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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第22話 失策の代償

<Toruma>


 救援の結果、オークは一掃できたが、生存者は子供がわずか数名と最悪の結果におわった。

 やはり、1時間の遅れが大きい。


 男は皆殺され、女は皆オークの苗床になっていた。

 情報として事前に聞いていた通り、オークは女を孕ませる。だが少し情報と違ったのは結局女達も全員殺されていたのだ。

聞いていた情報ではオークは孕ませた女性体を大事に保管するとのことだったが、今回捕まっていた女性はみな、強姦された上に絞め殺されたり、殴り殺されていた。惨たらしい話だが、聞いていたオークの情報よりもかなり残虐な種族らしい。


 部下に命じて、火葬していく。


 生存した子供達が泣きついている死体もあった。

 きっと家族なのだろう。


 しかし、悔やんでばかりもいられない。1時間...その時間で救えた命があったかと思うと、失策だった。

 早急に次の戦場に向かわなければ、またこんな悲劇を生む。


「閣下...。」


 ワシの心情を知ってか、近衛兵団長が控えめに声をかけてきた。


「大丈夫だ。傭兵団のほうは?」


「はい、けが人の手当が終わったら代表者がこちらに来るそうです。」


「わかった。他の報告は?」


「今のところ情報は来ておりません。そろそろ報告が来る頃かとおもいますが。」


 早急に部隊をまとめねばならんかもしれん。

 悪い予想通り、魔軍の別部隊と考えると部隊を分散させたことにより、被害が大きくなる可能性もある。


 しかし、このまま放置し、帝都に入られるわけにもいかん。


「傭兵団の方々をお連れしました。」


「遅くなりました。」


 兵士に案内され、傭兵団のブッチとライラの2人が顔を出した。


「すまいない。少々立て込んでいるのだ。契約の延長は可能だろうか?」


「具体的には?」


 予想はしていたのか、具体的な話ができそうだ。


「実は予想より多くの魔軍が国内に入り込んでおるようだ。一度軍をまとめたいが、襲われている村などを見捨てることもできん。すまんが、エスリーの砦まで指揮下に入ってもらいたいのだ。」


