挫折
雄介は、ファールグラウンドに転がったボールを夢中で追いかけた。
どこまでも、雄介から逃げていくボール。
全てがスローモーションのように感じられた。
打者が、大きく手を回して、三塁ランナーに合図をする。
小躍りして、ホームインすら三塁走者。
相手ベンチから全選手が、歓声を上げて飛び出してくる。
ホーム上で抱き合っている。2対1のサヨナラゲーム。
スコアボードに、パスボールのエラーを表すランプが付いている。
(俺のミスで負けた)
雄介は、その場にしゃがみ込んで、立ち上がる事ができなかった。
西城が雄介のもとに駆け寄ってきて、抱き起こした。
「しっかりしろ。俺たちにはまだまだ、先があるんだ。
キャッチのお前がそんなんじゃあ先が思いやられるなあ」
と言って、笑顔を見せた。 他のナインも雄介に
「お前だけのせいじゃない」
と言った。
試合後、安田監督が、球場前に全選手を集合させた。
「今日の試合は、形の上では、沢田のエラーで終わったが、
9回の最後の守備を考えてみろ、投手、内野、外野、
それぞれが、小さなミスをおかしているだろう。
なぜ、そういう結果になったのか。
どの部分が、精神的に弱かったのか。
なぜ、普段どおりに守れなかったのか。
各自が、その点をよく考えて、明日から練習するんだ。
わかったな」
そういうと安田はバスに乗り込んでいった。
M町への帰り道、バスの中で部長の竹村が雄介を隣に呼び寄せた。
「俺も昔、野球をやっていた時に、自分のミスで何度も負けた事がある。
でも、皆に申し訳ない、とばかりと思って落ち込んでいても、
どうしようもないんだ。監督も言ったように、自分のどこが
悪かったのか。ミスをした自分を冷静に受け入れる事だよ。
そうした積み重ねが、選手としての技術も人間性も
向上させていくんだ」
そういって、竹村は雄介の肩を叩いた。
翌日から、再び、厳しい練習が始まった。
ただ、来年の7月まで、小さな大会はいくつもあったが、
甲子園を目指せる大会は、この先、10ヶ月はなくなった。
目標を見失いがちになる選手も出始めた。
それでも、何とかお互いを叱咤激励しながら、
雄介たちは練習に没頭し続けた。
安田は週末に近隣校との練習試合を組むなどして、
連係プレーやチームワークの強化を計っていった。
そんな中、10月も終わりに近づいたある日の練習後、
セカンドを守る山中が 野球部を辞めたいと言い出した。
深刻な表情をしている。
一年生の部員9人とマネージャーの照子と大塚由美子が、
校庭の隅に集まった。