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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第25話 別れと転機1

 傭兵団の人たちと過ごした日々は、僕にとってとても刺激的な日々だった。

 知らないことをいろいろと教えてもらい。

 達成感や、充実感、そしてかけがえのない仲間。

 たくさんのものをもらった。


 もともと園のことしか考えていなかった僕だけど、今は銀鷹傭兵団も大事な仲間だと思ってる。

 同じパーティでずっと一緒に行動してきたミアやララ、いい仕事を紹介してくれるライラさん。

 最近ではブッチさんやチルさん、ナットさんをはじめとして、副団長の人達からも一緒に仕事をしようと誘ってもらえるようになった。

 見た目の怖そうな団員の人もいたけど、話してみると皆いい人で、ぶっきらぼうな人もいたけど、子供だからか、気遣われていることが分かった。


 学んだことも多い。朝話した人が夕方には物言わぬ死体になる。そんな不安定な世界。前世の記憶よりずっと身近にある死。

 嫌でも考える。自分が死んだ後の事。

 何より、僕が死んで不幸になる大切な人がいて、僕にはそれをどうにもできないという事実。


 魔法が使えることで僕の世界は変わった。


 フィーにもらった力だけど、そのおかげで僕には大事なものがたくさん増えたと思う。

 だから、この決断は僕にとって、とても大きなものだった。


 そう、失うものも多い。

 僕は後できっと後悔するだろう。

 けれど、それ以上に得るものがある。

 これで、もうお金の心配はしなくていいはずだ。


 傭兵団の人たちには本当に悪いとおもってる。

 義理を通さず、ただ僕の目的の為に行動することを決めてしまった。

 皆の気持ちを考えない、最悪の選択かもしれない。


 誰にも相談できない。

 したらきっと止められる。


 フィーですら止めてきたんだから...。

 だから1人で決めたんだ。

 傭兵団の人たちにはただ辞めることだけを伝えた。

 細かい話はしていない。


 ミアは泣いてた。

 ララは怒ってた。

 ライラさんは何かあるなら相談にのると優しく諭してくれた。

 団長...もうそうは呼べないか。カシムさんは何も言わなかった。

 ただ、いつでもまた帰ってこいといってくれた。


 僕にとってそれはとても嬉しい言葉だった。


 次は園に戻って、園長達に話をしないといけない。

 できればゼフの時みたいに喧嘩別れはしたくないけど、それも覚悟しないといけないかもしれない。


 園への道すがら、僕は数日前、急に来た知らせを思い出していた。





「身売りをしませんか?」


 いきなりそう言ったのは、ウキエさんだった。

 リュッカ姉さんの時に、いろいろと教えてくれた軍の人だ。

 第四師団に所属していて、前の戦闘にも参加していたらしい。

 このとき教えてもらったことだけど、エスリーの砦で師団長と話したとき、その師団長を呼びに来たのがウキエさんだったらしい。兜のせいで顔が見えず、僕は気づかなかったが向こうは気づいていたそうだ。


