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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第1章 孤児院時代
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第9話 不穏な前兆

◼️別視点です


 少しずつ太陽が顔をだし、空が白みはじめる頃、巡回している兵士の1人がため息をつく。


「最近多くねぇか?」


「あぁ、行き倒れの浮浪者だよな。ほんとまいるよな。」


「見つけた巡回班が回収って理不尽なルールだよな。ていうか、朝方が一番不利じゃねぇか?」


「しかたねぇさ、夜中の巡回から朝の巡回が一番時間空いてんだから。」


 愚痴をこぼしながら、慣れた手付きで兵士が死体を担架に乗せる。

 街の治安維持のための巡回だが、彼らの言うとおり、事件性のない浮浪者などの死体が見つかった場合、死体を運ぶのは見つけた巡回班の人間になる。

 ここ南区の貧民街ではそれほどめずらしい光景ではない。


「にしても、ここ数ヶ月でもう何人だ?外傷はねぇし、浮浪者みたいなやつばかりだから事件性はないと思うが。」


「それな。昨日の巡回班のやつが報告あげてたぜ。最近多すぎるからもしかするとってことでな。」


「じゃあ上は認識してるんだな。こっちでも報告あげとくか?」


「まぁそうだな。昨日の奴らの報告を援護するわけじゃねぇが、一応報告はあげとこう。最近多いのは確かだしな。」


「真冬の時期でもねぇのに、おかしなことだ。」


「まったくだな。」


「それによ。……なんか笑ってねぇか?」


「…やめろよ。気味がわりぃ。」


「あ、それ俺も思った。最近の浮浪者の死体だけどな。みんな幸せそうな顔で死んでんだよ。」


「苦しまずに幸せな夢でも見ながらぽっくりいったってことか?」


「どうだろうな。まぁ幸せそうならまだいいんじゃねぇか?」


「まぁ…そうだな。」


 死体を運ぶ準備を終え、巡回を一時中断して彼らは詰所に戻っていく。



◼️アレイフ視点です


 今日は久々の休みだ。

 園でのんびりすることに決めてる。といっても園の仕事はするからゴロゴロするわけじゃない。

 リュッカ姉さんとゼフはもう出かけて行った。

 今はイレーゼと一緒に洗濯物を干している。

 最近、イレーゼが僕の行動を怪しんでいる気がする。


 …無理もない、ミアとの訓練でボロボロになって、怪我は直してもらえるけど、アザや傷跡までは綺麗に治らない。どう見ても打撲や擦り傷の怪我をして帰ってきてるのがバレる。

 それに最近は稼ぐお金の額も少し増えたから余計怪しまれているみたいだ。

 一度に渡すとさすがに怪しすぎるので、これでもいくらかは僕が隠し持っている。

 実際に稼いでいる金額の半分ぐらいしかイレーゼには渡していない。

 貯金みたいになってるけど、このお金もそのうちリュッカ姉さんあたりに渡して園の為に使ってもらおうと思う。イレーゼと違ってリュッカ姉さんならあまり深い事情まで聞いてこない気がするから。


