第18話 家庭訪問?
俺はふと疑問に思ったことを隣にいた副団長の一人、ライラに質問した。
今日は月一で行っている定例会の日だ。
各班の状況や成果、問題点なんかを報告しあう。
その会議が終わった後、雑談の場での出来事だ。
「なぁ、そういや、あいつは一体なんでここで仕事してんだ?」
「...いきなり何を?」
「いや...そもそもだが、あいつの身元は?毎日酒場にきてっけど、どこ住んでるんだ?」
「...あいつってアレイフのことですか?」
誰のことか分かっていなかったらしい。ライラにしては察しが悪く、聞き返された。
俺は当然だと言わんばかりに頷き、続きを促した。
「そんな当たり前みたいな顔されても主語がないとわかりません。それにアレイフのことなら知りませんけど...。」
嘘だろ?おい...。
「嘘だろ?おい...。」
俺は思ったことをそのまま口に出した。
「いえ、そんなこと言われても知らないものは知りませんね。はじめて合った時、仕事を探しているのをララが見つけてミアが声をかけて...。」
「いや、それは聞いた。そうじゃなくて、入団の時に住んでる場所とか聞いてないのか?」
「...そういえば聞いてませんね。」
なんてこった...。
「おまえ、それは命を預かるものとしてどーなのよ。つーか、あんな魔法使うんだぞ?貴族のぼっちゃんとかじゃねぇだろうな...。」
「団長それはねぇーって。」
俺の懸念にそれまで話を聞いているだけだった、他の副団長、ブッチが笑いやがる。
「なんでそう思うんだよ。あの魔法だぞ?あの歳であれだけの魔法使うんだ、誰かに教わったってことだろ?あんな魔法、貴族お抱えの魔術師でもないと使えねぇんじゃねぇのか?」
「それは...まぁそうだけどよ。あのガキが貴族って見た目かよ。」
言われてみればそうだ、いっつも安そうな普通の服を着...。
そこで俺は気づいた。
「なぁ、あいつなんでいっつもあんな格好なんだ?」
「はぁ?」
話に参加してなかった他の副団長まで首を傾げやがった。
何言ってんだこいつはって顔だ...。本当に団長に対する敬意とかがねぇ野郎どもだ。
「あれだけ仕事してんだ。金はあるはずだろ?なんで装備買ってねぇんだ?ミアやララはどんどん装備がいいものに変わってるじゃねぇか。なのにあいつはずっと普通に服着てるだけだぞ?鎧やローブどころか、杖すらもってねぇ。...自分に使ってねぇならあいつは金をなんに使ってんだ?」
「それは...言われてみれば...。」
「確かに傭兵っていうか見た目はいつも普通の子供だな...。」
「ていうか、普通に装備なしで討伐任務とかしてたのか...あいつ。」
なんで誰も気づいてねぇんだ...俺より接する機会が多いはずだろう?
俺はこの中で一番付き合いの長いはずのライラを見る。
ダメだ...今気づいたって顔してやがる...。無表情を保とうとしていやがるが、長い付き合いだ。俺には分かる。
「誰か、身元の確認しなかったのか?そもそも親御さんはどうなってんだ?子供の独り暮らしってこともねーだろ。」
「っていってもよ。」
「だよなぁ...。」
反応がイマイチだ。なぜだ?俺は間違ったことをいっちゃいねぇ。
「団長ですよね。無条件で入団を許したの。」
.........そうだった。
そして、俺はこのあと、ミアとララを呼び出した。
ついでに諜報担当であるワッカーと、直属の上司であるライラも残っている。
「お前ら、アレイフがどこに住んでて、何に金使ってるか知ってるか?」
「知らにゃーい。」
「知らないの。」
こいつら、平然と嘘つきやがった。
ミアは下手くそな口笛吹きながら明後日の方角を見てやがるし、ララも目が完全に泳いでいる。
「別に咎める気はねぇ。ただな、同じ団員なのに何も知らねぇのもおかしいだろ?ましてや俺は団長だぞ?」
俺はもっともらしいことを2人に言う。
「知ってるなら案内してくれるか。」
「いや、あちしはほんとに住んでるとこしらにゃい。」
「私は...知ってるの。」
「じゃあ案内してくれや。後で一緒にいくぞ。」
「行くの!?」
「いや、挨拶ぐらいはしといた方がいいだろ。」
「皆で行くのかにゃ?」
これで1つ片付いた。
ついでにもう1つの疑問も解消しとくか。
「お前ら、依頼料ってどうわけてんだ?」
「3等分にゃ。」
「団に入れる分を除いて3等分してるの。」
どうやら金はちゃんと分けてるらしい。
「金がない訳じゃねぇのか...あいつ装備つけてねぇだろ?なんか知ってるか?」
「しらにゃーい。」
「前に言ったことはあるの。」
「装備買えってか?」
俺の言葉にララが頷いた。
「でも、ミアが守ってくれるからって買わなかったみたいなの。」
「にゃふふ。頼りにされてるにゃ!」
一応疑問に思って聞いたとこはあるみたいだな。
だが、簡単にごまかされたみたいだ。
俺はため息をつきながら、ララにとりあえず案内するように言う。
俺とララだけで行こうと思っていたが、当然のようにミアとライラがついてきた。
そして何故かワッカーもいる。
...こいつが他人に興味をもつなんてめずらしい。
途中、手土産を買い、ララの案内で俺たちは大きな建物の前に案内されてきた。
『ドミニク園』
おい、これって孤児院じゃねぇのか?
