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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第21話 共同戦線

「この先の村が魔族に襲われているみたいだね。」


「残党ってきいてたのにけっこうな規模みてぇだな。」


 ライラに答えたのは同じ副団長のブッチだ。

 現在、国軍からの討伐依頼真っ只中。

 参加した4つの部隊のうち、ライラとブッチの傭兵団が一緒に行動している。

 次の戦闘ですでに3戦目になる。

 1戦目は野戦の遭遇戦。2戦目は砦を襲っていた魔族を奇襲した。


 本拠地をでて3日目、2日はほとんど移動に費やしたため、今日だけで連戦したことになる。


「だが、部隊数は少ねぇな。10人以下だぜ?」


「それが魔族なんでしょう。たしかワッカーが言ってたはず。」


 二人とも依頼を受ける前、ワッカーに事前情報として魔族と国軍の戦いについては聞いている。


 魔族250人に対して、国軍800人という動員規模で戦い、結果は国軍が勝利したが、魔族の部隊は散り散りになって逃走し、一部は領内に逃げ込んだとのことだ。


「3倍以上の兵力で殲滅できねぇってのはなぁ...。」


「仕方ないさ。私達より強靭な肉体。そしてなにより魔法がある。」


「ちげぇねぇ。実際、前の戦闘ではこっちもけっこう被害がでちまったしな。」


「あぁ、たった数人の魔族と侮ったらひどい目に遭うみたいだね。」


 魔族は単独でも強い。

 一般的に、魔族といっても種族がいろいろいるが、今回のオーク族に関しては2倍から3倍ほどの兵力で釣り合うぐらいの力量差といえる。


「にしても、俺らの部隊はラッキーだ。」


「ラッキー?」


「あぁ、おめぇんとこと組むおかげで、被害がすくねぇ。」


「あぁ...それは正直私も驚いている。」


「あれ?おめー知らなかったのか?」


 ライラの言葉にブッチが首をかしげる。


「あまり一緒に行動することがないからね。それに補助魔法も数人が限界だと思っていた。ブッチは知ってたと?」


「あぁ、何度か一緒に依頼に出てるからな。」


 2人が話しているのはアレイフのことだ。

 1度目の戦闘でも、2度目の戦闘でも、前衛の補助に徹しており、その魔法効果は絶大だった。


 まず、相手の魔法がほとんどすべて無力化された。

 オークが使う攻撃魔法は放ってもすぐに強烈な追い風にかき消されてしまうのだ。

 そしてその追い風がオーク達の動きを牽制する。

 それだけでも十分なのだが、オークの攻撃を風の盾が守ってくれることも1度ではない。

 被害はでたものの、最小限ですんでいるのは彼の魔法のおかげだと2人の副団長は意見を一致させていた。


「村の前に国軍と合流するんだろ?」


「あぁ、そういうことらしい。そろそろ見えてくるはずなんだけど...。」


「んなことより急いで村を助けにいけっての...。」


「戦力が足りないんじゃないか?かなり消耗したと聞いてるし。」


 国軍と魔軍の戦いは国軍が勝利したが、それは完勝ではなかった。

 むしろ、受けた被害は甚大で、今回傭兵団に共同戦線の依頼がきたということだ。


 そうこう話しているうちに、国軍、第四師団の旗が見えてきた。


「なんだ?俺らより少なくないか?」


 傭兵団は約40名、前方に見える国軍は多く見ても30名ほどに見える。


「予想通りかもしれないな。あれじゃあ相手の規模によっては手がだせないだろうね。」


「まったく、頼りになる国軍様だぜ...。」


 こちらに騎兵が走ってくるのが見える。

 おそらく何か指示があるのだろう。




<Toruma>


 村が襲われているという報告を受けたのは隊をいくつかに分けた後だった。


「師団長、如何なさいますか?」


 如何も何も、助けに行かなければならないだろう。


「救援に向かうぞ。」


「し、しかし、駐屯所にいる兵は50を切っています。」


「出撃した部隊のどれかを引き戻しますか?」


 ワシの決定に、側近達が意見を出す。だがそれはどちらも消極的なものだった。


「出撃した部隊も討伐の為に向かっているのではないのか?」


 ワシの問いかけに、側近達は目をそらす。


「それは...そうですが。」


 わかっておる。

 この側近達は自分が動きたくないだけだ。

 有能なものを出してしまうと、近くに残るのは保身第一のやからばかり...。


「ここに20人おいて、残りは出陣する!」


「本陣が20人だけでは閣下が危険です!」


 こいつらは本当にわかっていない...。安全地帯に胡座をかくより、ひとつでも多くの村を、人を救うべきなのだ。いっそ本陣ごと移動したいところだが、他の分隊との連携を考えるとそれもできない。