「ねぇアレイフ、最近怪我が多いけど、仕事が大変なの?」


「だいぶ慣れてきたけどまだ…ね。始めたばかりだから慣れなくて。それにほら、ゼフみたいに運動が得意って訳じゃないし。」


 嘘はいってない。


「そう。……無理はしないでね。」


「うん、わかってるよ。」


 嘘はいっていないものの、本当のことを言えない後暗さで、イレーゼに笑顔を向けてごまかす。

 本当のことをいったら、きっともっと心配させる。

 それどころか、仕事をやめろといわれるかもしれない。なぜかイレーゼは僕に対して過保護な面がある。一歳しか変わらないのに。


 確かに少し危ない仕事だけど、ミアやララとのパーティは面白いし、今のところ上手くいっている。

 お金を稼ぐために始めたことだけど、1人でできないことをパーティで達成したときの嬉しさがなんともいえない。

 最初はミアにいわれて始めた訓練も正直かなりきついけど、2人に比べてまだまだ素人の僕が怪我をしないためには必要なことだと思う。


「そういえばさ、最近変な人が園の周りをうろついてるみたいなの。アレイフは見なかった?」


「変な人ってどんな?」


「小柄なんだけど、茶色のローブを着ていて、フードを被って顔を隠してるらしいの。園のほうをジーっと見てて、こっちが気づくと隠れたり逃げたりするんだって。」


 危うく、洗濯物を落としそうになる。


「そ、それは怪しいね。レーゼも見たの?」


「ううん。私は見てない。年少組がよく見かけるらしいの。なかには怖がってる子もいて…。でも、不思議なことに見てるのは年少組だけなのよ。なんなんだろうね。」


「ほ、本当だね。」


 心当たりがありすぎる。明日聞いてみよう。たぶんどっちかだ。

 いったいどうやってこの場所を…話してないはずなのに。


「あ、ごめん。ローラ姉さんとこいかなきゃ。あと任せていい?」


「うん、わかった。終わったらそっち手伝う?」


「んーそうね。終わったら来て。」


「了解。」


 イレーゼは園の中に、僕は洗濯物を干す作業に戻る。

 ローラ姉さんの足は全くよくならない。けれど、ほっておくと、どんどん筋肉がなくなって、絶対に歩けなくなるらしいから、イレーゼが毎日マッサージしたり、支えて歩く真似事のような運動もしている。

