勝利の感激
その瞬間、雄介は一瞬、
頭の中が真っ白になった。
(俺達があの星村学園に勝った)
やれば出来る、
そして、今まで自分達がやってきた
練習は間違ってはいなかった。
いろんな感激が一時に沸いてきた。
ホームプレート上で、雄介は
マウンドを降りてきた西城と
抱き合った。
他のナインも、ベンチの選手も
一斉に集まってくる。
笑顔もあれば、涙もあった。
「きちっと整列しよう」
しばらくして、主将の伊藤が冷静に言った。
ホームプレートを挟んで挨拶を交わす。
西城と雄介の下に、外山が近付いてきた。
「おめでとう。今回は負けたよ。
だが、来年は絶対に俺たちが勝つぞ。
それから、地方大会、頑張ってきてくれ。
県外の強豪はどこも強いぞ」
そういうと雄介と西城の肩を叩いて、
星村学園のベンチ前に引き上げていった。
「お母さん、お兄ちゃん達
勝ったね」
照子は嬉しそうに母に言った。
「でも、雄介もこれから大変だよ。
多くの人から注目されることにも
なるだろうし」
母は、喜びながらも、
少し心配そうだった。
「大丈夫よ。お母さん。
お兄ちゃんや西城君も
自分を見失うような事は
ないわよ」
照子は笑顔を見せた。
雄介たちは試合後に、
地元紙などの記者に
取材を受けた。
改めて、星村学園に勝ったという
事実の重さを感じていた。
準決勝のもう一試合は、
予想通りK大付属高校が勝って、
翌日の決勝戦を戦う事になった。
安田は選手たちを集めると
気持ちを入れ直した。
「今日は勝つことができた。
しかし、お前たちが打ったのは
外山のボールじゃない。
まだまだ、今日の試合で、
足りない部分のあることが、
個々にわかったはずだ。
明日、対戦する後藤投手は、
簡単に打てる相手ではないぞ。
もう一度、気持ちを入れ直して、
明日の試合に集中するんだ」
雄介も伊藤から、後藤のボールの
すごさは聞いていた。
最近、多くの投手が投げるように
なったツーシーム系の微妙に
変化するボールを駆使して、
面白いように打者を打たせて
取るという。
伊藤は、対戦相手が
後藤の多彩な変化球を
「マジックボール」
と呼んでいると言った。
決勝戦の日も、秋晴れの
一日になった。
県内各地の小中学校では、
運動会が行われているという
話だった。
F県営球場にも、雄介たちの地元から
多くの人が駆けつけてきた。
準決勝で、星村学園に勝ったという
情報は、地元でも大きく
取り扱われていた。
球場内は、決勝戦独特の熱気に
包まれていた。
その中で、
午後一時、決勝戦のプレー
ボールがかかった。