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雄介の思い

その夜、雄介は全く眠れなかった。

 (妹が白血病)

 そんな馬鹿な事があるはずない。 

 あんなに家族にもチームメイトにも

 愛される妹がなぜ、そんな重い病気に

 ならなければいけないのか。 

 そう考えると悔しくてならない。

 雄介の脳裏に、今まで、双子として、

 育ってきた日々が蘇ってきた。

 

 玩具を取り合って、喧嘩をしたこと。

 家族での旅行。

 クリスマスや誕生日を祝った時の

 照子の笑顔。 

 

 雄介が、本気で野球を始めるように

 なってからは、半ば、妹を強引に

 自分の夢に引き入れてしまった。 

 本当は、照子にも他にやりたい事が

 あったのではないだろうか。

 自分が照子を野球に巻き込んだ事は

 正しかったのか?

 様々な想念が雄介の頭の中を駆け巡った。

 

 翌日、雄介は父が運転する車で、

 病院に向かった。

 とにかく、今は出来る限り、

 明るく接してやろう、

 その事だけを考えていた。

 

 F総合病院は、この地方では、

 一番大きな5階建ての病院だった。

 照子は、5階の病室に入院していた。

 博と雄介がエレベーターを降りて、

 廊下をしばらく歩くと、

 ガラス張りの病室があった。

 母親の静子が雄介たちを見ると、

 ガラス越しに、照子に合図を送った。

 照子は、抗がん剤の治療に備えて、

 既に、無菌室に入っていたのだ。


 外には、マイクが備え付けられていて、

 それで、家族と話が出来るように

 なっていた。

 照子はいつもと変わらず、笑顔だった。 

「お兄ちゃん、来てくれたの」

 「ああ、意外と元気そうじゃないか」

 雄介は、涙が出そうになるのを

 こらえながら、努めて明るく言った。

 「私は大丈夫よ。 

 こんな病気に負けないから。

 それより、私の事はまだ、

 皆には黙っていてね。

 余計な心配かけたくないから。

 それから、お兄ちゃんも、

 大事なポジション、任されてるんだから、

 私の事なんか気にしないで、

 秋季大会頑張ってね。 

 ここへも、来なくてもいいから。

 私、本当に頑張るから」

 雄介は妹の気持を必死に汲み取ろうとした。

 「わかったよ。

  俺も必死に頑張るから。

  今度、来る時はいいプレゼント

  持って来るから」

 雄介は、それだけ言うのがやっとだった。

 病室を離れると、静子が

 雄介に言った。

 「とにかく、照子の病気には、

  骨髄移植が一番最適で、

  その型の一致する可能性は、

  家族が一番高いらしいの。

  お前にも近い内に検査を受けて

  もらうから」 

 母の顔は、雄介がいつも見慣れた顔と違って、

 短い間に、見違えるようにやつれていた。

 「母さんも体、壊すなよ。

  俺、どんな事でも協力するから」

 雄介は、痩せた母の肩を抱くようにして言った。

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