 その人から話があると声をかけられ、連れてこられた個室で、僕はいきなり身売りしないかと言われていた。


「...どういう意味ですか?」


「あぁ...すいません。実はとても言いにくい提案だったので、回りくどい言い方をせずに包み隠さず聞いてみました。」


 そういって、ウキエさんは苦笑いした。

 あいかわらず、子供の僕に対しても話し方は丁寧なままだった。

 悪い人では...ないと思っている。

 断言はできないけれど。


「実は、あなたに国軍へ来てもらいたいのです。」


「国軍の兵になってほしいということですか?」


「いえ、そうではなく、なんといいますか...言いにくいのですが、命を預けてほしいのです。」


 命を預ける?僕の頭にオークに向かっていった第四師団の姿がよぎった。


「兵士は皆さん命を預けているのでは?違うのですか?」


「ええ、なんといいますか、実験の被検体になってほしいのです。」


「...被験体?...その説明で、はい。って言うとおもいます?」


「...わかっています。ただ、話だけでもまずは最後まで聞いてくれませんか?全てを話すことはできないのですが...できる限りの開示させて頂きますので。」


 僕が頷くと、ウキエさんが話し始めた。


「勇者と4英傑をご存知ですか?」


「魔王を勇者と4人の従者が倒して平和を取り戻すって話ですか?昔、孤児院で話してもらった冒険譚です。」


「はい、大まかにはそういうお話です。子供に読み聞かせる冒険譚になっていますが、実はそれには元になったお話があります。」


「元になった話?」


「この国の創設に関わるお話が元になっているんです。かいつまんでお話させて頂きますね。」


 -------------

 500年以上昔、この地は魔王と呼ばれる魔族の王が治める大地だった。人々は辺境に追いやられ、見つからないように隠れ住むか、奴隷にされるかの時代。ある村から一人の青年が魔王を倒す為に旅を始めた。

 その旅は困難を極めたが4人の強者の協力を得て、魔王を追い詰め、倒した。

 その後、勇者は王となり、その荒れ果てた土地に国を立てた。

 そして勇者に従い魔王と戦った4人の強者もまた、英雄と讃えられ、東西南北でその国を支え、国は大いに発展していった。

 -------------


「実話なんですか?」


「ええ、本当の歴史書には少々脚色もあるかもしれませんが、実話です。」


 ということは、今の皇帝は魔王を倒した勇者の子孫ということ?


「大事なのは4人の強者です。彼らはそれぞれ火、水、風、土の属性を自在に操る神格者という者達だったそうです。」


「神格者...ですか。」


 聞き覚えがある...たぶん、神格者って現在でいう神子とかのことだ...。精霊に認められた人達だったんだろう。


 僕のつぶやきをどうとったのか、ウキエさんは話を続けた。


「神格者とは神のごとく属性に精通した使い手だったそうです。今のシュイン帝国の4つの区画をそれぞれ守る貴族。すなわち国軍の第一師団から第四師団はその子孫ということになります。」


 僕はチラっとフィーの方を見た。

 フィーは何も言わない。

 もし話が本当ならフィーは知ってるはずなのに。


「まぁ現在は血も薄れ、名残は家紋に残っている程度ですがね。」


 フィー、精霊と対話ができるということはウキエさんにはバレていないはずだ。

 一瞬、ウキエさんがアルスさんと同じような目を持っているんじゃともおもったけど、フィーのことに触れないところを見ると、そういうわけじゃなさそうだ。


「第四師団が壊滅的な打撃を受けているのはご存じですよね?」


「はい、号外で見ました。」


「残念ながら師団長も帰らぬ人となりました。しかし、魔軍からの進軍はあれで終わりとはいえません。」


「...え?」


「これはここだけの話にして頂きたいのですが、魔族に大きな動きがあります。次はもっと多くの部族が戦争を仕掛けてくる可能性もあります。」


「それは...。」


「もちろんまだ先の話ですが。その対策は打たねばなりません。」


 そこでウキエさんは手を組み、真剣な顔で僕を見た。


「ここからの話は他言しないと約束してくれますか?」


「...はい。」


「実は神格者を作り出す儀式があります。まだ研究段階ですが、その儀式で神格者を作り出し、魔軍に対抗しようと考えているのです。」


「儀式をすれば作り出せるものなんですか?」


「正直、わかりません。実はもっと長い年月をかけて研究や実験を行う予定だったのですが、その時間がなく、なんの保証もないまま実験にちかい形で儀式を行うことになりました。」


 それは...すごく危ないことなんじゃないだろうか。

 そして、その話を聞いている僕も危ない気がする。


「実は10名ほど候補者を洗い出し、個々にお話させて頂いているのですが、アレイフさん、あなたもその候補者となっています。」


「僕がですか?」


「はい、包み隠さず正直に言います。この儀式は最悪命を落とす可能性があり、また成功する保証はどこにもありません。ただしその為、報酬は成功、失敗に関わらず破格な額、または叶えうる限りの対価をお約束します。」


