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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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隊長の純愛

 老人の手が光り、彼女の足にあてがわれる。

 部屋を小さな光が照らし、優しい光が部屋を支配する。


 しばらくたって、老人が手を止めて、彼女に笑いかけた。


「すまないねぇ...私じゃ痛みを一時的に癒してやることしかできない。」


「そんなことありません。ありがとうございます。おばあさんのおかげで少しは歩けるようになったんですよ?」


 彼女の右足に外傷はもうない。

 初期の治療がよかったおかげで外傷は残らなかった。

 それでも問題なのは中身で、骨が酷い状態になってるらしく、歩こうとするたびに痛みが走っちまうらしい。

 難しいことはわからねぇが、リハビリっていう歩く訓練をしないと治っても歩けなくなるっていうのに、歩こうとすると痛みが酷くなっていく。

 おかしな話だがどの医者も同じことを言うんだから間違いないだろうし、しかたねぇ...。


 ただの骨折ならほっといても治る。

 けど、彼女の場合はかなり酷いらしい。ほっとけば歩けないどころか、骨が腐る可能性だってあるっていうんだからほっとけねぇ。


 そういった酷いけがを治せるのは神聖魔法だ。

 今の王都じゃ使えるやつは限られてくる。

 完全に血筋に影響する魔法らしい。


 ワッカーに調べてもらった情報だと、目の前のばぁさんもかなりの使い手らしいが、それでも骨を完全に治すことはできないそうだ。

 教会の教皇や国の第一皇女がトップクラスの使い手らしいが...さすがに伝手がねぇ。

 アレイフもなんとか教会や皇女に伝手を作ろうとしているらしいが、難しいらしい。

 教会は人族以外を排斥する運動の頂点だし、皇女様はなんといっても皇族だ。さすがにただの貴族が治療を頼むことはできねぇ...そのうえ、今は外遊中でそもそもこの国にいねぇ。


 子爵っていう貴族になっても難しいんだ...身分なしの俺じゃあ、せいぜい評判のいい神聖魔法使いを探して悪化しないように、少しでも良くなるように手助けするぐらいしかできねぇ。


 もともと酒を飲むぐらいにしか金を使ってなかったから余裕はあるが...いっそ教会に寄付とやらをして無理やり伝手ができねぇかとも思ったが、ワッカーに止められた。

 寄付で教皇に会って、さらに治療を受けるなら俺の貯めてる全額を定期的に収める必要があるんだってよ。

 それも最低1年はやってはじめて交渉できるとか...気の遠くなる話だ。


「また痛みが酷くなったらおいで、完治はさせてやれんが、痛みはとってあげられるから。」


 おっと、治療が終わったみてぇだ。


「いつもありがとうな、ばぁさん、少ないが、これで...。」


 俺が懐から金のつまった袋を取り出すと、ばぁさんはシワだらけの顔をさらにシワだらけにして笑った。


「今回はええ。前回たんまりもろうたでな。それよりも、もっと頻繁に連れておいで、この婆が死ぬまでに少しでも多く治療してやらんとな。」


「いいのか?神聖魔法はけっこう負担になるんだろ?」


 神聖魔法はよくわからねぇが、他の魔法と違って魔力を貯める必要があるんだとか。

 だからトップクラスの使い手でも1日1回使えるかどうかって話だ。


「すまんのぅ...昔なら数日でまた使えるようになったんじゃが、もう歳でな。他に患者もおらんし、婆が生きておる間はここに連れて来たらええ。」


「ありがとうよ。」


「気にしなさんな。ほんにええ男じゃからな。嬢ちゃんも幸せもんじゃなぁ。」


 そういうと婆さんが彼女に微笑みかけた。

 彼女は「はい。」とだけいって、天使のような笑みを浮かべる。

 この笑顔だ...俺はこの笑顔をずっと見ていたいと思っちまう。


「じゃあ、行こうか。」


「はい。」


「気をつけてな。」


 婆さんに見送られながら、彼女を抱きかかえて馬車へ連れていく。

 ああ...この時間がずっと続けばいいのに。


 馬車に乗ると、いつも通りまっすぐ彼女が住んでいる孤児院に向かう。


「...本当にありがとうございます。私には...何も返せませんが。」


「俺がやりたくてやってることだからな...気にしないでくれ。」


「ありがとうございます...私なんかのために。」


 彼女ともだいぶ普通に話せるようになったが、いっつも彼女は自分なんかのためにって悲しそうな顔をする。なんでだ?俺がやりたいからやってることなのに。


「ローラさん、今度ちょっと町を散歩しませんか?」


 思い切って誘ってみた。

 思えば、これまで2年以上ずっと彼女にアプローチしてきたが、買い物なんかに誘ったことはなかった...。なんでかって?いや...なんて誘っていいかわからねぇじゃねぇか。


「えと...うれしいんですが...私の足だと外へは...。」


「大丈夫、俺が一緒ですから。なんならずっと抱えてますよ。」


「いや!そ、それはさすがに周りの目もありますし!」


 彼女が頬を真っ赤に染めて顔をそらす。

 ...天使だ。


「周りの目なんて気にせず行きましょう。商店街とかどうですか?」


「ええ!?...けれど...はい。そうですね。それなら私、行きたいところがあるんですけど。」


「本当ですか?どこに?」


「あの...カシムさんが仕事しているところを見せてもらえませんか?」


 ...え?


