妹との対話
決勝戦を終えた翌日の夜、
雄介は父親の運転する車で、
照子の入院するF総合病院に
向かった。
父の博の話では、
今は、照子の症状は落ち着いていると
いう話だった。
いろんな治療法を検討中だという。
久しぶりに見る
懸命に病気のつらさを
押し隠そうとしている妹の姿に
雄介は胸の詰まる思いがした。
兄弟で4分の1の確率と言われる、
骨髄が適合しなかったという
報告も父から受けていた。
照子も、その事は知っていたが、
悲しそうな素振りを全く
兄の前では、見せなかった。
「お兄ちゃん、頑張ったわね。
私、ラジオ聞いて、
感激しちゃった」
照子は笑顔で兄を迎えた。
「決勝戦は負けちゃったけどな」
雄介は頭をかいた。
「また、やって勝てばいいのよ」
「ああ、今度は後藤を打って
絶対に勝つよ」
雄介は、いつも妹と話をすると
元気をもらえる気になるのが、
不思議だった。
「お前は強いんだな」
「だって、落ち込んでたって、
どうにもならないでしょう。
私は、これからも何があっても
生きていくんだ。
それ以外の事は考えないように
しているの」
「そういえば、西城や由美子も
心配していたぞ。
お前の元気な顔を早く
見たいって」
「私の事は大丈夫だから、
心配しないでと伝えといて。
いつも、みんなと一緒にいる
つもりでいるからって」
そういうと、照子は、
目の辺りを拭った。
翌日、雄介は西城と大塚由美子に
照子の言葉を伝えた。
二人は、目を赤くして
黙って頷いた。
地方大会の抽選会があった。
主将の伊藤が引いたのは、
優勝候補の一番手といわれる
甲子園でも優勝経験のある
四之宮学園という学校だった。
この学校にも、倉田という
星村学園の外山と並び称される
速球派の投手がいる。
打線も4番の黒田という選手を中心に
切れ目がない。
全国レベルのチームだった。
安田は言った。
「相手チームに不足はない。
とにかく、気持ちだけは
負けないように、
充分な練習と準備をしていこう」
10月の穏やかな気候の中で、
夜、遅くまでハードな練習が続いた。