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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第2章 傭兵団時代
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第16話 入団と条件

「ん...。」


 うっすらと目を開ける。

 少し黒ずんだ天井...僕はベッドに寝かされてるみたいだ。

 周りを見ようと横を見ると、大きな目と目が合った。


「おぉ!起きたにゃ!」


「ライラを呼んでくるの。」


 トタトタと遠ざかって行く足音。

 目の前にミアがいることを認識して、起き上がろうとすると、激痛が走った。


「うぅ...。」


 お腹が痛い...。

 うずくまる僕にミアが心配そうに問いかける?


「大丈夫かにゃ?もうすぐライラが来るからもう少し静かに寝てるといいにゃ。」


「...うん、わかった。...ところで、ここはどこ?」


 僕はお腹を押さえながらミアに質問した。

 病院というよりは誰かの部屋のベットに寝かされているみたいだけど、どうしてこうなったのか記憶があやふやだ。


「入団試験で怪我したってきいたにゃ。覚えてにゃい?」


「入団試験...?」


 記憶が鮮明になってくる。確か...そうだ。

 この傭兵団の団長...たしかカシムさんといったっけ?その人と戦って、僕は負けたんだった。

 最後の方はあまり覚えてない。

 たしか、全力の攻撃をすべて避けられて、その上魔法を使うまえに攻撃され...全く手がでなかった。

 気づいたらベットの上。

 あれが試験だっていうならたぶん不合格なんだろうなと気が重くなる。


 あれ?そういえばミアとララもいたはずだ。


「ミアとララは無事だったの?」


「無事ってどういうことにゃ?」


 気絶...というか寝てたんだろうか。本人に覚えはないらしい。


 そこで複数人の足音が近づいてきた。

 僕は横になったままなので誰が来たか全員はわからなかったけど、真っ先に入ってきたのはララだ。

 ライラさんがその後ろにいた。


「よかった。目が覚めて。それでどうだい?身体の調子は。吐き気がするとかはない?」


「吐き気はありませんけど、お腹が痛いです。」


「あーそれはそうだろうね...。すまないね。うちの団長が...。」


 そういうと、ライラさんは僕のお腹の辺りに手をあて、何か唱え出した。

 ライラさんの手が少し光る。と同時にお腹が暖かくなってきた。

 ララのとは少し違うけど、これも回復魔法みたいだ。


「ライラも回復魔法が使えるの。私よりちょっとだけすごいの。」


「そんなことないにゃ。ライラの魔法のがすごく効くにゃ。」


「そ、それは仕方ないの。私は風属性で、ライラは土なの。」


「属性のせいにするにゃ。」


 ミアとララがにらみ合う。


「っと、どう?起き上がれる?」


 ライラさんの魔法で随分痛みが消えた。

 まだ少し痛いけど、起きるのには問題なさそうだ。僕は上半身を起こした。


 そこには、ベットからかなり距離をとり、部屋の隅でこちらを伺っている団長がいた。

 心なしか、肩が落ちていて、まるで落ち込んでいるように見えるのはなぜだろう。


「お、おう。大丈夫か?」


「大丈夫だったら寝てにゃいにゃ。」


「加害者本人のセリフじゃないの。」


 蔑みにも似た目でカシムさんを見ながら敵意を向けるミアとララ。


「大人げないを通り越して、軽蔑されてもしかたない所業だと思いますが。...さすがの私もひいています。」


 ライラさんが追い打ちをかける。


「団長、負け戦だ。」


 いつのまにか部屋に入ってミアの後ろに立っていたワッカーさんが続けて団長に声をかけた。


「わ、悪かった。すべて芝居だったんだ。騙すような...。」


「そこじゃないでしょう。」


 団長の謝罪をライラさんが容赦なく切り捨てる。


「それに、かなり早い段階でバレてましたよ。いや、なんでバレてないと思ってるんですか?」


「な...なんだと!?バレてたってのか!?あの完璧な演技が!」


「団長、無理だ。」


 ライラさんとワッカーさんに言われたことがショックだったのか、団長は肩を落としたまま、両膝をついてしまった。


「おっと、それだけじゃねぇ。すまなかった。試験とはいえやりすぎた!」


 両膝をついたまま、団長は僕に向かって頭を下げた。


「えっと...。」


 僕は大人の人に、ここまで頭を下げられたことがないので、戸惑う。


「すまない。悪ふざけが過ぎたとはいえ、やりすぎた。悪気はなかったんだ。許してやってくれないだろうか。」


「団長も反省している。」


 ライラさんとワッカーさんの目が僕のほうを向く。


「だ、大丈夫です。そんな謝らなくても。試験だったんですし、僕が未熟で負けたんですから仕方ありません。」


「いや、きちんと謝らせてくれ。」


 焦る僕に団長が膝をついたままにじり寄ってきた。

 ちょっと怖い。


 第一、僕のような子供にそこまで謝る必要はない気がする...。

 芝居だったにせよ、僕も本気で戦ったわけだし、怪我をさせられたからといって僕が何かできるわけでもない。


