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秋季大会決勝

 試合は大村高校の先攻だった。

 

一番の三島が打席に立った。

 後藤が投じた初球のボールは、

 ベンチからは、ど真ん中の

 何の変哲もない球に見えた。

 三島は、思い切り強振した。

 しかし、打球は投手の後藤の

 前に転がっていく

 ピッチャーゴロになった。

 三島は首を傾げながら、

 ベンチに戻ってきた。

 「自分では貰ったという感じで

  打ったんだが、微妙に

  タイミングを外されている

  気がする」


 雄介も打席に立ったが、

 捉えたと思った打球が、

 サードへの凡フライになった。

 実際、K大付属の後藤のボールは

 不思議な球だった。 

 真っ芯で捕らえたつもりでも、

 ボールが飛んでいかない。

 ボテボテのゴロか、

 凡フライに打ちとられる

 ばかりだった。

 

 ベンチで安田は言った。

 「いいか、後藤の投げるツーシーム系の

  ボールは、とにかく他の同じタイプの

  ボールを投げるピッチャーと比較

  しても、ボールの回転数が少ない。

  どちらかといえば、ナックル系に

  近いかもしれない。

 とにかく、最後までボールをよく見て、

 出来るだけ引き付けて、思い切り、

 反対方向に引っぱたくつもりで

 打つんだ」 

 大村高校の選手たちも、

 安田の指示通り、手元にボールを

 引き付けようとしても、

 逆に差し込まれてしまう。

 後藤の攻略は難航した。 


 一方、決勝戦で先発した田所も、

 懸命に期待に応えるピッチングを

 見せた。 

 速球にスライダーを駆使し、

 三振の山を築いていった。

 

 お互いに0行進の試合展開は、

 延長戦に入った。

 結局、12回になっても

 大村高校の打線は、

 後藤から2塁まではいけても

 得点につなげる事は出来なかった。

 

 こうして、12回裏、 

 K大付属の攻撃を迎えた。

 田所は目に見えて、球速が

 落ち始めていたが、

 しかし、安田は投手交代をしようと

 しなかった。 

 決勝戦は最後まで田所に任せようと

 決めているようだった。

 雄介は延長戦になってから、

 変化球主体の投球に切り替えていた。

 速球はボール気味の

 見せ球に使った。 

 しかし、延長12回、

 K大付属の一番打者に投じた

 田所のスライダーは完全な

 抜け球になった。

 相手打者の振りぬいた打球は、

 左中間を深々と破る3塁打

 になった。

 

 この日も照子は病院で

 ラジオに耳を傾けていた。

 「延長12回。無死3塁。

  大村高校絶対絶命のピンチ。

  ここで、安田監督は

  満塁策を支持しました。

  一点取られればサヨナラ負け。

  塁を詰めた方が守りやすいと

  いう考えでしょう。

  しかし、ここでK大付属の

  打席に入るのは4番の谷口。

  左打席にゆっくりと入りました」

 

 しかし、この場面から田所は

 よく粘った。

 4番の谷口をツースリーから

 サードフライ。

 5番の鈴木を見逃しの三振に

 打ち取った。

 そして、打席に6番の投手の

 後藤を迎えた。 

 

 雄介は打席に入る後藤に

 並々ならぬ執念のような

 ものを感じた。

 しかも、満塁だ。

 絶対に逃げる訳にはいかない。

 何とか、引っ掛けさせようと

 ボール気味の変化球を投げさせたが、

 後藤のバットはぴくりとも動かない。

 忽ち、ノースリーになった。

 そして、4球目。

 ど真ん中でストライクを取りにいったのを

 後藤は、待ってましたとばかりに

 バットを振り抜いた。

 打球が3塁線を抜けていく。

 0対1のサヨナラ負けだった。

 喜びに沸くK大付属の選手たちを

 見て、雄介たちは項垂れた。

 

 

 準優勝チームとして県の代表には

 なれたが、雄介たち大村高校の選手には

 後藤のボールが打てなかったという

 後味の悪さが残った。

 だが、安田は選手に言った。

 「今日の負けは、お前たちにとっても

  いい薬になったはずだ。

  どんなに打てると思える投手でも、

  打席に入ると全く打てない投手もいる。

  星村の外山のような剛球投手だけが、

  好投手ではない。

  全国に行けば、後藤のような投手も

  沢山いるはずだ。 

 これから、県の代表が集う地方大会まで、

 三週間はある。

 どんな投手が来ても対応できるように、

 帰って練習するぞ」

  安田の言葉に雄介も

 他の選手たちと

 「今度、後藤とやる時は、

  絶対に打ち崩してやろう」

 と誓い合った。

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