 儀式の結果はどうなるかわからない、でも時間がないから国に命を売ってくれないか。

 そういっているように聞こえる...いや、たぶん間違ってはいない。


「...なるほど、だから身売りなんですね。」


「はい。失礼なことをいっているのはわかっています。断ってくれてもかまいませんが、命より大切なものがあるならご検討頂きたい。」


 ウキエさんはテーブルに座りながらだが、僕にむかって深々と頭を下げた。


「...それは、僕のことを調べた上で言ってますか?」


 僕の言葉に、ウキエさんは頭をあげないまま答える。


「ええ、卑怯な言い方なのはわかっています。しかし我らにも時間がないのです。」


 命より大切なもの。


「対価とはどんなものですか?」


 ウキエさんは顔をあげる。


「下手な値切り交渉などはするつもりはありません。なのではじめから具体的に提示させて頂きます。」


 ウキエさんから提示されたのは次の4点。


 ・生死にかかわらず、指定の人物または団体に毎月金貨2枚を30年間支払う。

 ・契約した場合、衣食住の保証は国がするが、生死を含め行動も国が制限する。

 ・成功した場合、国軍に所属し、国のために尽力する。

 ・死亡した場合、遺品のみ指定の人物に渡すことができる。


 僕が気になったのは最初の部分だけだ。

 月に金貨2枚も貰えれば、園の経営には十分だ。

 ローラ姉さんの治療だってできる。

 それに新しい子達の受け入れだってできる。


 頭をよぎったのはオークに親を殺された子供たちの泣き顔。


「希望があれば言ってくだされば、なるべくこちらが譲歩します。一度考えてみてくれませんか?」


 ウキエさんは手応えを感じたのか、僕に時間を与えてくれるらしい。

 正直、すごくいい条件だ。前世の感覚では考えられないが、この世界での生命の価値は安い。そして、提示された額は破格。

 また、必ず死ぬと決まったわけじゃないし、僕が国軍に従事すれば園の問題はすべて片付く。


「もちろん、成功した場合は国に属してもらいますが、行動の自由などは普通の兵士と同様以上に保証させて頂きます。」


 僕が無言でいると、ウキエさんは数日後にまた会いたいと、僕の予定を聞いてきた。


 3日後、またこの場所で会うことを約束し、その日は別れた。

 ウキエさんを見送り、僕も園への帰路につく。


「まさか、本気で乗る気じゃないだろうね。」


 帰り道にフィーがつかさず聞いてきた。


「正直迷ってる。」


「ダメだよ。あんなの危険すぎる。」


 フィーが僕の目の前に移動する。


「ねぇ、神格者って作ることができるの?」


「...昔そういう儀式があったのは間違いないね。正確に言うと、ボク達精霊との意思疎通をしやすくするための儀式だね。」


「あったんだ。」


「儀式をしたからって必ず神格者、つまり僕らと意思疎通をしやすくなるわけじゃないし、精霊との関係はそんな単純なもんじゃない。それに君はすでに彼らの言うところの神格者だよ?」


「やっぱりそうなの?」


「風の精霊のボクが言うんだから間違いない。」


 なぜかフィーは偉そうに腕を組んだ。


「なにより、儀式がきちんと伝わってるのかすら怪しい。間違ったら本当に死ぬよ?すでに神格者なんだからそんな危険を負うことないじゃないか。」


「仮に成功しても意味はない?」


「いや、属性の順応性があがるし、魔力も大幅に増えると思うけど...やっぱりリスクが高いよ。」


 フィーは僕の鼻先で熱弁をふるう。


「でも、すでに神格者ですって信じてもらえる方法もないし。」


「それは...そうだけどさ。」


 さっきまでの勢いがなくなり、シュンとしてしまった。

 フィーの姿が見える人がいれば、証明できたかもしれないけど、今僕が神格者だといっても誰も信じないだろう。


「園にとってはいい条件だと思うんだ。」


「自分を犠牲にした報酬だけどね...自己犠牲の偽善がすぎないかい?」


「でも、話を聞いて、のる価値はあると思う。」


 僕がこの話に乗り気であることが伝わったのか、フィーは肩を落として向こうを向いてしまう。


「どうして...神格者、僕達が選ぶ子はみんなこうなんだろう...。」


 フィーの悲しそうな呟きが聞こえた。

 過去にも似たようなことがあったのかもしれない。


 3日後、僕はウキエさんに話を進めてもらうようにお願いした。

 ウキエさんが悲しそうな。やるせないような複雑な表情を浮かべていたのが印象的だった。


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