 さすがにイレーゼだけでは姉さんの身体を支えきれないので、手の空いた誰かが手伝っている。

 もちろん、仕事をしていない日は僕やゼフも手伝う。ローラ姉さんはいつも申し訳なさそうな顔をしている。


 洗濯物を干し終えて、僕はローラ姉さんの部屋に移動した。


「アレイフ、また怪我が増えてない?」


 ローラ姉さんが心配そうに聞いてくる。

 第一声がそれだった。

 長袖を着てるんだけど、なんでわかるんだろう…。

 そんなに目立つ怪我はない気がするけれど。


「そうかな?ちょっとぶつけたりしただけだよ。」


 そう言いながら、イレーゼと左右にわかれて、ローラ姉さんを支える。


「本当に?仕事がきついんじゃないの?」


「ううん。最近仕事にも慣れてきたから、楽しくなってきたよ。」


「大怪我するような仕事じゃないのよね。」


「大丈夫だよ。気をつけてるから。」


 嘘はいってない。


「ローラ姉さん、言ってやってよ。アレイフのやつ。どこでなんの仕事してるか私やゼフにもいわないんだよ。」


「そうなの?まさか本当に危ないことしてるんじゃないわよね?」


「してないよ。普通の荷物運びの仕事だよ。」


 うん、ギリギリ嘘じゃない。依頼されたものをとってきたりと、一応物を運ぶ仕事だから。

 ちょっと途中で魔物と戦ったり、崖から落ちそうになったりとかはあるけど…。


「アレイフに限って悪いことをしているわけじゃないとおもうけど、気をつけるのよ?」


「わかってるよ。ローラ姉さん。」


 ローラ姉さんの運動を手伝ったあとは、イレーゼと2人でご飯を持ち寄って、3人で食事をした。

 ローラ姉さんが食堂に行きたがらないから、園にいるときはここで食事することが多くなった気がする。

 最近は元気で、笑顔を見ることもできるようになって良かったと思う。ゼフなんか、家ではリュッカ姉さんの側にいなければこの部屋にいるってぐらい頻繁に出入りしてる。

そのおかげもあるのか、少しでもローラ姉さんが元気になって本当によかった。


「ちょっとごめんね。悪いけど急ぎで話したいから移動してくれないかい。」


 団欒の中、珍しくフィーが話しかけてきた。

 どこか切羽詰まった感じだ。

 普段は他の誰かがいるときに話しかけてくることがないフィーにしては珍しい。

 それだけ緊急事態なんだろうか。

 僕はトイレということで、ローラ姉さんの部屋を出て、近くにあった自分の部屋に移動する。

 いまは昼食中だから、年少組は食堂にいるはず。

 案の定、誰もいない部屋に入り、ドアを閉めてフィーに話を促す。


「どうしたの?」


「本来、僕の口から教えることができないことなんだけど、君の悲しむ顔は見たくないからね。特別だよ?」


 偉そうに腕組みしたフィーが僕の目の前に移動して、言い放った。


「リュッカって子いたよね?彼女が消えたよ。」


 フィーの教えてくれた情報を、僕はすぐに理解できなかった。


 整理すると、フィーは普段から僕の関係者にはマーキングしていたらしい。マーキングは魔術の一種で、魔力を対価にその魔法を使うと、自分を中心にして、相手のいる方向や距離を知ることができる。

 本来は僕が関係者に自分でマーキングして安否確認を行ったりするんだけど、特に僕は使っていなかった。

 だけど、フィーは念のために僕の関係者をマーキングしてくれていたらしい。


 そして、リュッカ姉さんが、花屋からどこかに移動して、そこで消えたということだ。反応が消えるということは、本人の魔力が関知できなくなる。つまり、魔力を使いきったり、あまり考えたくはないけど、仮死状態になったか、死亡したということになる。

 正確にはフィーが魔力を関知できなくなるということなので、感知できないような場所に入った場合もありえるが、呪術的な場所や結界でもない限りそんな場所はなく、そんなところに普通の人間が一人で入るのは十分に異常事態ということだった。


 フィーの話を聞いて、僕はすぐに園を飛び出そうとする。


「フィー、最後にリュッカ姉さんが行った場所は?」


「分かるけど、とりあえず、花屋さんに行ったほうがいいとおもうよ。」


「なんで!?」


「いきなりリュッカって子が消えたと言って、誰が信じてくれるんだい?第一、君はどうやってそれを知ったことにするんだい?」


 フィーに言われて気づく。

 確かに僕の言うことを信じてもらうには、僕がどうやってリュッカ姉さんが消えたことを知ったのか、説明する必要がある。他人に見えないフィーに教えてもらったなんて誰も信じてくれないだろう。といってもそんな魔法が使えると言うのも難しい。僕は初級魔法しか習っていないことになっている。


「だから、とりあえず花屋さんに行くんだよ。リュッカって子はきっと配達か何かでどこかに行ったんじゃないかな?そこでなにかに巻き込まれた。…だから帰りが遅いってところからはじめるしかないよ。」


「まどろっこしい!」


「急がば回れって言葉を知らない?遠回りの方が結果的に近道になる。みたいな。」


「何それ、意味わからないんだけど!なんで遠回りの方が近道なの?」


「えっとね、なんかいろいろあるんだよ。まぁとりあえず花屋に急ぎなよ。大丈夫。偶然そういう場所に入っただけって可能性もあるし、気絶ということもありえるから。あとは…火や水や土の中…は、縁起でもないね。とりあえず、まだ危険なことになってるって決まったわけじゃないよ。」


「わかった。…フィーありがとう。」


 僕を安心させようとするフィーにお礼を言うと、僕は園を飛び出した。

 行き先を言い忘れたけど、今はそれどころじゃない。

 僕は走り続けて花屋に到着した。到着した頃には完全に息が上がっていた。


「お…お婆…さん!」


「おや?アレイフじゃないか。どうしたんだい?」


 花屋ではお婆さんが店番をしていた。汗だくで飛び込んできた僕に驚いている。

 息を整えながらお婆さんに詰め寄る。


「リュッカ姉さん…は?」


「リュッカなら配達に行ったよ。どうしたんだい?」


「どこに?」


「さぁねぇ、少し配達に行ってくるといって出て行ったから、すぐもどると思うけど、そういえば遅いねぇ…。」


「急用なんだけど、どこに行ったか全然手がかりもない?」


「確か、あぁそうだ、この前花束を買って行った貴族のところの執事が注文に来たんだった。でもどこの貴族かまではわからないねぇ。私は聞いてないけど、遠かったのかね?…まぁ、待っていればそろそろ戻ってくる頃だと思うよ?」


