初勝利
9月に入り、秋季大会の県予選の抽選が決まった。
一回戦で地元のB高校に勝てば、二回戦では一回戦不戦勝の県内では、
星村学園に継ぐ実力校と言われるK大付属高校が待っていた。
秋季大会は、春の選抜高校野球での甲子園を目指す高校にとって、
ある意味、夏の大会以上にチャンスがある。
県内で、2位以内に入り、その地方の代表校が集まる地区大会で、
一つでも勝てば、大きく甲子園が見えてくる。
つまり、夏の大会で、星村学園に敗れ続けている県内の学校にとっては、
甲子園を目指す最大のチャンスの大会だった。
ただ、雄介たちの大村高校はレギュラー9人の内、7人が一年生という
若いチームだ。主将の佐々木は
「まずは、一回戦に全力を傾けて、何とか2回戦でK大付属とやって、
今の俺たちの力を見極めようじゃないか」
と言って、ナインに檄を飛ばした。
やがて、一回戦のB高校との対戦が地元の球場であった。
この試合で、大村高校の選手は自分達の野球を存分に見せた。
打撃では、一番の三島が出塁し、2番の山中がバントを確実に決め、
3番佐々木、4番西城、5番井口のクリーンアップで走者を返す。
序盤から西城のホームランが飛び出すなど試合は一方的な展開になった。
雄介と田所は、投球に専念するために8番と9番を打っていた。
B高校相手に、田所と雄介は大塚由美子のアドバイスにあったように、
強打者の3番打者の前にランナーを出さないよう慎重な投球をした。、
その甲斐もあって、田所は相手打線を3安打の一点に抑えた。
結果は7回コールド勝ちの8対1。
雄介たちにとっても、高校に入って、公式戦での初勝利だ。
十分に満足のいく結果に、選手の表情に笑顔が見られた。
試合後、それまで選手の自主性に任せて、余り、口を挟まなかった
監督の安田が選手たちをベンチの前に集めた。
「2回戦のK大付属は、絶対に、今日のような試合はさせてくれない。
ミスをした方が負ける。だが、お前たちはまだまだ、発展途上のチームだ。
臆する事なく、自分達の力を存分に試すつもりでやればいい。
相手だって、一年生レギュラーが多いチーム相手にやるのは、
プレッシャーがかかるだろう。チャンスはある」
安田は、そういうと厳しい表情を見せた。
試合は一週間後だ。
雄介たちは、一回戦の大勝に浮かれないように、気持ちを引き締めなおした。