「エスリーの砦とは?」


 2人が首をかしげた。確実に通ってきたはずだが、ただの関所にしか見えなかったのだろう。


「来るときに通っただろう?帝都を出て2つ目に通る関所だ。崖の近くに大きな壁のある砦がある。」


 ブッチとライラの2人も思い出したようだ。

 南部から帝都に向かった場合、巨大な岩山のせいで道が急に狭くなる部分がある。

 狭いといっても軍隊が通るには十分だが、その部分にエスリーの砦があり、その道を見渡せるようになっている。


「あそこまで戻るんで?」


 ブッチにワシはうなづき返す。


「具体的にこれぐらいを報酬として考えている。どうだろうか。」


 急いでいるので多めの金額を書き、2人に見せる。

 ワシとこの2人のどちらかがサインすればそれで計画完了だ。


「わかりました。それぐらいなら大丈夫です。」


「助かる。...すまないな。」


「どちらにしろ、帰るまでにその砦も通りますから。」


「それもそうか。」


 傭兵団側もまとまったようで、すぐにサインしてくれた。こちらもサインし、お互い同じ内容の書類を保管する。


「それではすぐにでも動きたいのだが、一度簡単な軍議を開きたい。出立の準備をしながら軍議に参加できるか?」


「じゃあ俺が傭兵団のやつらに準備させてきますわ。」


「私が軍議にでましょう。」


 話が早くて助かる。

 そうだ。大事なことだし、ついでに聞いておこう。

 動き出そうとする2人に質問を投げかけた。


「そういえば、少し教えてほしいこともあるんだが。」


「なんですか?」


 2人がこちらを向く。


「そちらの傭兵団では何かの加護がついた武具や魔法をつかっておるのか?」


「加護...ですか?」


 ブッチとライラが顔を見合わせた。


「いや、先ほどの戦闘で何度かオークの攻撃を弾く場面をみたのでな。」


「あーあれだ。補助魔法のことだ。」


「あぁ...あれは風の魔法による補助です。」


「風の魔法だと!?」


 大きな声を上げたのは近衛兵隊長だ。

 騎士ではあるが、風を得意とする魔道士でもある。

 大きな声を出した理由はワシにもわかる。


 不可能なのだ。


 風の魔法は探知が主で、攻撃に使えるものでも剣の斬撃より少し弱い程度のものを敵に飛ばすぐらいの魔法だ。

 近衛兵隊長でもオークの重い一撃を魔法だけ弾くのは至難のわざだ。それも一対一ならともかく、複数人に補助魔法としてかけるなど...。


「あなた方の傭兵団にはそれほどすぐれた魔道士がおられるのか?そういえば他種族の者もいるようだが...まさかエルフが?」


 なるほど。エルフの少女がいたのだ。魔法に優れた成人のエルフがいてもおかしくない。

 国軍には人族しかいないためか、盲点だったが、熟練のエルフならばそれほどの風魔法が使えてもおかしくはない。


 しかし、ワシ等の予想は外れていた。


「エルフですか?俺らの傭兵団にエルフはいませんね。ハーフならいますが...。それにあの魔法はアレイフ…人族の魔法ですぜ?」


「ブッチ!」


「おーっと、いけね。」


 ライラの反応からあまり出したい情報ではなかったらしいな。

 だが、それもわかる。重要な情報だ...人族であのレベルの風魔法。そんな人物が無名で傭兵団員に?

 近衛兵団長の方をみるが、そちらも驚きを隠せないようだ。

 あれほどの魔法を人族が...ぜひいろいろと知りたいところだが、これ以上聞いても教えてもらえぬか。


 人族と聞いて、もう一つ聞いておかなければいけないことがあることを思い出した。

 話を返るついでに、聞いてみるか。


「そういえば、子供の兵士もいるのか?」


 ワシの言葉に2人があからさまに驚いた仕草をとる。

 ...なぜだ?さっきの話とは別だろう?


「しょ...少年兵ですか?」


「うむ、1人でオークを倒しているように見えたのだが...。」


「ライラ、無理だ。見られてる。」


 ブッチがライラに首を振る。


 ...なんのことだ?その少年兵に何か不味いことでもあるのか?


「すいません、あまり本人が目立ちたがらないので隠していましたが、その少年兵は風の魔法が得意でして...。」


 なんだと!?

 内心驚いたが、顔には出さない。

 おそらく、ワシが事情を察した上で2人に風の魔法使いと少年兵のことを聞いたと思っているのだろう。偶然なのだが...こちらからすれば嬉しい偶然かもしれん。


 む、近衛兵隊長、顔にですぎだ!