「そっか…わかったよ。でも一応近くを探してみるね。どっちにいったかわかる?」


 お婆さんが教えてくれた方向に走り出しながら、フィーに問いかける


「フィー!最後にリュッカ姉さんがいたのはどのへんか分かる?」


「わかるけど、さすがに魔法を使ってくれるかい?すでに軽く契約違反をしてるからね。」


「そうか、ごめん。」


 フィーのいった契約がなんのことか分からないが、言動を聞く限り、何かルールのようなものがあるんだろう。リュッカ姉さんのピンチを教えてくれただけでも、かなり贔屓してくれているんだと思う。

 僕は路地に入り、誰も見ていないことを確認して、フィーに呪文を教えてもらう。


「集え風よ。我望む軌跡を示せ。ウインドドック」


 風がリュッカ姉さんのいるであろう方向に吹く。風向きで対象の行き先を教えてくれる魔法らしい。

 その風を頼りに走り出そうとしたところで、目の前に見知った顔をみつけた。


 目の前をこちらにぼーっと歩くリュッカ姉さんだ。


「え?リュッカ姉さん!」


「…………。」


 リュッカ姉さんはこちらに目線をあわせ、しばらく焦点の合っていない目で僕の顔を見つめていた。

 …何か様子がおかしい?

 だけど、そう思ったのは一瞬だけだった。

 すぐにいつものリュッカ姉さんに戻る。


「……?アレイフ。どうしたの?こんなところで…。」


「リュッカ姉さんこそ、ぼーっとして何かあったの?」


「ぼーっと?…ちょっと貴族様のところにお花を届けに行っていただけよ?」


「お婆さんに聞いたけど、…遅かったね。」


「あーお茶を頂いていたのよ。定期的にお花を買ってくれるらしいから断るのも悪いし。アレイフこそどうしたの?今日はお休みでしょう?」


「さ、散歩だよ。園の仕事は終わったから。」


 僕は苦笑いをしながらフィーを睨む。

 フィーは無言でリュッカ姉さんの周りを飛びながら腕組みしていた。

 さっき少し違和感があったけど、今はなんともなさそうだ。


 僕はほっとして、リュッカ姉さんを花屋まで送り、園に帰り始めた。


「…おかしい。」


「何が?」


 帰り道、腕を組んだ状態のままでフヨフヨ飛んでいるフィーが唸っている。


「目の前に来るまで感知できなかったんだ。正確には君があの子に話しかけるまで、ボクにはあの子が感知できなかった。もちろん姿は見えてたんだけどね。」


「…それってどういうこと?」


「マーキングが効果を発揮できなくなっていたってことさ。」


「確かにちょっと様子がおかしかったね。」


「いや、一番変なのは、君が話しかけたらマーキングが復活して感知できるようになったことさ。まるで君が話しかけるまで魔力系に異常が出てたか、遮断されてたみたいに…。」


「理由はわからないの?魔力系に異常がでるとか、魔力の遮断はよく起こることなの?」


「いや、慢性的な重い病気だったり、特別なマジックアイテムを使えばできないことは…でも、見た感じ、どれもあてはまらないんだよね。うーん…なんかこれと似たようなことが昔あったような気がするんだけど……全く思い出せないんだよ。」


「とりあえず無事だったんだし、いいじゃないか。教えてくれてありがとう。フィー。」


「結局、騒いだだけになってしまったね。ごめんよ。」


「ううん。これからも頼むね。」


 そういうとフィーは悩むのをやめ、機嫌よさそうに僕の肩に腰を下ろした。

 少し気になることはあるものの、何事もなくてよかった。


 だから園に帰ったあと、急に消えた僕を探していたイレーゼに愚痴をこぼされたのはしかたない。


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