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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第24話 戻る日常

 朝、園で食事を取る。

 幼年組や園長の顔を見たのは久々な気がする。

 昨日帰り付いて、そのまま寝てしまったんだっけ...夕方だったけど、朝まで目が覚めなかった。


 今日は休みなので、午前中は幼年組の相手をしたり、イレーゼの家事を手伝ったりする。


「仕事どうだったの?」


 家事を手伝っていると、イレーゼが聞いてきた。

 洗濯物を干しながら答える。


「んーちょっと大変だったかな。でも大丈夫。歩き疲れたけどね。」


 園の皆には国軍に追従して魔族狩りをしてたなんて伝えてない。

 泊まり込みで見張りをする仕事だったことにしている。


「本当に無理しないでね?」


「大丈夫だよ。」


 この受け答えも何度目か...。

 ローラ姉さんやイレーゼは毎回決まり文句のように言ってくる。少なくともイレーゼには何となくバレてる気がしないでもない。

 昼になると、例のごとく団長が訪ねてきた。


 声がすると幼年組が出迎えに行く。

 いつもお土産を持ってきてくれるからだろう。

 本当にマメな人だ。


「おぅ、アレイフ。大活躍だったってな。ブッチやライラからきいてるぜ。」


「いえ、迷惑もかなりかけましたから。」


「今日は休みだったか?ナットの奴が探してたから、明日にでも声かけてやってくれ。」


「探してた?ナットさんがですか?...何だろう...今日行ったほうがいいですかね。」


「いや、たいした用じゃないだろうから、来た時でいいって本人も言ってたぞ。」


「わかりました。明日行くので探してみます。」


「そうだな。どうせ呑んだくれてるから、起こしてやってくれ。」


 それだけ会話すると団長は鼻歌を歌いながら、慣れた足取りで2階へ向かっていった。

 ローラ姉さんの部屋に行くんだろう。

 ...最近本当に団長は仕事をしてないんじゃないかと思えてくる。


 家事を終えて、買い物に出る。

 必要なものを買った帰り道、広場の近くで号外という名の知らせが配られていた。


 1つを受け取り、内容を読む。


 内容はこの前僕らが関わった魔軍との戦いの件だった。

 第四師団がエスリーの砦にてオークを食い止め、第二師団が援軍に向かったという内容だ。

 まだ結果はわかっていない。

 少なくとも負けることはないだろう。僕らと入れ替わりに向かった援軍とすれ違ったが、あれから2日で合流できたはずだ。

 もう決着はついたのだろうか?

 それとも今でも戦闘中か...。

 時間からしても仕方がないことだとおもうけど、第四師団がどうなったのか結果が気になる。


 買い物を終えて、園に帰る。

 なんとなく、頭にひっかかるものがあるのはなぜだろう?

