執念の勝利
9回裏の攻撃に備えて、
雄介たち大村高校の選手達は、
勢いよく守備位置に散っていった。
雄介と西城はマウンド上と捕手という
目線で向かい合うと
互いに頷きあった。
子供の頃から一緒に育った仲だ。
何も言わなくても、
通じ合うものがあった。
そして、この試合に勝って、
勝利を照子にプレゼントしたい
という思いも同じだった。
照子は祈るような気持で、
ラジオに耳を傾けていた。
兄から、お守り代わりに
渡されていたボールを
胸の上で、しっかりと
握り締めた。
「9回裏星村学園の攻撃は、
3番の岡田、4番前島、五番西村
という自慢のクリーンアップを迎えます。
マウンドの西城、この打順を
どう乗り越えていくのでしょうか。
西城、振りかぶって、
第一球を投げました。
アウトコース低めの速球を
岡田が引っ掛けて、セカンドゴロ。
山中から三上に送られてワンアウト」
雄介は、打席に向かってくる
前島を見て、
タイムを取ると、
マウンドに向かった。
内野手も皆、
マウンドに集まって、
西城を取り囲んだ。
雄介は西城に、
「前島は間違いなくお前の
速球に的を絞っているぞ。
どうする?」
と言った。
西城は雄介の目を静かに見つめた。
「俺は速球で勝負したい。
そうしないとこの先、
ずっと後悔しそうな気がする」
雄介は、井口や山中と目を合せてから、
「分かった。皆、お前と同じ
気持のようだ。
ホームランを打たれても同点だ。
俺のミット目がけて、
思いっきり投げてこい」
と言うと、西城の肩を叩いて、
それぞれの守備位置に戻っていった。
照子は胸の上で拝むように
手を合せていた。
「大村高校の内野陣の
輪が解けて、
星村学園の4番前島が、
打席に入りました。
西城投手第一球を投げた。
インコース高目の速球だ。
前島打ったあ。
打球がレフト後方に伸びていく。
レフト俊足の山口懸命に背走。
フェンスにくっ付いてジャンプ。
捕りました。ファインプレー。
ツーアウト」
前島は打球の方向を見ながら、
悔しそうにベンチに引き上げて
いった。
「後一人で、大村高校が
地方大会への出場権を決めます。
そして、超高校級の外山、前島擁する
星村学園の選抜の夢は
絶たれる事になります。
5番の西村が打席に入りました。
マウンド上の西城、渾身の力を
振り絞っるようにして投げました。
見送ってワンストライク」
ここで、雄介は西村の構えを見て、
スライダーのサインを
出した。
完全に速球狙いだった西村の
バットは西城の変化球を
引っ掛けた。
「ピッチャーゴロ。
マウンド上の西城が捕球して、
高々と手を上げた。
一塁に送球する。
アウト。試合終了。
大村高校、
夏の甲子園、準決勝進出の
星村学園を下して、
決勝進出を決めました」