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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第23話 第四師団の矜持

 砂埃の匂いがする…。


「ん...。」


「目が覚めたか?」


 微妙に揺れる場所...。

 外の匂い。

 鎧を着た人が歩く音...。そしてすぐ近くから聞こえた、こちらを気遣うような声。


 僕はトリアさんに背負われてるみたいだ。


「...ここは?」


「移動中だ。もうすぐ砦が見えてくる。とりあえずそのままボーっとしてな。」


 すぐに降りろとは言われなかった。

 傭兵団の人たちは本当に優しい。

 たしかトリアさんはブッチさんのところの人だ。

 僕は背負われたまま周りを見渡すと、すぐそばにミアとララもいて、こっちを向いて笑っていた。

 無事だったみたいでよかった。


 また気を失ってたみたいだ。

 思い出した...また魔力切れをおこしたんだ...。

 傭兵団の人たちに3回目の加護をかけるとき、たぶん気を失うと思って、後をミアに任せ、予想通りになったみたいだ。

 魔法を唱えた後の記憶がない。

 たぶんそこで気を失ったんだろう。


「無茶しすぎだよ。気をつけなよ?」


 顔の前に来たフィーが注意してくる。

 ごもっともな意見だ。


「アレイフ、体調は大丈夫か?」


 今度は後ろから声がした。この声はライラさんだ。


「はい。ご迷惑をおかけしてます。」


「いや、むしろ無理をさせたみたいですまなかったな。」


「すいません。まだ魔力が少ないみたいで...。」


「十分だぜ?おかげで怪我人も少なくすんでるしな。」


 トリアさんの背で申し訳なさそうにしている僕をライラさんとブッチさんが慰めてくれる。


「もう帰り道ですか?」


「それが少し延長になるかもしれねぇ。体調は大丈夫か?」


 ブッチさんが僕を覗き込む。


「はい、もう大丈夫ですよ。」


「そりゃ心強ぇな。まぁ、とりあえず砦でいったん休憩するからそれまでトリアに甘えときな。」


「ありがとうございます。」


「軽いもんさ。」


 本当に傭兵団の人達は優しい。一見強面のトリアさんも、魔力切れをよくおこす僕やララを背負ってくれることが多いし、普段もそれとなくフォローしてくれる。

 足を引っ張ってないで、頑張って少しでも役に立たないとという気持ちになる。


 エスリーの砦というらしい砦というよりは大きな壁にしかみえない砦につくと、中でしばらく待つことになった。

 なんでも、分散していた国軍がここに集まってくるらしい。

 ここで、敵を食い止めつつ、援軍を待つことになりそうだと、ブッチさんが言っていた。


 ミアは武器の手入れ、ララは魔力回復のために横になっている。僕はさっきまで背負われていた上にぐっすり寝たので魔力はある程度回復してた。だから特にすることがなく、手持ち無沙汰になり、散歩がてら砦をウロウロとしていた。


 といっても、行っていい場所は限られる。

 なのでとりあえず、砦を守るための塀の上をブラブラしていた。


 なんとなく景色が良さそうだから登ったけど、思っていたより遠くまでは見えない。

 けど、風は気持ちいい。

 なにげなく外側を見ると、また国軍の一団が砦に入ってくるところだった。

 まだ待ち時間は続くんだろうか?


「何を見ておるのだ?」


 突然後ろから声がした。

 驚いて恐る恐る後ろを見ると、豪華な鎧を着た初老の男性が立っている。立派な髭を生やしたいかつい人だ。髪も髭も真っ白なので、かなり年齢はいっているとおもうけど、どこか団長みたいな雰囲気を持ったガタイのいい人だ。

 国軍の偉い人だろうか?


「特に何も...景色も思ったよりはよくありませんし。」


「ではここで何をしておるのだ?」


「いえ、することがないので散歩を。せっかくなので高いところに登ってみました。」


「そうか。君は傭兵団に所属しているのか?」


 この人も暇なんだろうか?

