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異界干渉係の記録(とある年のクリスマス)

作者: 紅月

「ちょっと、お話を聞こうか」

「え?」

 調子に乗っていたのは事実である。

 サンタ研究に命を懸ける連中が築いた技術を侮ってはいけない、というのは部長からさんざん聞かされていた。

「どーするよこれ」

 さて、つかまってしまった俺たちにはいくつかの選択肢が存在する。

 一つは、洗いざらいすべてを吐き出してしまうこと。

 一つは、何も言わず逃げ出すこと。

 他にもしゃべったうえで逃げないこと、嘘を言いまくって時間を稼ぐことなどなどあるが、つかまったことよりやばいことがある。

「このままじゃ俺ら地獄任務確定ジャン」

「お前のせいだろうが」

「お前だって乗ってきただろ、同罪だよどーうーざーい!」

「いや、発案者のお前が悪いんだろうがよ!」

 そうだ。

 そもそもこいつがちょっと言ってみよーぜなんてあほなことを言い出したからこんなことになったんだ。


◆◇◆◇◆◇◆


 時は少しさかのぼって、今日の朝。

「なあなあ。今年の打ち上げはいつものデリバリーじゃなくておっさんの世界の食事にしようぜ」

「なんでだよ。デリバリーが不満なのか?」

 そのドヤ顔がうぜえなんて思いながら、俺はここ一週間念入りに読み込んだ資料を確認する。

 資料自体は二か月以上前から用意されているが、本番が近いということで頻繁に更新が入っている。

 今年の術式も手が込んでいる。

 更新が頻繁なのはスパイ対策も兼ねているからだろう。……スパイもいるんだろうけど、本部長が作った諜報術式をすり抜けるのは無理だろうなあ。

 なんでも、サンタクロース秘匿契約を組んだ時にその時の世界情勢がわからないと不便だからという理由で作ったらしい。理由はともかく、それを作り上げることができる本部長ぱねえ。

 それはさておき、このあほの提案だ。

「だってさあ。どうせ二人でうちあげと称して軽く飲み食いするだけだろ? お金は事前にもらえるから経理的にも問題ないだろ」

「仮にそうだとしても、俺ら去年はあっちに行ってるし、研究所に何らかの記録が残ってたらまずいだろ」

 研究所は犯罪抑止および早期解決のためにと世界中に監視カメラと、その監視画像を解析する魔法高額システムを構築している。顔が過去の犯罪記録の顔と合致すれば即座にそのデータが警察に飛んで、そのデータをもとに逮捕する。

