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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第1章 孤児院時代
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第10話 ある冒険者の受難

◼️主人公視点ではありません


 完全な誤算だった。


 まさかダンジョンに入るのに手続きがいるなんて。

 この国で身分証なんて作ってねーよ。


 着いたらとりあえずダンジョンに潜るつもりで、なんとかなると豪遊しながら来たのがよくなかった。もう資金がほとんどねぇ…。


 ボードにある依頼も残念なもんばっかだ…採集に護衛、人探しとどれも俺には向かねぇやつばっかだ。しかももう夜ときた。

 今からできる仕事となると…ねぇよなぁ。

 まぁ、数日ぐれぇは待てるかと、財布をみたらそんな余裕はなかった…今日と明日ちゃんとした飯を食うか、宿にとまるかの二択だ。もちろん宿に泊まったら飯はねぇ…。


 いや、1択だろ。


 宿は我慢できるが、飯はヤバイ。最悪明日は変な依頼でもこなして食いつがなきゃいけねぇ。


 そして、少しでも飯代を浮かそうと、路地裏のきたねぇ串焼きと汁もんを飲んだのが次の不運だった。


 ……は、腹が…。( >д<)m


 まさか、こんな簡単にあたるとは…腹の強さには自信があったんだが…いや、そもそもさっき食ったやつのどっちかがヤバすぎたってことだろ…。

 まずいな…痛みで身動き…できねぇ…。


 道端で急に動けなくなり、脂汗をだらだらかいてる俺は助けを求めることもできず、周りの奴等も話しかてくるわけもなく、どうしようもなぇ長い時間のあと……急に女神が降臨した。


「あの、大丈夫ですか?…お腹が、痛いんですか?」


もう、なにも答えられず、頷くことすら、わずかにしかできねぇ俺に、女神は肩をかし、道のわきにつれていった上で、なにか薬を飲ませてくれた。

 しばらくたつと、痛みが大分やわらいできた。薬のおかげか、完全には治ってねぇが、動いたり、話したりできるぐらいまではもちなおした。


「あ、ありが…とう。」


息も絶え絶えに礼をいう俺に、女神は無邪気に微笑んだ。


「いえ、困ったときはお互い様です。それ、ただの鎮痛剤なので、診療所にいったほうがいいですよ。」


「あ…あぁ、それは…。」


 そんな金はの余裕は……。


「そういえば、路地裏で何かあったらしくて、腹痛で運ばれてる人が多いみたいですよ。変なものでも……って、まさか、貴方も?」


「あ、あぁ…たぶんそうだ。」


「大変!早く診療所に行かないと!」


「いや…それは…」


「何いってるんですか!行きますよ!それに被害にあった人を兵士さんが探してたんです。」


 女神は俺を引っ張り、診療所に連れていってくれた。

 運良く、情報提供すれば診療代は兵士が立て替えてくれるらしい。内心かなりホッとしたが、診療が終わる頃には、女神の姿はなかった。ちゃんと礼も言えてねぇのに。つーか、なんだあの女神は。俺の娘とそんなに歳はかわらなさそうだったが…。

 決めた。次あったらぜってー恩返しする。


 そう心に誓ったが、次に女神とあったとき、俺はまだショボい依頼で食いつなぐ、その日暮らしをしていて、とてもじゃねーが恩返しができる状況じゃなかった。

 ただ、その時は女神の弟?がいて、孤児院の子達だそーだ。これで偶然に任せなくても、恩返しできるし、何を返すかも目処がたった。そもそも、孤児院なら必要なもんはいくらでもある。


 あとは金を稼ぐだけだが…そろそろ本気を出す必要がありそうだ。


 それから数日。やっと待望の討伐依頼。そして、それなりの実りある仕事がきた。ボードを見てにやつきながら、俺はシザーアントの討伐任務に登録することにした。

 依頼主が国になってるから、森で増えた魔物を間引く依頼だろう。討伐証明は魔石で、魔石の買い取りとあわせた値段で何匹でもときてる。

 アリ系の魔物は個体としちゃーたいしたことねぇが、数が多い。

 それは俺が志願したシザーアントも例外ではない上、アリというよりはカマキリみてぇな姿をした大人の大きさぐれーあるでっけぇ魔物だ。

 名前の通り、口と両足にするどい刃物がついてて、それを剣みてぇに使い攻撃する、アリ系にしちゃ厄介な部類にはいるやつだ。

 1体でもかなり危険だが、これが数十体単位で遅いかかってくるってゆーんだから囲まれでもしたら笑えねぇ。

 なんつっても全方向から刺されたらどんな達人でも防ぐのは無理だ。


 狩れば狩るほど金になる依頼だが、森にいるアリの数は無限じゃねぇ。早い者勝なのはしかたねぇし、さっさといこう。

 手早く準備を整え、俺は森に入った。


 そう、そこまではよかったんだ。大金を稼ぐチャンスだったし、シザーアントなら狩ったこともある。

 それどころか、習性もよく知ってし、他に討伐依頼にきてる奴等もみない。これは独り占めかと思ってた。


 そう、シザーアントが好みそうな水辺に来るまでは…。


 水辺までの状況はよかった。これまでの不運の分、今回はツイてると喜んでたってのに…。

 俺にとって誤算だったのは、今俺の足に抱きついてるガキだ。

 魔物討伐に来た俺が、何故か迷子のガキを保護する羽目になったかって?