 何より、この側近どもは自分達が討ってでるという発想がないため、本陣の人数に不安をもっているのだろう。


「ワシも出る。ついてきたいものだけついてこい。」


「閣下みずから!?」


「おやめください!」


「危険です!」


 やはり、この3人はダメだな。

 この戦いが終わったら、人事を考えなおさねばならん...。


「ではお前達は残れ、この本陣を任せる。」


 本陣での連絡係ぐらいはできるはず。連れていってもさほど役に立つとは思えん。


「そ、そういうわけには...。」


「問答しておる時間が無駄だ。お前たちは情報統制に全力を尽くせ!」


「は、はい!」


 自らの保身だけでなく、ワシの傍に控えていたという大義名分までほしいのか...。ちょうど親衛隊と伝達兵を入れれば30名になる。

 ワシはそれらを率いて駐屯所を出撃した。


 全員騎兵ということもあり、魔族に襲われたという村には数時間でついたが、1つ問題があった。


「相手は20人程の部隊の様です。」


 斥候からの報告は戦力が足りないことを示している。


「今の兵力では心もとないですな。行きますか?」


 聞いてきたのは近衛兵隊長だ。

 兵力が足りないといいながらも、戦うことを前提に話しておる。

 長い付き合いだが、近衛兵隊長としてはワシの身の安全をまず考えるべきではないのだろうか...。

 まぁだからこそワシと気が合うのかもしれんが。


「多いな。勝てるか?」


「戦いに絶対はありません。が、確かに多いですな。これは...師団長の読みがあたっているのかもしれません。」


「あの戦闘が陽動だったというワシの妄想か?」


 事前に考えていたことに現実味が増してきた。今の各村の被害状況を考えても、敵が多すぎるのだ。

 昨日までの報告で、既に討ち漏らした数は軽く越えている。


「さすがに領地内の魔軍が多すぎます。あの戦いの最中、かなりの数、別働隊が侵入したのではないかと。」


「だとすると、思っていたより長引くな。」


「はい、なるべく消耗戦は避けたいとろこですが...。」


 やはり、分散して逃げたのではなく、工作の為、領内に入り込んだ可能性が濃厚になってきた。

 ならばここで兵を無駄にするわけにはいかない。どれだけの規模が領内に侵入したかもわからないのだ。

 消耗戦を避けるなら今、ギリギリの戦いをするわけにはいかん。

 しかし、村が襲われているのを無視することもできん。

 ワシが考えを巡らせていると、斥候から次の報告が入った。


「こちらに向かう傭兵団の部隊がいます。距離にしても1時間もあれば合流可能かと。」


「傭兵団か、規模は?」


「40名ほどの規模です。銀鷹傭兵団の2部隊でした。」


「こちらより多いな...しかたない。こちらに向かうよう指示をだせ。」


「はっ!」


 斥候が去っていく。

 ここから1時間ただ指を咥えて見ているだけというのが歯がゆい。


 傭兵団と合流すると、すぐワシの前へ傭兵団の責任者として、二人の男女が会いに来た。


「銀鷹傭兵団副団長、ライラです。」


「同じくブッチです。」


 二人は膝をおり、ワシに名乗りをあげた。傭兵団にしては相変わらず行儀がいい。


「国軍第四師団長、トルマ・フィードベルトだ。...久しいな。」


 ワシはこの二人を既に知っていたが、周りの近衛隊にも、わかるよう、二人を立たせて握手を交わした。

 もう何年も前になるが、二人は笑顔で握手に応じてくれた。


「すまんが、時間がない。すぐにでも村の救援に向かいたいのだ。」


 ワシの言葉にブッチがすぐに答えた。


「分かりました。我らが先行しましょう。」


「いや、我らが正面から進軍し、おびき出すゆえ、側面から奇襲をかけてもらいたい。」


「本陣が囮をするのは危険では?」


 ライラが疑問を挟む。


「いや、本陣は置いてきた。これは別動隊だ。それに、この人数では、変にわけるわけにもいかん。少ないほうが囮をした方がいい。傭兵団は奴らが食いつくまで、あの岩場にでも隠れていてほしい。」