 構築当初は誤動作が多かったようだが、構築されて数十年。制度は上がりこそすれど、下がることなどありえなかった。

「大丈夫大丈夫。うまい具合にぼかしが入るようにしてたはずだしな」

 その余裕に満ちた顔で皮算用振りかざすならとりあえずこの資料を読んでいてほしいものだ。

「でも、お前だって気になってるだろ? あのパリツァとかいうのを使ったいかにもからそうな炒め物と漬物」

「それはまあ、そうだけど」

 パリツァ、というのはピーマンのような形をした唐辛子で、あの世界特有のものだ。加熱の加減によって辛味から酸味、甘味までが入り混じったものになる。

 あの世界ではパリツァの扱いにたけるものは、料理界で世界をとれるといわれるほどの食材で、辛党の俺としてはかなり気になっている。

「いやいや、それなら外業務のやつらに買ってきてもらえばいいだろ」

「えー? 自分の目で見てみたくないの? あの世界、行くのに許可が必要だけど、俺らは簡単に行けるじゃん」

 そのにやにや顔をやめろ。

「行けるじゃん、じゃねーよ。それに許可を得ずに世界移動なんてしたら部長すっ飛ばして本部長にどやされるぞ」

「大丈夫大丈夫。あの人、いっつも『問題を起こすな。絶対に起こすな。そんなことしたら地獄任務に回してやる』っていってんじゃん」

 つまり、問題を起こさなければおっけーってことか。そんなわけないと思うがね。

「というわけでレッツゴー」

「は?」


◆◇◆◇◆◇◆


 と、いうわけで俺は引きずり出された。

 いやまあ、実際、ついてしまったら俺もテンションあげていろいろ見て回ったのは事実だ。研究所のこともひるすぎても反応がなかったからすっかり忘れていたのも事実だ。

 まさかあっさり捕獲されるとは思わなかった。

 つーか魔法が使えなかった。

 つかまって落ち着いた今になって理解したが、魔力の流れが著しく悪い。普段からホイホイ使ってた魔法も出が悪い。

 端末とかも全部まとめて置いたから持ってきてないし、これはまずい。いや、異世界の技術の漏洩という観点からみれば、まだよかったという感じではあるが、少なくとも、本社と連絡は取れないので救助を要請することもできない。

「どーするよこれ」

 もう一回言われてもどうしようもない。

「とりあえず、手を貸せ」

「あいよ」

 俺の意図をすかさず理解したのか後ろ手に縛られた手を俺に出した。

 手を握ることで、つながった者同士の間でのみ可能な念話で以降は会話する。誰が聞いてるかもわからないからな。

『とりあえず、魔法が使えないというか非常に使いにくい状況にあるのは事実だ』

『あ、やっぱり? さっきから俺もなんか流れが悪いなーと思ってたんだよ』

『これからどうする?』

『うーん。適当なこと言って出してもらうか?』

『それが通じればいいけどな』

 つかまってここに入れられるまでに散々騒いでいたものの、サンタについて洗いざらいはいてもらうって言ってたしな。たぶん去年の画像は解析されてしまったんだろう。

 そうでなきゃ、俺らが捕らえられた理由もないしな。

『ところでなんでまだ尋問に来ないんだ? ちょっとくらい進展してもいいだろうにさ』

『おそらくだが、クリスマスが終わるまでは監禁し続けるんだろうな』

『なんで?』

『サンタが現れなければ、俺らがサンタで確定。そうじゃなければサンタのことを知っている重要人物ってことだろうな』

 今は、研究所内もクリスマスに向けてバタバタしていてそれどころではないのだろう。

『なるほど。つまりそれほどやばい状況じゃないってことだな!』

『やばい状況に決まってるだろうがどあほう! 今日が何の日か忘れたのか!』

『あ』

 翌日の明け方にやる打ち上げのための食品を買うためにこの世界に来た今日という日は|クリスマス(仕事の日)なのだ。

 しかも時刻はそろそろ夜ご飯のころあいだ。

 間違いなくおっさんから事前連絡が入っているはずだ。

 てかよく考えたら

さて、どうしますかね。


◆◇◆◇◆◇◆


「ああ。もしもし」

『はい』

 思わず連絡先を確認するために形態を耳元から話してしまった。

 今年から担当が変わるとは聞いてないのに、女の声が聞こえたものだから、びっくりしてしまった。

『申し訳ありません。担当の者が不在でして、代わりに対応させていただきます。ヤオ・チェズと申します』

「あ、ああ。よろしく」

『はい。要件は本日の予定の確認ということでよろしいでしょうか』

 涼やかな声に気おされながらも今日の予定を打ち合わせて電話を切る。

 あの悪がきのまま成長したような二人が不在だとなると、いい予感がしない。だが、自分がやるべきことは変わらないので、考えるのはやめにしよう。

 自分はサンタクロースであり、彼らに世話になってはいるが、彼らの世界に干渉する度胸はないのだから。


◆◇◆◇◆◇◆


「まったく、あの阿呆どもは」

 サンタクロースとの打ち合わせを終えて、私はまたため息をついた。

 本部長と今夜のことを含めて年末年始の打ち合わせをしている最中に急に本部長について来いと言われて何事かと思ったら……。

 まったく。無段の渡航と本部長が言われた時は血の気が引くと思いましたよ。

 あの外業務は可能な限りしたくありません。まあ、地獄業務とも称されるものですからね。普通はやりたくないでしょう。あ、誓って、以前私が罰を受けたというわけではないです。

