西城の熱投
試合開始のサイレンが鳴った。
「星村学園上杉、
一球目はアウトコース低めの
直球でストライクを取りました。
大村高校三島は悠然と
そのボールを見逃しました」
大村高校のベンチでは、
雄介達が三島の様子を見守っていた。
一球目を見逃して、ベンチを
見た三島は笑顔を見せた。
(このピッチャーのボールなら
打てる)
三島が感じた時の合図のような
ものだった。
ツーストライクワンボールからの
4球目。
インコースの直球で勝負に来た
上杉のボールを三島は、
思い切り振り抜いた。
打球は背走するレフトの上を越えて、
フェンスを直撃する2塁打になった。
山中がいつものように送りバントを
決めて、一死3塁。
3番の三上もレフト前にヒットを
打って、大村高校が先制点を挙げた。
照子はラジオを聞きながら、
心の中で歓声をあげた。
実況のアナウンサーも興奮していた。
「一死一塁で、4番の西城が
打席に入ります」
照子には西城の姿が目に見える
ようだった。
「大村高校の主砲西城に対して、
上杉第一球目を投げました。
西城打ったあ。
打球はグングン伸びて、
レフトが見送って、
スタンドに入った。
ホームラン。
大村高校初回から、
3点を奪いました」
試合は、その後星村学園の
上杉も落ち着きを取り戻し、
田所もピンチを凌ぎながら、
3対0のまま中盤まで
進んでいった。
雄介は、田所のボールを受けながら、
徐々に星村学園のバッターの
タイミングが合ってきているのを
感じた。
六回裏2死一塁で、
星村学園の四番前島を打席に迎えた。
初球、高めに外したボールを前島は
強引に振りぬいた。
超高校級のリストの効いた打球が、
一直線にレフトスタンドに
飛び込んでいった。
3対2。
安田は、ここで投手交代を決断した。、
思い切って、
西城をマウンドに上げた。
星村学園も7回から、まだ、体調不十分の
エース外山をマウンドに送った。
総力戦だった。
外山は、本来の剛球こそ影をひそめていたが、
甲子園を経験した事で、
抜群の投球術を身に付けていた。
打たせて取るピッチングで、
後半3イニングを無失点で
切り抜けた。
西城も自慢の速球で、
押しまくった。
雄介は、西城のボールを受けながら、
西城が何かに対する熱い想いを
吐き出そうとしているように
さえ感じた。
照子はラジオを聞きながら、
西城の力投が自分に対する
「頑張れ」
というメッセージのように
感じて、涙が出た。
星村学園の打線も
西城の気迫に押されて、
内野ゴロの山を築いた。
こうして、3対2のまま、
9回裏、
星村学園の攻撃を迎えた。