 話し相手になってくれるみたいだ。


「はい。助けられてばかりですけど。」


「なぜ傭兵団に?」


「なぜって...お金を稼ぐためです。」


「働く歳ではないだろう?」


「いろいろあって、家族の為に必要なんです。」


 僕の答えを聞いて、初老の男性は顎に手を当て、考える素振りをみせた。髭をさわる姿がよく似合う。


「君は人を殺したことがあるか?」


 なぜそんな事を聞くのかはわからないけど、隠す必要もなさそうなので正直に答えた。


「ありますよ。もちろん相手は盗賊や犯罪者ですが。」


「そうか。抵抗はないのか?」


「...ありましたよ。もう気にしてはいませんが。」


「しかし傭兵団を続けているんだな、気にしないとは慣れたということかね?」


「...どうでしょうか。慣れることなんてあるんですかね。ただ、歳の割に稼げるので続けているだけです。貴方はもう慣れたんですか?」


 つい、質問を質問で返してしまう。

 初老の男性は僕の方をみて、簡単に頭を下げてきた。


「愚問だったな。大切なものと天秤にかけただけなのだな。すまない。」


「いえ、そんな...気にしてません。」


「争いごとは嫌いかね?」


「そうですね。なるべくなら争いごとに巻き込まれたくありませんし、争いたくもありません。」


 初老の男性は僕の目をじっと見つめてくる。


「状況は知っているかね?」


「はい、オークの軍団が攻めてくるんですよね?」


「そうだ。ここで戦うことになる。ここで食い止めなければならん。」


 僕に一歩近づいてきた。


「君は魔法をつかうんだろう?とても強力な魔法らしいじゃないか。」


 また一歩。


「その魔法があればオークの部隊など恐れる必要はないのかもしれんな。オークの一撃を簡単に阻む魔法防御に、一刀両断する魔法か...。君は優秀な風の魔法使いなんだな。」


 僕の目の前まで来て、しゃがみこみ、僕に目線を合わせる。力を貸してくれ。か、すでに傭兵団に了承を得て、僕の能力を正確に把握したいんだろう。

 傭兵団が参加するなら僕も自動的に参加することになる。

 予定とは大きく違うが、状況から逃げるわけにもいかない。いや、僕一人ならなんとかなるかもしれないが、ミアやララ、他の傭兵団のみんなは逃げないだろう。

 仕方ないと思いつつ、僕は言葉を待った。


 だが、予想は覆される。初老の男性はいたずらが成功したかのように、楽し気に破顔しのだ。


「しかし、君たちはここで終わりだ。帝都に帰ることになる。」


 それは、優しく、安心感を覚える笑顔だった。

 初老の男性は僕の隣に並ぶように腰掛けると外を見ながら続ける。


「我々国軍がここでオークを食い止める。時間稼ぎにしかならんだろう。本国への援軍要請は終えている。それまでこの砦に奴らを引き付ける。君たちは第四師団が集まり次第、帰還することになるだろう。」


「傭兵団に一緒に戦えとは言わなかったんですか?」


 僕の疑問に彼は笑顔を向けてくる。


「そういう意見もあったさ。」


「...ではなぜ?」


「君は国軍第四師団のことを知っているかね?」


「知っている...とは?」


 知っているかと言われれば、いま一緒にいるのが第四師団だということぐらいだ。

 僕の疑問形の答えに、知らないことが伝わったのか、説明が続く。


「我らがシュイン帝国の帝都には東西南北を拠点として4つの国軍が存在する。」


「はい、それは知ってます。」


「役割は知っているかね?」


 僕は首を横に振る。


「第一師団は国の部隊、基本的には帝都を離れず、国王や帝都の貴族を守る部隊だ。第二師団は誇りの部隊、国が侵害された場合や戦争の場合、真っ先に守り、攻める部隊だ。第三師団は秩序の部隊、帝都だけでなく他の諸領にも配備され、領主軍とともに領地の秩序を守る部隊だ。」