 逃げ出さないように監視はしましたが。

「チェズ。今いい?」

「はい」

 本部長自身が動かれるのは珍しいことではありますが、無断渡航、しかも端末も持たず、となると私たち部長クラスでもなかなか手が出せないので、仕方ありません。手を出せる本部長の力がけた外れだということでもありますが。

「あの二人だけど、やっぱりあの世界に言ってたよ。で、研究所に入れられてる」

「あの阿呆ども」

 優秀だけども、使えるけども、適度に締め上げとかないといけないとは思っていたけれど、なんでこのタイミングでやらかすんだか。

「とりあえず、うちのスパイに連絡を取って助けるように言ったよ。そのための道具も渡したから、あとは彼女次第かな。で、チェズ」

「はい」

「今夜の件、任せていいか?」

「ええ。この程度ができなくては八尾の種族にも顔向けできませんし、何より部長としてとしての立つ瀬がありません」

 本部長は肩をすくめた。

「部長としてはともかく。八尾の種族でもキミほどできるのはそうそういないよ」

 それは期待されているということでしょうか。

 うれしくて思わず顔がほころんでしまいました。


◆◇◆◇◆◇◆


 俺たちに渡されたサンドイッチには割符が仕込まれていた。

 驚きを顔に出さないようにはしたが、少しは顔に出ていたらしい。不快そうにこちらに近寄ってくると前髪をぐっとつかまれた。

「何よその顔。まずかったとでも言うのかしら」

 前髪が引っ張られる痛みにイラついたものの、相手の態度も気に入らないし睨み返す。

『黙ってそれ使ってはよ帰れ』

 しばらく睨み合っているとそう言われた。

「ふん。さっさと食べて頂戴。食べ終わるまではあんたらの監視をしないといけないのよ」

「うるせえ。てめえに言われるまでもなく食べ終わったぞ!」

「あんたは早すぎ。うちの味はもっと味わうものよ」

「早くしてほしいのか、ゆっくりでいいのか、どっちだよ」

「いいから黙って食え」

「はいはい」

 監視が出て行ったあと、口に入ったままの割符に魔力を込める。

「は? お前何それ、なんでそんなのできてんの?」

 うるさい。黙ってろ。

「手。あと魔力」

「お、おう」

 手を握って流れが悪い魔力を二人分、一気に流し込む。

 そして俺たちは帰還した。

 本部長の目の前に。

「やあ。キミたち。楽しかったかい?」

「ほほほほほほほほほほ本部長! 今日はご機嫌麗しゅう」

「うんうん。そうだね。雪も降って、いいクリスマスだね」

 笑顔の本部長を前にテンパっていたものの、本部長の返答に隣の奴がすごくほっとしているのがわかる。

「で、常々ボクが言ってたこと、覚えているかい?」

「問題を起こすな。絶対に起こすな。そんなことしたら地獄任務に回してやる、ですね」

 俺が淡々と答えると、本部長はその笑みを深くした。ああ、つまりはそういうことだろう。

「キミたち向けに調整しておいたから、しっかりやってくるんだよ」

 連れられてきた場所で、俺たちはひたすら解呪作業をさせられた。細かいうえに数が多くて時間がかかる作業で俺たちの年末年始はつぶれた。

 本部長曰く、これが俺たちがやった結果だそうだ。許可のない渡航は世界の関係を大きくゆがめる。その歪みをただすのが本部長の役目でもあるが、問題を起こした奴がいる場合は、二度と同じようなことをしないように歪みをたださせるそうだ。もう二度と、問題を起こそうなんて思わないように。

 確かに、もう二度とやりたくない作業だった。

昨日に引き続きの投稿です。

彼らはクリスマスにサンタクロースを守るための仕事をするのですがそれもできず上司に叱られてしまいましたとさ。

そんなこともあるさ。


2015/12/25 紅月

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