「わ、分かりました。だから立ってください。」


「ほ、本当か?許してくれるんだな?恨んでもないんだな?」


「はい。大丈夫ですから。」


 僕の言葉を聞いて、団長が嬉しそうに立ち上がる。

 初めに会った時とは随分印象が違うな。と僕が顔を見ていると、団長が僕の前に歩み出て、手を差し出してきた。


「改めて、銀鷹傭兵団、団長のカシム・ドレイブだ。歓迎するぞ、アレイフ。」


 僕は急に雰囲気の変わった団長に驚き、手と顔を交互に見てしまった。


「入団希望なんだろう?」


「歓迎。」


 ライラさんが笑っている。

 ワッカーさんも顔が布でかくれていて、顔がわからないが、目を細めているのでたぶん笑っているんだろう。


 僕は恐る恐る団長、カシムさんの手を取った。

 大きな手に包み込むように握られ、上下にブンブンと振られる。


「これでアレイフも傭兵団のにゃかま入りにゃ!」


「仲間なの。」


 ミアとララも嬉しそうにはしゃいでいた。


「アレイフはミア、ララとパーティを組んでんだろ?なら隊としてはライラの下につけ。まぁ細かいことはライラから後で聞いてくれ。基本的にそんな縛りはねぇから。」


「はい。」


 僕はまだ戸惑っていた。


「で、だ。まだ身体の調子は悪いとは思うが、とても大事な任務があんだ。それだけはなんとか先に頼めねぇか?」


「なんですか?」


 カシムさんは真面目な顔で僕の肩をたたく。


「悪いんだが、立ち上がれるようになったら、俺と並んで下の酒場に顔をだしてほしいんだ。」


「僕、お酒とか飲めませんけど...。」


「いや、そうじゃなくてな...なんていうか。お披露目...そう新しい団員のお披露目だ。ここのメンバー意外にもちゃんと紹介しねぇとな!」


 そこで、カシムさんは気まずそうな顔をしたが、笑顔を取り繕った。あまり感情を隠すのがうまくないらしい。

 この部屋はどうやらいつもミア達と待ち合わせする酒場の上の宿屋みたいだ。


「団長、ダメですよ。ちゃんと言わないと。」


 ライラさんが割って入り、笑いながら僕の方を向く。


「あの戦いを見ていた他の団員の批判がすごくてね。悪いんだけど仲直りしたって証拠に一緒に降りてほしいってことなんだよ。」


「批判ですか?」


 不思議そうな僕にライラさんは笑いながら答えてくれた。それに対して、団長は苦い顔をしている。


「アレイフの顔はもうミアやララのパーティとしてかなりの団員が知っている。ミアとララが自慢げに話まくってたからね。すっごい魔術師だーって。」


「私はいってないの。ミアなの。」


「本当のことにゃ?にゃにか問題あるのかにゃ?」


 どうやら僕の知らないところで大げさに広まっていたらしい。


「で、だ。年端もいかない少年だということも、もちろん知っている。その少年をわざわざ、大人、それも団の代表がしょうもない寸劇の上に、本気で蹴り飛ばしたということもすぐに広まった。」


「い、いや、本気じゃ...。」


「あれは誰がどう見ても本気でしたよね。」


 弁解しようとしたカシムさんが、ライラさんに言い負かされる。


「大人げない以前に、人としてどうだという不信を持つものも少なくない。というか蔑みの目を向けるものがかなり多い。」


 気のせいか、カシムさんがシュンとしている。

 チラっと横目で見て、ライラさんが続ける。


「そこで、仲直りということで、仲良く酒場に降りて団員達に弁解しようと考えたわけ。ですよね?団長。」


「......。」


 無言ということは肯定ということだろう。


「そういえば、いつもあんな入団試験を?」


 疑問におもったことも聞いてみたが、みんな顔を見合わせた。


「いや、実力は確認するけど、あんな芝居までは...そういえば何で今回は?」


 ライラさんが首をかしげながら聞くと、団員はいいづらそうに答えた。


「いや、だってよ?俺の知らねぇとこでミアやララとパーティー組んでるしよ。みんな、なぁなぁで認める気だっただろ?ていうか、ライラなんて俺を無視して手続き進めようとしてるしよ。それを誰も止めねぇし。」


「...いや、団長最近は飲んだくれて、二日酔いで寝てばっかりじゃないですか。それに、それなら芝居を打つ必要はないでしょう?」


「いや...やっぱよ。圧倒的戦力差を感じつつ、それでも仲間を助けるって、シチュエーションが男を試すには最適だろ?欲をいうなら魔法じゃなく剣士がよかったぜ。」


「...アレイフ、無理に許す必要はにゃいよ。」


「そうなの...完全に自業自得なの。」


 黙っているが、ワッカーさんも目を閉じている。

 僕にとって幸いなことに、そしてカシムさんにとって残念なことに、この部屋には僕の味方しかいないらしい。


「な、なぁ頼むよ、アレイフ。一緒にしたに行こうぜ。」


 カシムさんが拝み倒す姿勢をとる。

 なんて腰の低い団長さんだ...。


 僕は笑顔でカシムさんに答えて、ベットから降りた。

そんな僕を見て、カシムさんの顔が輝いた。


 今日から僕の傭兵としての生活が始まる。


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