「...わかりました。ではすぐに準備致します。」


 短く了承し、ライラとブッチは兵団に帰っていく。誤差レベルの詰めをするより、時間をとったのだろう。相変わらず銀鷹は有能なものばかりで羨ましい限りだ。


「閣下、信用できるのですか?」


「問題ない。あの二人に関してもよく知っておる。こちらを見捨てるようなことはせんさ。それに...一刻を争う。」


「ですな...村を襲った奴らが何をしているか...正直考えたくないですな。」


「すでに出遅れておる。さぁ、進軍の準備をせよ。傭兵団の準備が整い次第、討って出る!」


 傭兵団からが移動し、国軍も出撃の準備を完了し、動き出す。

 ゆっくり、そして堂々と相手に気づかれるように音を立てながら。

 なんといっても、最初の進軍は囮だ。

 相手に気づいてもらい、撃ってでてもらわねばならない。


 しかし、相手は出てくる様子がなかった。

 村では籠城する場所もないはず。

 それどころか、こちらの様子を見ている様子さえなかった。

 村の入口が見えてくる。


 そこには凄惨な光景が広がっていた。


 村の男達が、串刺しにされ、並べられている。

 見えるだけでざっと20人はいるだろうか...。

 すでに制圧は完了しているようだ。

 男ばかりが串刺しにということは、女達がどうなっているか想像ができてしまう。


 オーク族は豚の顔にずんぐりした身体をもつ魔族だ。知性を持ち、人族より力も魔力も強い。

 そして、たちの悪さはその数の多さだ。

 ようするに、種族を超えて交配可能であり、対象として人族も例外ではない。


 1時間の遅れを悔みながら、進軍を続ける。


 斥候を出しつつ、側面から叩く予定だった傭兵団を呼び出し、村の前で合流した。

 それでもオーク族が出てくる気配はない。


 傭兵団がこちらと歩調を合わせ、少し前にでたところで、小さな影が、傭兵団から走り出した。

 続いて、2つの小さな影も走り出す。


 何があったのか?傭兵団の誰かが隊列を乱し、村へ駆け込んでしまったようだ。

 この村の出身者でもいたか?


 なし崩しに傭兵団の部隊も村へ侵入していく。


 我らも遅れを取るわけにはいかない。斥候の報告はまだで、予定と違い乱戦になってしまう懸念もあったが、ここで分断されるわけにもいかず、村の中へ我々も進軍した。


 村の中央付近で、オーク共が集まっているのが見えてきた。こちらには全く気づいていない。本来ならありえないことだが、奴ら予想通り、村の女達を襲うことに必死のようだった。


 そこに傭兵団が襲いかかる。


 ワシもオークどもへの怒りを押さえ、冷静に指示を出した。


 村の中では騎馬の長所はない。すでに降りる指示はしている。

 1対1には決してならないように連携して戦うのが基本方針となる。


 さすがに、大将という立場では突撃することはできず、安全を確保しつつ、少しずつ前進し、指示を飛ばす。

 村の中はまさに乱戦となっている。しかし戦況は悪くない。さすがは銀鷹、連携が上手い。


「あれは…なんだ?」


 横にいた近衛兵隊長が驚きの声を上げた。

 珍しく驚いた様子だったので、その目線を追うと、小さな影がオークを真っ二つにするところだった。


 少年兵?...いや、少女か?


 杖や剣を使っているわけではないが、今オークが真っ二つになった。

 その隙を別のオークが側面から襲いかかるが、そちらには別の小さな影が足元を攻撃して牽制する。

 こっちは獣人のようだ。すばやい動きで攻撃だけしてすぐ離脱した。

 バランスを崩しかけたオークが持ちこたえようとすると、どこからか魔法の刃が飛んでくる。

 飛んできた方向にも、少女がいる。あの容姿はまさかエルフか?

 その魔法に軸足を切り裂かれ、オークが完全に膝をつく。


 その隙は致命的だった。

 すぐに身体が真っ二つになる。


 オークの肉は厚く、硬い。分厚い脂肪の奥には強靭な筋肉が隠れており、並みの腕力ではまず切り裂くことはできない。

 だから我が軍の兵たちは基本的に刺突で攻撃している。


 なのに、あれはなんだ?

 なぜ手を横に振るだけでオークが真っ二つになる?


「閣下...傭兵団の面々ですが、何かの魔法か加護で守られているようです。」


 唖然としていた私は、近衛兵隊長の方を見て、我に返る。

 よく戦場を見ると、オークの一撃を受けて倒れる我が兵に比べ、傭兵団者は、1撃を受けても耐えている者が多い。

 全員ではないものの、確かに見た。

 オークの斧をまともに受けたはずが、斧がはじかれ、逆にオークが剣で傷を負わされる。


「なんなのだ。この部隊は。」


銀鷹が優秀な傭兵団であることはわかっていた。しかし、これほどとは...。

 ワシの呟きに答えてくれるものはおらず。

 無事、村にいるオークどもを全滅させてた時には、我が隊は13名、傭兵団は7名の死傷者を出していた。



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