「俺の仕事ですか?...訓練なんて見ても面白くありませんよ?」


「だめですか?」


「いや、かまいませんが...。」


「それなら日を教えてください。楽しみにしてますから。」


「わ、わかりました。」


 彼女がなんで訓練を見たがったのかはわからないが、それぐらいなら問題ない。

 もうすぐまたリントヘルムへの往復任務があるので、しばらく会えなくなるし、その前になるべく彼女と過ごせるのは俺にとってもうれしい限りだ。


 彼女を園に送り届け、少し話してから園を後にする。


 隊に戻ると、訓練の予定を確認しているところでブッチとチルが俺に気づいた。


「隊長、また姉さんとこに?」


「うわ...甘い香りさせて...不潔~!」


 ブッチがあきれたみてぇに、チルに至っては俺についた彼女の匂いを敏感に感じ取ってからかってきやがった。


「俺は今日休暇だ。あとな、邪推すんじゃねーよ。俺と彼女はそんな関係じゃねぇ。」


 俺の言葉にチルが眉をひそめた。


「え...付き合ってるんでしょ?あんなに尽くしてるんだから。」


「何言ってやがる。そんなわけねぇだろ。治療は俺がしたいからしてるだけだ。」


 俺はおかしなことをいってねぇ。

 なのに、ブッチまで眉を寄せやがった。


「...隊長、さすがに、その...奥手すぎねぇか?」


「そうだよ。あっちも隊長にぞっこんじゃん!なんで付き合ってないの!?もうとっくに婚約前だとおもってたよ!?」


「こ...婚約って...なにいってやが、やがるんだ!」


 声が裏返っちまった。

 チルのやつがおかしなことをいうからだ。


「いや...なんで女のことになると隊長はそうなんだ?前は、何年前だったが?惚れた相手にアプローチしまくったけど、結局なかなか煮え切らなくて、他の男に横からかっさらわれたじゃねぇか。」


「あーあの雑貨屋の?確かそのせいで王都に移ってきたんだよね。私ら。」


「ち、違うぞ!気まずかったからじゃねぇ!王都のほうが仕事が多いから拠点を移す時期だったんだ!それにどっちにしろこっちに拠点移すんだから仕方ねぇ恋だったんだよ!」


 そうだ、確かに俺は彼女に惚れてた、だが拠点や傭兵団のことがあって踏み切れなかったんだ。

 フラれたのをいい機会に拠点を移したみてーに思われてるが、そうじゃねぇ。

 そうだ...決して彼女が家庭を気づいていく様子を見たくなかったからじゃねぇ…。


「3日3晩泣き明かした奴がよく言うよ...。」


「チル、おめーこそワッカーとどうなんだよ!アプローチしてんだろ?」


 最近仕入れた情報を使ってチルに反撃してやった。

 団長...違った。隊長として部下に言い負かされるわけにはいかねぇ。


「ああ、この前襲ったんだけど逃げられてさ、今度はもっとちゃんと罠を張るつもりだから婚約したらお祝いよろしく。」


 普通に返されちまった。

 ていうか、襲ったってなんだ!?女が男を襲ったのか!?

 確かにワッカーはあまり武芸には秀でてないが...いや、チルのやつまさか無理やりワッカーと婚約するつもりか!?


「そりゃ...ワッカーも最後だな...相手が罠や捕獲のプロであるおめぇじゃあな...。」


 ブッチ、なんで笑ってる!?


「それよりも隊長、本気で好きならグイグイ行きなよ?」


「そうだぞ、付き合うぐらいいいじゃねぇか。どうせあれだろ、そういうのはローラさんの足が治ってからとか思ってるんだろ?」


 なぜわかった!?

 確かに彼女の足が治ってから結婚を前提に付き合いを申し込むつもりだったが...。


「真剣な話さ...けっこう足悪いんでしょ?なら、支えになってあげないとダメだよ。治ったらじゃなくて、たとえ治らなくても、傍にいるって言葉で示してあげないと。彼女だって気づいてるよ?ここまでよくしてるんだから。けど、隊長が何も言わないから怪我のせいだって思っちゃってもおかしくないよ。足が悪いから先に進めないって。」


「俺もそうおもうぜ。足の怪我がどうだろうが、好きなんだろ?ならそういった方がいい。足のせいで付き合おうっていわねぇってのは、相手にも失礼だぜ。まるで隊長が相手の怪我を忌避してるみてぇだ。」


 2人に言われてみて、寒気がした。

 確かに、俺は彼女の足の怪我を理由に付き合おうといわなかった。

 けれど彼女から見たらそれはどうだ?

 俺は彼女の足を治してからでいいと思ったが、彼女はいつも自分を卑下するようなことを言ってた気がする。それは俺のせいだったのか?


「...そうだ。そうだな。わかった。次会ったときに言うことにする。...ありがとうな。」


 俺の決意の言葉に部下二人が破顔した。


「よっし!賭けの準備だ!胴元するやつも募らねぇとな。」


「大丈夫、振られたら私とナットが飲みに付き合ってあげるから。」


「おめぇら、うまくいく方に賭けねぇと大損するぜ?あと祝い酒用意しとけっ!3日3晩飲み明かしてやる!」


 部下の不器用なエールに、俺は腹をくくる。

 次...そう次は彼女が俺の訓練風景を見に来る日だ。

 その日に決めよう。

 正直に俺の気持ちを伝えよう。


 2度と彼女が自分を卑下する必要がないように。


もっと前に投稿予定だったもの・・・時系列おかしいので、ちょっと直して投稿しました・・・。

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