「では第四師団は?」


 初老の男性は笑顔をやめ、真面目な顔を僕に向けた。


「第四師団は民のための部隊。民が苦しむなら国を、魔物を、民が害される可能性があるなら誰よりも真っ先に駆けつけ、民の敵を撃つ部隊だ。」


「国も相手にするんですか?」


「そう、隣国が不審な動きをすれば国境におもむき、同じ帝国に所属していても、民を害する相手ならば自国の貴族すら討つのが我ら第四師団だ。...かっこいいだろう?」


「...かっこいいですね。」


 僕は率直な感想を述べた。

 初老の男性が続ける。


「だからこの砦から退くわけにはいかん。ここを越えられれば、帝都までにまた犠牲になる村がでてくる。それに、帝都の防衛もやりにくくなるのは間違いない。」


「なら尚更、自分たちだけで戦う必要は...。」


「君たちは傭兵だ。しかし君たちもまた我が国の民なのだよ。」


 そういって、初老の男性は僕の頭を撫でる。


「なに。無謀な戦いというわけではないさ。時間を稼ぐだけだ。十分勝機はある。残念ながら同じ隊の援軍は期待できないが、状況を考えれば第一か第二師団が来るだろう。それまでの時間稼ぎだけだ。」


「そうですか...。」


 戦わなくていいと言われて、嬉しいはずなのに、やるせない気持ちになる。

 誰かが犠牲になることがわかっているからだろうか。


「閣下!軍議の準備が整いました。お願いします。」


 いつの間に近づかれていたのか、いきなりの声に驚いた。


「そうか、では行くとしよう。君も戻りたまえ。景色もよくないし、冷えてきた。」


「はい。ありがとうございます。」


 僕に声をかけて初老の男性は呼びに来た男と共に去っていく。

 もう一度、外の景色を眺めて、僕も傭兵団の集まっているところに帰ることにした。






「閣下、あの少年は...。」


「ん?知っておるのか?」


「はい。以前、孤児院の人間が巻き込まれた事件で顔を合わせたことがあります。」


「ほう...。ウキエ、君はあの少年をどう思う?」


「どう...とは?」


「戦っているところを見たことはないのか?」


「はい、保護した後に少し話をしただけですので。」


「そうか。無事に帰りつけたらその話も聞かせてもらおう。ぜひ我が軍に士官してもらいたい。いや、王の近衛兵などに推挙したいぐらいだ。」


「どういうことですか?」


「きちんと育てれば、必ず国の益となるだろう。」


「そうですか...閣下の目は確かですから、帰ったら詳しくお話します。」


「うむ。...それにあの髪と顔立ち...どうも気になる。」






 僕らに契約完了の認可がでたのはその少し後になる。

 戦う気だった傭兵団としては肩透かしをくらったとため息をついている人も多かったけど、どちらかというとほっとしている人の方が多かった気がする。

 みんな、命をかけた戦いに出たいわけじゃないから当然だけど。


 僕らが砦の外に出てすぐ、国軍も砦から飛び出して来た。

 僕らとは違う方向に向かい、陣形を組む。

 敵が近いんだろうか?

 見えはしないけど、砦の外で戦う気みたいだ。


 国軍の陣の前を1騎の騎馬が練り歩いている。


「我が第四師団の勇士達よ!」


 あの初老の男性の声だった。偉い人だとはおもっていたけど、師団長だったのか。

 ここまで聞こえることを考えると風属性の魔法で声を遠くまで届かせているんだろう。


「我らは第四師団!民のための部隊である!」


 剣を掲げる姿が勇ましい。


「我らの背後には民がいる。我らに退くことは許されぬ!我らが退けば民が血を流す!」


 いつしか傭兵団のみんなも、足を止め、そちらを見ていた。何人かは僕みたいに釘付けになってる。それほど声を張り上げる第四師団長は人を惹き付ける人物だった。なんていえばいいのか、適切な言葉は浮かばないけど、目が離せない。


「後ろを振り返れ!我らが守るべきものを見よ!そして進め!我らが進軍は民の安寧を約束するだろう!」


 先頭の騎馬は掲げた剣を前に倒す。オークの部隊がいるであろう方向に。


「進軍せよ!オークを打ち破り、凱旋にて民に安寧を知らしめるのだ!」


 大きな掛け声と共に、国軍が進軍していく。

 僕等、傭兵団とは別の方向に。


「何年たっても伝統は変わらないんだね。」


「え?」


 僕の肩にいつのまにか座っていたフィーが呟いた。


「なんでもない。」


 そういうとフィーは僕の肩から飛び立った。


 第四師団の出陣を見送った僕らは帝都へ帰還しはじめる。

 来るときみたいに、会話しながらじゃなく、なんとなく無言のまま、僕らは帰路についたのだった。


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