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聖人君子が堕ちるまで  作者: 澤田とるふ
第4章 魔国の姫君
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第92話 復興準備

 俺の目の前にはガマガエルのような中年の男が座っている。見た目はどう見ても悪党、そして元商人ということもあり、悪徳商人という言葉がよく似合う男だ。

 名前はマルディ・イッヒ男爵。

 南区に居を構える貴族で1代で男爵にのし上がった実力派。

 そしていち早く第四師団の庇護下、要するに派閥を作った人物だ。

 南区の新興貴族をまとめあげ、第四師団と取引することで影響力と派閥を大きくしていった。


 最近では魔道具製作にも力をいれており、うちの装備品一式や通信機の開発など、いろいろなルートや開発ラインをもっており、もっとも付き合いの多い貴族でもある。

 見た目に反してというと失礼だが、話しは元商人だけあってうまく、亜人差別もしない実力主義者。

 貴族にしては珍しく、孤児院への寄付や、慈善事業にも力をいれる善人だ。


 そういえばイッヒ男爵と会うのも久々だ。

 秘書官とは何度も顔を合わせているが、直接は1ヶ月ぶりぐらいだろうか?

 意外と良くうちの第四師団本部に来ているらしいが、すれ違いが多く、顔を合わせてはいない。


 今日はそんな男爵を急遽呼び出した。

 朝に都合のいい日程をなるべく早く調整して欲しいと手紙を出すと、夕方にはうちの屋敷に到着していた。

 決して暇なはずはないのに、見た目によらずマメで、とても真面目な人間だと、ウキエさんもよく話している。俺も全く同じ感想だ。


「それで...急ぎの用とはなんでっしゃろ?」


「まずは時間を割いて頂きありがとうございます。折り入って相談がありまして。」


「なんでも言うてください。シンサ卿の相談ならこのマルディ・イッヒ、喜んで乗らしてもらいますわ。」


 ドンと自分の胸を叩き、そしてむせるイッヒ卿。

 その仕草と胡散臭さが混ざる言葉遣いに、笑ってしまう。


「笑われてしまいましたなぁ...それでお話とは?」


「失礼。実はリントヘイムのことはご存知で?」


「シンサ卿が取り返した都市ですな。なんでも交易都市として復興させていくとか。」


 すでに耳には入っていたらしい。

 利にさとい商人ならではというか、イッヒ卿はとても情報が早いとウキエさんも言ってたっけ。


「実はそこの領主候補を何人か国王に提示するように命じられています。」


「ほぉ...推薦権はシンサ卿がお持ちで?誰が任命されるんかっていうのが商人の間でも最近の一番の話題になってますわ。」


「で、領主をやってみる気はありませんか?」


 場の空気が固まった。


「...シンサ卿?それは...わいに言うてますか?」


 確認するように自分を差すイッヒ卿。


「マルディ・イッヒ男爵に言っています。」


「えと...ほかの候補の方や推薦者の方は?」


「推薦者は他にいません。候補は...人数制限されていませんが、できればそちらの候補もイッヒ卿に任せたいのですが。」


「なんでです?」


「理由ですか?」


 俺の質問にイッヒ卿がコクンと首を縦に振った。


「あの都市は交易都市です。ただ同盟の条件で第四師団が治安維持につくのですが、国法で領主は別の方に頼む必要があります。交易都市ということを考えると、元商人のイッヒ卿は適任かと。更に多くの種族が集まるので、人族以外に偏見のない方でないといけません。イッヒ卿は条件にぴったりでしょう?」


「...確かにわいは商人出ですから、独自の人脈も持ってます。それに他種族に偏見はありません。むしろ獣耳の女性はめっちゃ好きですわ。野を駆ける生き生きとした彼女達、その耳と尻尾のツヤと感触といえばまさに至宝ともいえる...ゲフン。...話はわかりましたが、よろしいので?」


 ちょっと聞いてはいけなかった趣味の話が出て不安になるが...確かに彼の秘書も獣人女性だった。

 奴隷などではなくきちんと雇用された人だ。

 前に、非合法奴隷の摘発を行っていた最中、彼のこともかなり調べたが、信じられないぐらいのシロだった。逆に疑わしいぐらいの...。それもあって追加でかなり調べたが結果は変わらなかった。そして、逆にもっとも信頼できる貴族となった。

 彼はむしろ奴隷にされた子達を買取り、解放して支援までしていた。

 見かけによらずやっていることはまさに聖人と言える。

 ...ユリウスなどは見た目で最後まで疑っていたが...。


「よろしいもなにも、南区の貴族で最も信頼できる相手に相談しているつもりです。推薦者も貴方が信頼できる、または都合のいい人を選んでくれて構いません。」


「それは光栄ですな。」


 そういってニカっと笑うイッヒ卿。


「もう少し具体的な話もできますかな?」


「はい、具体的には決まってからになりますが、復興資金は国が予算立てします。人員の移動補助などは第四師団が、そして向こうでも復興作業はローレンス帝国と共同になります。うちの負担の方が大きいはずですが、こちらの都市なので当然ですね。ある程度までの復興は基本的に第四師団が受け持ちます。なので、形になるまでに、できればあちらに常駐できる人員の調整、あとは商人達への橋渡しをお願いしたいです。」