「おい、これって孤児院じゃねぇのか?」
俺の思いはそのまま口から放たれた。
「そうなの。」
「どう見ても孤児院ね。」
思ったことをそのまま口に出した俺に、ララとライラが肯定する。
しかし、俺がおかしいとおもったのはそこじゃねぇ。
「あいつ孤児なのか?」
「あーそれ言ってたにゃ。孤児だって。」
マジか...ならなんだあの魔法は。師匠なしで習得できるレベルじゃねぇぞ。
「最近の孤児院では魔法なんて教えるのか?」
「さぁ?」
さぁって...本当に頼りになる副団長様だ...。こいつは普段きっちりしてるくせにこういう常識的なところが抜けてやがる。俺がしっかりしねぇとな。
「孤児院は国の援助で15歳まで面倒を見る。そのあとは本人次第だが基本的に住み込みの仕事や寮がある学校に入るのが主流だ。」
頼りになるもう一人の副団長ことワッカーが説明してくれた。
だが、魔法を教えるかどうかはわからないらしい。
わからないことは本人に聞きゃーいいか。
とりあえず、こんな門前でぼーっと突っ立てても仕方ねぇ。
俺を先頭に門をくぐる。
「じゃまするぞ。誰かいねーか?」
扉を開けると、すぐそこに見知った顔があった。
アレイフだ。
目を見開いて、驚いた顔で口を半開きにし、こっちを見て固まっている。
いつも子供らしくない澄まし顔だってのに、よっぽど驚いたのか。
けど、そっちのほうが子供っぽくていい。
いや、違う...そんなことよりだ!
天使だ。
そう...俺はこの日。
運命の天使を目にした。
僕の恐れていたことが起こってしまった。
いや、それ以上だ。
ミアやララならいつかは来るかもしれないと思ってたけど、これは予想外だ。
僕はちょうどローラ姉さんのリハビリの手伝いをして園内を歩き回っていた。
そしてちょうど2階に戻るため、玄関に近い階段のところへ来たとき。
その瞬間は訪れた。
「じゃまするぞ。誰かいねーか?」
無遠慮に入ってきたその大きな男は、入ってくるなり僕等を見つけた。
さすがに、全く反応できなかった...。
ローラ姉さんも驚いていたが、僕の方を見て、知り合い?という目線を向けてきた。
ダメだ...ごまかせる気がしない。
「だ、団長。なんでここに?」
「お、おう。いやな。一度挨拶ぐらいしとこうとおもってな。」
何故か歯切れの悪い団長。
目線は僕ではなくローラ姉さんに釘付けになっている。
「えっと、アレイフのお知り合いですか?私はローラといいます。すいません。お見苦しい姿で。」
ローラ姉さんは杖をついて、僕に補助されて歩く練習をしている状態だ。
団長の顔は真っ赤になる。
「お、俺...いや、私はカシム・ドレイブといい...申します。傭兵団の団長をしております。い、以後御見知りおきをお願い致します。」
私っていま言った?
少しおかしな言葉遣いで団長が礼をする。
...深い。
ローラ姉さんは口元に笑みを浮かべた。
「ご丁寧にどうも。よろしければ上がっていって下さい。後ろにも...どなたかいらっしゃいますか?」
ローラ姉さんに言われて気づいた。
団長の後ろには何人かの影が見えている。
何しに来たんだろう...。嫌な予感しかしない。
「で、ではお言葉にあま」
「ダンチョーにゃにしてるにゃ?」
「邪魔なの。」
団長が何か言い終わる前に、押しのけるようにミアとララが顔をだす。
「おぉー少年!じゃなかったアレイフ!遊びに来たのにゃー!」
「違うの。挨拶なの。」
僕はもう...苦笑いしか出なかった。いつかこんな日が来るかもとは思ってたけど、早い...早すぎる。
「なに?お客さん?あ...。」
イレーゼが奥の方から騒ぎを聞きつけてやってきた。
なぜか、ララとミアを見て固まっている。
「レーゼ、お客様みたい。ご案内して。」
「え、あ...うん、ど、どうぞ。」
戸惑いながらもイレーゼが食堂の方へ団長達を案内しようとする。
しかし団長は動かない。
目は僕...ではなくローラ姉さんの方をじっと見ている。
「あの...何か?」
「あ、いいえ。お邪魔致しますです。」
そういうと名残惜しそうな顔をして団長はイレーゼの後についていった。
ミアとララもそっちに続く。
「お邪魔します。」
「失礼。」
そして、ライラさんとワッカーさんが入ってきた。
僕が目を丸くすると、ライラさんは片手を上げて「すまない。」のポーズを取る。
2人が食堂の方に向かうと、ローラ姉さんは僕の方を見た。
「仕事関係?」
「う...うん。そうなんだけど。」
「どうしたの?」
「いや、何しに来たのかなって...。」
「遊びにって言ってたけれど。」
「まさか...。」
ミアとララだけならそれもあり得るが、団長やライラさんに、ワッカーさんまで揃って来てそれはないだろう。
「私も同席していい?」
「...本気ですか?」
「何、その言葉遣い。ほら、イレーゼが待ってるわ。」
ローラ姉さんは笑いながら、僕に行きましょうと声をかけた。その顔は好奇心にワクワクする小さい子どもみたいだった。
僕の顔には苦笑いがずっと張り付いていたはずだ。