 しかたねぇだろう?こんな魔物だらけの場所に放置するわけにもいかねぇし。見ちまったもんはしかたねぇ。


 とりあえず森に入り、シザーアントを探しながら川のほとりに来たところで、岩陰にうずくまるガキを見つけることになっちまった。

 最初見たときは見間違いかとおもったが、間違いなく人間のガキだ。

 ガキの方は、俺を見つけて一目散に走りより、俺の足にしがみついた。

 そして、今にいたる。


 んーたぶん女の子だな。10歳程度か?

 なんでこんなガキが魔物だらけの森の中に1人でいるんだ?

 …考えても仕方ねぇか。本人に聞いたほうが早そうだ。


「嬢ちゃん、名前は?」


「…マウ。」


「マウってのか。それで、こんなところで何してんだぃ?」


「キノコ、探しに。薬湯、おばあちゃんの。」


 薬湯?…材料になるキノコを取りに来たってことか?一人で?


「一人で来たのか?」


「…うん。」


「ここが魔物もでる森だってわかってるか?」


「…まもの?」


 ガキ…マウが首をかしげる。

 わかってねぇようだ。


「ここはガキが一人で来るような場所じゃねぇんだよ。で、なんであんなところに隠れてたんだ?」


「…帰り道が。変な声がしたから。怖くて。」


 そう言うとマウは目に涙を浮かべた。

 たぶん、キノコを探しに来たはいいが、帰り道に迷って魔物の遠吠えでもきいたってとこか。

 さすがに、ほっとけねぇし。

 討伐に連れてくわけにもいかねぇ。完全な足手まといになる。

 …一旦街に戻るしかねぇか。


「しかたねぇ。街におくっていってやるよ。ほら、行くぞ。」


「…まだキノコが。」


「だからここは危ないんだって。」


「キノコ…。」


 また涙目になるマウ。我ながら女子供には弱いな。


「はぁ…で、そのキノコってのはどんなやつかわかってるのか?」


「…これ。」


 マウがポケットから1枚の紙を取り出した。

 図鑑の切れ端だろうか。そこには「セオダケ」というキノコが描かれていた。

 …腰痛に効くらしい。

 更に川の近くの岩場に自生するめずらしいキノコだと書かれていた。

 ……待てよ。こいつの婆さんの病って腰痛か?命に関わるもんじゃねぇのかよ…。なんで、このガキは命懸けてそんなもん探しにきてんだ?婆さんも、孫の命を懸けてまで腰痛を治したいとは思わねぇだろうに…。

 やっぱり、一旦帰ったほうがいい気がしてきた。

 探してやる気もあったが、腰痛のためって聞いて、一気にやる気がなくなったわ。

 よし、やっぱりこのガキを連れて一旦街に帰ろう。


「あそこになってる。」


「…なに?」


 マウが川の対岸を指差す。

 川幅は15メートル以上、20メートルはないってぐらいか…。

 目を凝らしてよく見ると、確かにちょうど対岸のあたりに似たようなキノコが見える。

 それもかなりの数だ。遠目で細かいところはわからねぇが、似ているのは間違いねぇ。

 ただ、問題はこの川だ。


 渡る橋は当然見当たらない。

 水深は、濁ってるのも原因だが、底が見えないのでそれなりには深いんだろうな。川幅からしても浅いってことはなさそうだ。

 途中に岩場みてーに都合よく足場になりそうな場所もない。


 つまり、完全に泳いで渡る必要がある。

 救いなのは水の勢いが、大人なら泳げるぐらいの勢いだってことぐれぇだ。

 いや、むしろここは水の勢いが強すぎるほうがよかったかもな。

 …だってよ。それなら諦めがつくだろう?


 マウが期待を込めた目で俺を見上げている。

 確かに、俺なら向こう岸まで渡れるだろう…。


 ずぶ濡れになりさえすればな。


 俺は大きなため息をついて、着込んでいた鎧や剣を地面に置く。


「マウつったっけ?とってきてやるからその岩場にまた隠れてろ。今はいねぇが、魔物が近くにくるかもしれねぇからな。」


 マウは満面の笑顔を俺に向けた。

 …ガキのくせに、男の扱いをよくわかってやがる。末恐ろしいやつだ。


 覚悟を決め、川に入り、泳ぐ。

 意外と水が冷てぇ。それに、深くはねぇが見た目より勢いがある。


 途中なぜこんなことをしているんだと自分の行動に疑問をもったが、もう川に入っちまってるし、あきらめて対岸を目指した。


 ほどなく対岸につき、キノコを確認する。

 かなりたくさんなってるが、どれぐらいいるんだ?

 …肝心の量をきいてなかったが、煎じるにしてもそんな量はらねぇよな?…まぁ適当にとっていくか。


 いくつかキノコを掲げて、とれた証拠にマウに向かって見せてやろうと振り向いた。


 そこで俺が見たのは、川の向こうから俺の方を嬉しそうに見て、手をふるマウと、後ろから姿を現したシザーアントの姿だった。


 あのガキ、岩陰に隠れとけっていったのに!

 俺は毒づくと、大声で叫ぶ。


「後ろだ!逃げろ!」


 マウのキョトンとした顔に苛立ちつつも。説明よりも急行することを選んだ俺はとっさにキノコをほって、急いで川に飛び込んだ。

 せっかく助けたのに、目の前で蟻ごときに殺させる訳にはいかねぇ。


 やっぱり、黙って街まで連れ帰ればよかったか?

 なんなら、後で俺がとってきてやればよかったんだ。どうせこのあたりにはシザーアント目当てでまた来る事になるんだしよ。


 行きとは違い、川を必死に泳ぐ中、俺は後悔していた。

 どうか逃げおおせていますように。

 すがる思いで祈りながら、俺はいっきに川を渡りきった。


 やっとのことで川を渡りきった俺の目の前には更に予想の斜め上をいく光景が広がっていた。


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