 第四師団を最後に見たときから引っかかるものがある。

 羨望?尊敬?なぜかそんな言葉が出てきた。

 モヤモヤする。今夜にでもフィーに相談してみよう。





 エスリーの砦付近での戦いの結果が知らされたのは、それから数日後のことだった。

 第四師団はオーク軍の進行を防ぎ、第二師団と合流し、これを撃破。

 残党狩りも行い、魔軍の脅威が去ったことを知らされた。


 ただ、被害も大きかった。

 第四師団は師団長および部隊長のほとんどが戦死。

 ほぼ壊滅状態といえる状況らしい。

 そして第二師団も師団長が怪我、他にも少なくない被害を受けたとのことだった。


 その知らせの次の日、生き残った軍隊の凱旋と、戦死したものたちの弔いの義が行われた。

 それほど遠くなかったので、僕もその弔いが行われている場所を見に行った。

 遠目にしか見えなかったけど、泣き崩れる人が多く、会場は悲しみに包まれていた。


 そこではじめて僕は皇帝を見た。

 いや、似顔絵などで見たことはあったけど、直に見るのは初めてだった。


「第四師団はその誇り高き精神で存在意義を果たし、民を守りきってくれた。我が友、トルマ・フィードベルトをはじめとし、散っていった士官達に最大の敬意と感謝を。」


 皇帝は大きな声でそれだけ話すと、後は護衛の兵を引き連れながら、生き残った兵士や泣き崩れる家族のそばに行き、声をかけている。

 無防備過ぎるといわれるかもしれない皇帝の行為。

 また、あざといと言われかねない行為だが、僕には皇帝が本当に悲しんでいるんじゃないかと思えた。その瞳がとても悲しそうに見えたから。


 なんとなく、エスリーの砦で師団長と話した内容が頭をよぎる。

 いざとなったら、僕にも同じことができるだろうか?

 自分の大事なものを守る為に死地に向かう。


 傭兵団の仲間のためなら?

 ミアやララのためなら?

 園のみんなの為なら?

 イレーゼやゼフのためなら?


 ...考えても答えは出なかった。






 コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

 部屋は王宮の執務室。

 部屋にいるのは皇帝と少数の護衛のみ。

 書類に目を通しながらも、ノックに答える。


「入れ。」


 静かに告げると、ドアが開き、男が入ってくる。

 男は丁寧に礼をすると

 書類からまだ目を上げない皇帝の近くまで寄ってきた。

 そして跪く。


「お呼びでしょうか。」


「うむ。」


 答えるだけで皇帝はまだ書類に目を落としたままだ。

 しばらくして、皇帝は入ってきた男、ウキエに目を向ける。


「すまんな、急に呼びつけて。忙しい中だろう?」


「いえ、陛下ほどではございません。」


「ここにはワシしかおらん。近衛はワシに害がなければ空気だ。そんなかしこまらずともよい。ラクにしてくれ。」


 そういって、皇帝は執務机を離れ、部屋の隅にあるソファーの方へウキエを誘導する。


「第四師団はしばらく機能せんな。苦労をかけるが、第三師団に任せて、軍の再編をしなくてはならん。」


「はい、聞いております。」


「トルマの死が大きいな...。まさかこんなところで。」


「はい...。」


 皇帝は目を伏せた。

 ウキエも目線を落とす。


「実は、以前からトルマと進めていた件がある。もう少し慎重に進めるつもりであったが、そうも言えん状況になった。」


「といいますと?」


 皇帝は手を組み、ウキエに目を向ける。

 ウキエも皇帝に目線を向けた。


「お主は、この国の成り立ちを知っておるか?」


「成り立ちというと、勇者と4英傑の話でしょうか?」


「そうだ。」


「一般的に知られている程度でしたら知っております。」


「十分だ。実はな。最近魔軍の動きが活発になっているのは知っておろう?」


「はい。」


 皇帝が少し身をのり出す。


「そこでだ、ワシとトルマはある文献を頼りに、対魔族の対策として、神格者という存在を儀式により作り出そうと考えておった。今の名ばかりの四代貴族がもつ称号ではなく、本物の神格者を。」


「神格者というと、国軍各初代師団長...4英傑を再びということですか?」


「その通りだ。勇者と呼ばれた初代皇帝を助け、魔王を討ち、後にこの国の建国から四方を任された4人の強者。実際には各属性に優れた魔法使いであったといわれておる。優れた魔法使いとは精霊との親和性が高いということだ。その状態を人工的に作る。」


「そのようなことが可能なのですか?」


 疑問とともに眉を寄せたウキエに王が苦笑いを浮かべる。


「まだ解読が不完全でな。しかし、初代の書だ。間違いなく成功例はあるはず。実験しながら長期で進める予定だったが、そうも言っておれん。魔軍は活発になり、最も接触している南の第四師団は頭を失い、壊滅状態だ。」