「会うことはできるか?」


「えーっと、できるにはできますが...。」


 歯切れが悪い。


「そうだ、軍議は伝達兵が帰ってきてからの方がいいな。ワシが一緒にそちらにいこう。主も来るか?」


 驚き顔だった近衛兵団長に向き直ると、すぐに表情を真顔に戻した。


「はい、お供します。」


「では、ここをあける。伝達兵がきたら知らせにこい!」


 ワシは会いにいくことを即決し、近衛兵団長と伴にブッチに道案内を促す。


「あ、あぁ...じゃあ...こちらに。」


 少し引きつったまま、ブッチが先頭を歩き出した。

 ライラも後ろからついてくる。




 傭兵団はワシらの兵団のちょうど隣に陣取っていた。

 陣取るといっても、適当に座って休憩しているだけだが。


 こちらよりは少ないが、怪我人や、死んだものに泣きつくものもいる。


 傭兵団の輪に入っていくと、ワシ等は注目の的だった。

 そのままある一角へ案内される。


 そこにはあの時、少年兵と一緒に見た獣人の少女やエルフの少女、そして男に背負われている少年がいた。

 少年はどうやら眠っているようだ。


「副団長?どうしたんですか?」


 少年を背負っている男がブッチに聞く。


「いや...こちらの御仁がアレイフに会いたいらしくてな...まだ寝てるよな?」


「まだ起きてやせんね。」


 気まずそうにブッチがこちらを振り向く。


「すいません。魔力切れを起こしたらしく、倒れるように眠ってしまって...。」


「いや、そうか、それはすまなかった。」


 どうやら話せる状況ではないらしい。


「本当にこの少年ですか?」


 近衛兵団長は半信半疑だ。それはそうだろう。

 ワシも信じられない。


 まだ成人前だろう...ワシの娘と同じぐらいの歳ではないだろうか。そんな少年が戦場で、大人顔負けの役割を果たしているのだ。


「この子は...ずっと傭兵を?」


「そうですね。もう1年以上はたってるか?」


「あぁ、もうすぐ2年になる。」


 ワシの問いに、ブッチとライラが答えてくれる。


「傭兵団にご両親が?」


「いえ、この子は孤児院の子でして、私達の傭兵団で仕事をしているだけです。」


「なんと...それでは魔法はいったい誰に?傭兵団に師匠がいるのか?」


「いや...それは...孤児院で基礎を習って、あとは自分で研鑽したそうですよ。」


「そんな馬鹿な...。」


 ワシも近衛兵団長も疑問に思うのが当然だろう。

 あれほどの魔法を個人が編み出したと?

 そんなわけがない...。

 きちんと教育を受けたものでされ、あのレベルに到達するのは難しいはずだ。

 それもこの年齢で...。

 特に風の魔法をメインと考えるなら難しい。

 風は防御にも攻撃にも向かない属性だ。


 だが、ワシらの疑問の意味をわかっているのか、受け答えしているライラも苦笑いを浮かべている。

 一度、今回の件が片付いたらその孤児院について調べてみる必要があるのかもしれん。


 本人が魔力切れで寝ているのなら、無理に起こすこともない。

 砦についた頃にまた聞いてみればよいか。


 ワシがそう考えていると、兵士が1人こちらに走ってきた。

 やけに急いでいるが、伝令の兵だろうか?


「師団長に申し上げます!本部からの伝令です!」


 伝令は周りを見回すと、続きを話そうとしない。

 良くない内容なのだろう。

 隠してもしかたがないと、ワシは続けるように促した。


「急いでおるのだろう?構わん、ここで申せ。」


「は、はい!」


 その伝令は驚きの言葉を口にした。


「分けた部隊のうち、半数から連絡が途絶え、残った部隊の1つがオークの大隊を発見、数は500ほどであるそうです。交戦を諦め、後退...本部も敗走の準備を。」


 やはり、別働隊が入っていたということか。

 かなり分が悪い...。

 にしても本部の者たちは決断が早い。いや、500と聞けばそうなるのも無理はないか。


「すまんがエスリーの砦にて合流するようすぐに伝令を飛ばしてくれ。こちらもすぐに向かう。」


「はっ!」


 伝令は走って去っていく。


「すまんが、軍議は中止して、すぐに出立したいのだが...。」


「わかりやした。すぐに準備しましょう。」


 伝令は聞こえていたはずだ。ブッチもまた顔を引き締め、周りに指示を送る。

 ワシもすでに自らの軍に歩き出していた。


「位置的に我らが最初に砦に到達できましょう。」


「ああ、しかし急がねばならん。」


「ですね。」


 近衛団長はわかっている。

 本部の連中のことだ、砦を素通りして退却を支持する可能性もある。

 あの砦を抜かれると、また部隊を分散されなねない。

 そしていくつもの村や街が襲われる。

 本国の対応も難しくなるはずだ。


「出立するぞ!近衛兵から数名、現状を報告する。援軍の要請を!」


「すぐに手配します。」


 敵本体に目を向け、分隊がいることを見落とした代償か。

 残党狩りの為に、部隊をいくつにも分けたことが災いし、優秀な部下を何人も失った。

 連絡の途絶えた部隊はおそらく敵に各個撃破されてしまったのだろう。本国の警備や隣国との国境、南部に出せる兵力が限られていたとはいえ、苦しい状況となってしまった。

 情報不足が招いたことだが、もはや援軍も間に合わぬだろう。

 ワシは苦い顔をしながら...エスリーの砦へ出立した。


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