契約者が訓練中の怪我、病気により契約を続けられない場合、その時点でこの契約は解消される。

 ・契約者が死亡した場合、見舞金及び、それまでに支給された給与はすべて契約者が希望する希望者(上記参照)に相続される。


「ちょうどいいから、もっといてよ。」


 イレーゼが契約書を吟味している。


「ずいぶんと、有利な条件ね...月に金貨2枚も?」


「そうだね。助かるよね。しかも2年たったら普通の国軍だから。」


「2年...その頃には私も卒業してるわね。」


「...そうだね。」


 イレーゼは僕の目をじっと見てからため息をついた。


「嘘よ。...私この園に残ろうと思うの。」


「園に?」


「うん、学校も興味あるんだけど、まずは園の方がちゃんとしないと気になって勉強に集中できないし。」


「その...ごめん。」


「ゼフもアレイフも出て行っちゃったし、私が頑張らないとねっ!」


 そういうとイレーゼはニコッと笑顔になった。

 嘘ばっかりついてるな。僕は。


 その日はちょっと豪華な夕食だった。

 久々にローラ姉さんや園長も食堂で、ご飯を食べた。


 これで、明日にはこの園から出ることになる。

 夜に荷物(といってもほとんどないけど。)をまとめて眠りにつく。


「ねぇ、本当によかったのかい?」


 寝る前になって、フィーが僕の耳元で囁いた。

 やっぱりフィーは反対なんだろう。

 ずっと僕を止めようとしていた。


「もう決めたんだ。」


 そういうと、フィーは溜息をつく仕草をとって、首を横に振った。





 朝、いつもどおり起きて、いつも通りイレーゼを手伝ってから朝食を取る。

 いつもと違うのはやっぱり園長やローラ姉さんがいることだ。

 みんなで一緒に朝食をとるのが昔は当たり前だったのに、今じゃすっかり珍しくなってしまっていた。

 食事の後も、ギリギリまでみんなでいろんな話をした。


 迎えの馬車が来ると、ウキエさんが笑顔で僕を迎えてくれる。


 みんなに見送られながら馬車に乗って、城へ向かう。

 後ろで手を振っている園のみんなに手を振り返しながら。


 城が見えて来た頃、聞き慣れた声が耳に届いた。

 ウキエさんに頼んで少しだけ馬車を止めてもらう。


 馬車を降りた僕の前には、元パーティメンバーが立っていた。


「勝手に解散にゃんて許さんにゃ!」


「認めないの!」


 2人は僕を睨む。

 この前パーティを解散したいと告げた時。

 ミアは何がいけなかったのかと泣きながらすがり寄ってきて、逆にララはどういうつもりなのかと、顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。

 国軍に入るからと言っても、2人には納得してもらえず、このまま一緒に傭兵団を続けたいと言われた。


「ごめん。でも、もう決めちゃったんだよ。」


 僕は再び頭を下げる。


「却下にゃ。」


「却下なの。」


 2人はプイっと逆方向にそっぽを向いてしまう。

 どうすればいいんだろう...。

 できれば、2人とは仲直りしておきたい。

 もしかすると、最後になる可能性だってあるんだから。

 僕が黙っていると、ララが口を開いた。


「民主主義的に多数決で決めたの。」


 後ろでミアがうんうんと頷いている。

 そりゃ、多数決なら2対1だろうけどさ。


「じゃあどうすればいい?」


「別に解散する必要なんてにゃいにゃ!」


「そうなの。」


「?」


 僕は首をかしげてしまう。

 解散の必要はない?


「けれど僕は国軍に行くから、数年は外出すらできないし、その後も国に仕えるから...。」


「ずっと会えないわけじゃにゃいにゃ?」


「それは...そうだけど。」


「国軍の兵士なら休みの日ぐらいあるの。」


「そ、そりゃ...まぁ。」


「なら、その時また一緒に依頼を受けるにゃ!」


「とりあえず、外出できるようになったら顔出すの。」


 どうやら2人は僕が傭兵団じゃなくてもパーティは組めるという結論に達したらしい。

 そして、外出できるようになるまで待ってくれると言っている。


 驚きと同時に、嬉しかった。


「帰ってきたら、またパーティを組んでくれるってこと?」


「何言ってるの?」


「解散してにゃいから、また組むっておかしいにゃ。」


 今度は2人が首を傾げた。

 その様子がおかしく、そして嬉しくて、自然と涙が流れてきた。


「うわっ!にゃんで泣いてるにゃ!?」


「こんなところで泣いたらだめなの。」


 2人がうろたえ出す。

 僕は涙を拭きながら2人にただ、「ありがとう。」と伝えた。


 2人は顔を見合わせてから、僕に笑顔を見せてくれた。


「アレイフの背中はあちしが守ってやるにゃ!」


「2人のサポートは私がするの。」


 本当にいいパーティに出会えたと思う。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね。しばらく待ってて。」


「早く帰ってこにゃいと、あちし達だけうんと強くにゃっておいてけぼりにゃ!」


「遅れたことを後悔させてやるの!」


 最後に、仲直り出来て良かったと思う。

 もしかすると最後かもしれない...いや、きっとまた会えるはず。

 僕はもう一度2人を振り返って、手を振った。


 馬車に乗って城に向かう。

 手を振る2人を見ながら。


「いい仲間ですね。」


 ウキエさんが僕に笑いかける。


「はい、本当にいい仲間に巡り会えました。」


「大丈夫。陛下も言っていた通り、失敗なんてしません。...させません。無事戻れますよ。」


「ありがとうございます。」


 僕はだんだん近づいてくる城の門を見ながら、仲間達の顔を思い浮かべた。


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