 王がため息をつき、続ける。


「そこで、だ。候補者を集め、実験と同時に儀式を進めようと考えておる。」


「...危険はないのですか?」


「危険はある。最悪は候補者が全員死ぬ可能性すらある。だからこそ慎重に進めていたのだが...時間がない。」


 王は目を閉じた。


「それはわかりますが、それをなぜ私に話すのですか?」


 ウキエの疑問に王が目をあけて答える。


「もともとお主に話をする予定だったのだ。トルマとは古い付き合いなのだろう?」


「それはそうですが...。」


「危険を伴う故に、公にすれば反発も大きい。だから内密に進めておる。信頼できるものしか仲間に引き込めんのだ。」


 王がウキエの目をじっと見つめながら話を続けた。


「それにな。無事に神格者を生み出せれば、トルマを後見人とした神格者を第四師団に所属させるつもりだったのだ。ゆくゆくは跡取りとしてな。あやつに男児がおらぬのも理由の一つだが、南区の担当であり、民のための部隊である第四師団が一番魔軍と戦う可能性が高いからな。」


「それはまた...思い切ったことを。」


 トルマの跡取りということは大貴族の養子となるということだ。

 候補者とやらの身分はわからないが、玉の輿は間違いないだろう。

 ウキエの思いを感じ取ったのか、王が苦笑いしながら続ける。


「それだけ魔軍に脅威を感じておるということだ。それに情報によると魔軍として攻め入ってくるのはオークばかりとも言えぬ状況になりつつある。過去の記録ではオークなどよりもっと恐ろしい種族もおるそうだ。」


「それは...。」


 その情報はウキエも知っている。

 これまでオークばかりだったが、他の部族の動きも怪しくなってきているらしい。


「お主を呼んだのは今回のことでトルマをはじめとした第四師団の協力者は皆戦死してしまったためだ。もともと後半で引き入れる予定であったお主にも早々と手伝ってもらおうと思ってな。」


「具体的には何をすれば?」


「候補者の調整だ。身の回りの整理や契約面を頼みたい。まだこちらで一方的に調べただけで何も話しておらん。そもそも強制ではない。候補者に断られる可能性もあるのだ。一応これは王命となるが、拒否権もある。その場合は魔法にて他言できぬよう縛らせてもらうが、それだけだ。どうする?」


 決断を迫る皇帝の目をじっと見つめて、ウキエは一つの言葉を口にした。


「...師団長は本当に私を?」


「それは事実だ。」


「では、受けさせていただきます。」


 その言葉を聞くと、皇帝は1度だけにこやかに笑ったが、すぐに真面目な顔にもどり、執務机の方から紙を1枚とってくる。


「これが候補者のリストだ。詳しくは後で話そう。時間は問題ないか?」


「はい、時間は問題ありません。10名ですか...。」


「実は最後の1人は戦死しておる。なので9名になるな。」


 ウキエはリストをじっと眺める。

 知っている名前を探すかのような仕草はすぐ皇帝に気づかれた。


「どうした?気になるものでもいたのか?」


「いえ...実は師団長が最後に話していた言葉を思い出しまして。」


「ほぅ、それはどんな言葉だ?」


「実はエスリーの砦で最後の軍議のため、師団長を呼びに行った時、師団長がある傭兵団の少年と話をしておりまして。」


「...少年?」


「はい、そして軍議に向かう途中におっしゃったのです。後々、第四師団どころか皇帝の近衛として推挙したいと。」


「...それは興味深いな。」


 皇帝が好奇心のこもった目をウキエに向ける。

 ウキエは片手で頭を掻きながら答えた。


「それでその少年の名前がこのリストにないのかと見ておりました。」


「あったのか?」


「...いえ。」


「その少年をお主は?」


「知っておりますが、少し話しただけです。傭兵をしていたこともその時はじめて知りました。」


「少年兵か...働きもわからぬか?」


 皇帝が、手を顎に当てて考え事をするポーズを取る。


「はい、もちろん調べれば分かると思いますが。」


「そうか、一度調べてみてくれ。トルマの目に叶ったのなら興味深い。」


「わかりました。」


「では、詳しい話にうつろう...。」


 皇帝とウキエの話は深夜まで続いたという。


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