星村学園戦に向けて
雄介たちは、準決勝の相手が、
星村学園が相手だと決まると、
直ぐに対策を練った。
今の雄介達には、以前のように、
相手が星村学園だからという
変な気負いはなかった。
自分達が、本来の力を出せれば、
それなりにやれるという自信はあった。
伊藤たちが調べてきたデータによると、
エースの外山は夏の甲子園で活躍した
疲れからか、
本来の球威はないという話だった。
伊藤は言った。
「外山はひょっとしたら、どこかに
故障があるかもしれない。
前の試合でも、何度も肩を
グルグル回すような仕草をしていた。
星村の矢吹監督も名称と言われる程の
重鎮なのだから、外山の今後を考えて、
先発させない可能性があるかもしれない。
その場合でも、2番手に上杉という
右の本格派の好投手がいる。
旧チームからレギュラーで残ったのは、
外山と4番の前島だけだが、
流石に新チームも、一番を打つ高宮、
3番の岡田、5番の西村、
この3人は全て左打ちで、
既に、この大会でも
ホームランを打っている。
外山の調子が今一つだからといって、
絶対に油断は出来ないぞ」
雄介は田所、西城、坂本共、
伊藤の集めてきたデータを下に、
一人一人の打者の弱点や長所を
打球方向を分析した。
特に4番の前島に対しては、
逃げずに思い切り、インコースを
攻めていこうと話し合った。
試合の当日は、10月に入ったばかりの
秋晴れの絶好の野球日和とも
いえる日だった。 メンバー交換が行われた。
やはり、外山の先発ではなく、
上杉の名前が書いてあった。
準決勝からは、県内でラジオの
実況中継も行われていた。
安田は試合前に選手に言った。
「この試合で勝ては、事実上、
2位以内になって、地方大会への
出場が決まるし、敗れれば、
来年の夏まで甲子園を目指す
チャンスはない。
ここまで、こぎ付けたのも
お前達の力だ。
この試合はお前達の物だ。
今の自分の力を試すつもりで、
思う存分、試合を楽しめ」
選手達は円陣を組んだ。
背番号18の伊藤が真ん中で、
「思い切り楽しんで勝つぞ」
と大声を上げた。
「おおっ」
と他の選手も続いた。
その頃、F市の病院でも
照子が病室の枕元にラジオを置いて、
準決勝から実況される放送開始を
今か今かと待っていた。