四之宮学園戦 序盤
地方大会初戦当日の朝。
多少、曇り空だったが、
試合には影響はなさそうだ。
安田は、坂本と雄介を
前にして言った。
「とにかく、相手は、
全国でも有数の強力打線だ。
だから、打者一巡目を
きちんと抑えてくれればいい。
後は、田所と西城もいる。
総力戦でいく」
雄介たちは、県営球場に着くと、
四之宮学園の選手たちの守備練習を
じっくりと見た。
どの選手も、充分に鍛えられている事が
一目でわかる。
体格も申し分のない選手が揃っている。
四之宮学園のベンチには、
いるだけで、相手にプレッシャーを
与えると言われている名将の
正田監督がどっかりと腰を下ろしている。
既に、60歳は超えているだろう。
甲子園での全国制覇も数度経験している。
ある意味、選手以上に強敵に
なるかもしれない。
試合は大村高校の後攻だった。
雄介たちは、守備位置に付いた。
坂本がマウンドに上がる。
四之宮学園の一番打者が左打席に入った。
坂本は雄介のサイン通り、
思い切り、アウトコースに
早い球を投げ込んできた。
「ストライク」
審判の手が高々と上がった。
これも、雄介の読みだった。
相手には、坂本の情報は
ほとんど入っていないはずだ。
まずは、じっくりと坂本の
ボールを見極めようとするだろう。
しかし、坂本のボールに慣れて
来た所で、田所にスイッチする
というのが雄介たちの作戦だ。
とにかく、思い切り攻めていこう。
度胸のいい坂本は強力打線に
動じることなく、雄介の構えたミットに
コントロールよく、ボールを投げ込んできた。
ツーストライクワンボールと追い込んでから、
アウトコースのボールになる
スライダーを空振りさせて、
うるさい一番打者を打ち取った。
続く2番、3番の打者も
アウトコースに落ちる
変化球を引っ掛けさせて、
初回を三人で切り抜けた。
一回裏、一番の三島が
左打席に入った。
身長のある倉田が、
大きく振りかぶって、
速球を投げ込んできた。
三島が思わず、仰け反るような
威力のあるボールが、
内角ギリギリに吸い込まれた。
ストライクだった。
2球目の速球を三島は
コンパクトに振り抜いた。
しかし、倉田の威力に押されて
ショートゴロになった。
「ボールに今までに感じた
事のないような重みがある。
手がしびれたよ」
三島が驚いたように言った。
次から次へと打席に向かう選手が
同じような感想を言った。
安田は、選手の感想を聞くと、
普段よりバットを
一握り短くもって、
打席の前に立って、
じっくりとボールを見て
いくように指示を出した。
「とにかく、この試合は
後半勝負になる。
ファールで粘るなりして、
倉田に球数を投げさせるんだ」
2回に初安打を放ったのは雄介だった。
完全に振り遅れた打球だったが、
ライト前にポトリと落ちた。
得点にはつながらなかったが、
全く打てない事はないという
印象を持つことは出来た。
坂本も序盤戦はどうにか
四之宮学園の打線を抑えた。
しかし、4回にノーアウトから
3番の篠田という打者にヒットを
打たれた所で、安田は田所と
投手交代をさせた。
強打者の4番の黒田に長打でも
出れば、一気に試合展開が
苦しくなると読んだからだ。