独立リーグ構想
雄介達が準決勝進出を決めて
学校に戻った頃、
市の広報課に勤める中村と、
スポーツ用品メーカーの営業部員の立石は、
見学に行った試合球場から
雄介の妹の照子の入院しているF市の総合病院に
向かった。
中村は、雄介から妹の照子が、
どれ程、大村高校の勝利を
祈っているかは充分に聞いていた。
病気の事も監督の安田から聞いている。
二人は病院の中に入っていった。
照子は抗がん剤治療が一段落して、
一般の病棟に一時的に移っていた。
「よお、照ちゃん、元気そうじゃないか」
中村と立石は努めて、元気に振舞いながら、
病室に入っていった。
「お兄ちゃんたち、勝ったんだってね。
さっき、お母さんから聞いた」
照子は嬉しそうな顔をしていた。
「ああ、君のお兄さんが大活躍して
くれたおかげでね。
でも、次は抽選で星村学園と当たって
しまった。
県代表は2校だから、これに勝たないと
選抜の参考資料となる地方大会には
いけないよな。
照ちゃんも、ここから念力を送ってくれよ」
立石も笑顔を見せた。
中村は照子の顔を厳しい表情で見て言った。
「病気の事は大体聞いている。俺は市の広報に
勤めているから、移植の事とかで、
協力できる点があれば言ってくれ。
お母さんにも伝えておくから」
「中村さん、ありがとう。
でも、今は大げさにしてチームの
負担になりたくないのよ」
照子は首を振った。
「そうか、わかった。
それより、今日、立石も連れてきたのは、
君が野球への情熱を人一倍持っていると
聞いたからなんだ」
中村はそういうと立石の顔を見た。
立石も頷いた。
「俺達、今年で30才なんだけど、
どうしても、野球への夢を捨てきれ
ないんだ。
それで、何か、独立リーグのようなものを
この県でも作れないかと思って、
色々、調べてみたんだ」
立石は、照子の顔を見ながら言葉を続けた。
「俺は職業柄、野球用具の売込みにも、
いろんな所に出入りするだろう。
そうすると、様々な事情で、
野球を断念せざるを得ない若者が、
こんなにもいるのかという位、
非常に多くいる事に気が付いたんだ。
でも、彼らは心の底では、
野球を続けたいと思っている。
俺は中村と相談しながら、
そういう人達や会社の上層部にも
俺達の構想を働きかけてみた。
埋もれている才能がどこにあるかもしれない。
それを掘り起こせないかって。
地域の人に夢を与える事にもなるし。
まだ、なかなか上手くいかないが、
どうにかしたいと思ってるんだ」
「どうして、その話を私に?」
照子は二人の顔を見比べた。
「さっきも言ったように、君の野球への
情熱は大したものだ。
実を言うと、大げさな事を言っても、
この組織はまだ、
二人で立ち上げたばかりでね。
君が少しでも、元気な時に、
間借りしている事務所の手伝いに
来てくれないかと思ってね」
照子は中村と立石の言葉に、
目を輝かせた。
「ありがとう、二人とも、
私に気を使ってくれて」
「頼みに来たのはこっちなんだぞ」
「そうだった。私は高く付くわよ」
照子はいたずらっぽく微笑んだ。