「なるほど...わいは主にシンサ卿が推薦する人の名簿出しと、商人の橋渡しですか...ちょっと相談なんですけど、推薦頂けるなら一言添えてもらうことはできますやろか?」


「一言とは?」


「マルディ・イッヒを選択してくれるなら、現在のわいの領地を国に召し上げて貰ろて、リントヘイムと交換してくれてもええと。」


「...それは本気ですか?」


 彼が言っているのは、すでに発展していて、わずかとはいえ収益のある領地と廃墟とかしているリントヘイムの領地交換だ。リントヘイムが発展するなら得をするが、数年は大損で間違いない。

 なんといっても土地だけで領民がいないのだから税収なんて期待できない。


「背水の陣でリントヘイムを発展させるっちゅう覚悟の表れですわ。それに人員を下手に分けるよりも、全員で言った方が確実性も上がります。」


 彼の目は冗談を言っているようには見えなかった。


「...わかりました。推薦するときに必ず伝えておきます。...本当にいいんですね?」


 そんな条件を出せば、おそらく彼が選ばれる。

 元々、俺はイッヒ卿を推すつもりだったので問題はないが...。


「わいはシンサ卿にとうの昔に乗っかっとります。今更後には引けませんわ。それに、飛び地管理は至難の技ですからな。それならいっそ、未来ある土地に居を移すのが商人ですわ。」


「では、お願いしますね。」


「任せてください。いやぁ...ほんまにシンサ卿には世話になってますわ。ついでと言ってはなんですが、このあとウキエ殿にお時間もらいます。もうちょいでいい商品ができそうなんで、意見ほしいんですわ。ええのができたらシンサ卿に真っ先に報告に来ますわ。」


 にこやかに握手をする。

 仕事でボロボロのウキエさんには悪いが、皆のため、新商品の開発にも力をいれてほしい。






 リントヘイムに向かう少し前、執務室で仕事をしているとウキエさんが唸りながら入ってきた。


「何かありました?」


「いえ...この資金案なんですが、この賃金じゃ中々集まらない気がするんです。ヒムとも話したんですが、ほぼ最低賃金に毛が生えた程度であんな廃墟まで出向いてくれる人は...。」


 国から提示された第一回目のリントヘイム復興予算案、ヒムさんやウキエさんが試算してすり合わせを行っているが、それがどうやら上手くいかないらしい。


「予定では人夫を?」


「そうなんですが...いっそ奴隷でも雇いますか?」


「犯罪奴隷か...いやそれはそれでまずくないです?向こうの国と一緒に作業するのに。こちらは犯罪奴隷を出すっていうのは...いきなり問題を起こしそうですし。」


「ですよね...。」


「うちの兵士は...ダメか、そこまでさけないな。」


 うーん...やはり国からもっと資金を出してもらうしかないのだろうか。


「いっそ、スラムで募集しましょうか?」


「スラムで?」


「はい、以前スラムの獣人達が我が隊に加わりましたが、兵士を希望しないような獣人達はまだスラムにいます。兵士の家族もいますし、そちらで募集をかけるのは如何でしょう?」


「リントヘイムは交易の場だからむしろその方がいいかもしれないな...えっと、スラム街はラズベリィ卿だったっけ?」


「...イスベリィ卿です。」


「...そうだった。さっそく相談してみる。」


「もしよろしければ委任状を頂けますか?もうすぐ出立でしょう。委任してもらえれば帰ってくる頃には集めておきますよ?」


「さすが!頼もしい。」


 サラサラと委任状を書き、ウキエさんに渡す。


「少々の条件は飲んでも?」


「容認できる範囲なら。難しそうなら一旦帰ってくるまで止めててもらってもいいですし。」


「わかりました。おそらく喜んで乗ってくると思います。イスベリィ卿はシンサ卿に貸しを作れ、スラムの住民は安定した仕事をもらい、周辺の住民は治安が良くなる。誰も損をしませんからね。」


「貸しが一番怖い気がするけど...。」


「まぁ大丈夫ですよ。任せてください。」


 ドンと自分の胸を叩くウキエさん。

 最近、こういう仕草をする人をよく見る気がするけど、流行ってるのだろうか?


 明後日の朝にはリントヘイムに向けて出発する必要がある。

 早めに帰ってくるようにランドルフに言われている割に、こちらに滞在しすぎたかもしれない。

 昨日、いつ帰ってくるのかという催促の手紙が届いたこともあり、あまりのんびりもできない。


 あっちについたらまた忙しい日々だろうし、残りの仕事を明日に回して、夜はのんびりしようかと考えていた夕方。

 メイド長のはくが客の来訪を告げてきた。

 どうやらゆっくりはできなさそうだ。


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