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妹の病気

照子が倒れたのは、午後の練習が始まって、

 1時間分位して、

 選手の傷の手当てしている時だった。 

「気分が悪い」

 と言って、そのまま、その場に倒れこんだ。

 雄介は、直ぐに照子に駆け寄った。

 「大丈夫か」

 「大丈夫よ」

 照子は、そう言って、気丈に立ち上がろうとした。

 だが、練習を見ていた部長の竹村がそれを押し留めた。

 「熱中症かもしれないから、一応病院に行こう」

 そういうと、車に照子を乗せて、病院に向かった。

 

 (そういえば、あいつ、家でも最近、 

  疲れやすいと言っていたな)

 雄介は少し心配になったが、

 軽い夏ばてだろうと考えて、

 直ぐに自分の練習に戻った。

 

 練習が終わる頃になっても、

 竹村と照子は戻ってこなかった。

 夜、雄介が帰宅すると父親の博が、

 待っていた。 

 「照子は?」

 雄介の問いかけに、博は厳しい表情をして言った。

 「今日は帰らないよ。

  医者が照子の様子を見て、

  念のために、明日、隣町のF市の

  総合病院で、一通り体の検査を

  しようと言うんだ」

 「それで、父さん、

  照子の様子はどうなんだ」

 「本人は病院で、

  ずっと、元気にしているよ。

  今は、母さんが付いてる。

  さっきまで、部長さんもいてくれたよ。

  お前からも明日、礼を言っといてくれ。

  それから、照子がお前に自分は大丈夫

  だから、秋季大会に向けての練習に

  全力で打ち込んでくれと言ってたよ」

 雄介は、如何にも照子らしい

 言葉だと思った。


 よく考えてみれば、今までいつも、

 妹が側にいてくれるのが

 当然という気持でいた。

  

 翌日、学校に行くと、

 西城と大塚由美子が真っ先に駆け寄ってきた。

 「照ちゃん、大丈夫なのか」

 「ああ、今は暑いからな、

  ちょっと体調を崩しただけだろう」

 雄介は、笑顔で答えた。

 照子が人に心配をかけるのを、

 嫌がる性格なのはわかっていたからだ。

 

 しかし、照子は総合病院に行ったまま、

 何日経っても帰ってこない。

 雄介は、慌しく父の博と母の静子が、

 交互に病院に行くのを見送る事しか、

 出来なかった。

 

 そんな日が何日続いただろうか。

 ある日、雄介が練習でくたくたになって、

 帰宅すると、博が深刻な顔をして、

 雄介を待っていた。

 「お母さんとも話したんだが、

  お前にいつまでも、黙っている

  訳にはいかない。

  照子には口止めされてたんだが」

 父と息子の間に気まずい空気が流れた。

 「照子の病名は」

 博が意を決したように言った。

 「急性骨髄性白血病だ」

 雄介は、呆然と父の顔を見つめていた。

 雄介にも、この病気が血液の癌と言われるほど、

 恐ろしい病気であるという認識はあった。 

 「照子は、知っているのか?」

 しばらくして、雄介はやっとの事で

 言葉を発した。

 「これから、無菌室に入って、

  厳しい治療が始まるんだ。

  照子も、もう高校2年生だし、

  あの子は勘もいい。

  それに、小石という照子の主治医になった

  先生も、この病気は本人に告知しないで

  戦えないというんだ」

  父は、苦渋に満ちた表情で言葉を続けた。

 「ただ、俺と母さんが照子に言ってない事がある。

  照子の病気の型は、白血病の中でも、

  悪性度が高いらしいんだ」

 父の目は、少し赤かった。

 雄介は、頭の中が真っ白になった。

 「父さん、俺はどうすればいいんだ。

  照子がこんな時に、

  野球なんかやっていていいのか」

 雄介は照子と共に追いかけてきた

 甲子園の夢がふと、遠いものに思えた。

 父親は、雄介の目を真っ直ぐに見た。

 「照子がそれを望んでいるんだよ。

  もちろん、俺達もあきらめていない。

  今は、白血病と言っても、いろんな

  治療法がある。

  ただ、お前にも本当の事を言った以上、

 兄として、照子を励ましてやってほしい。

 部長さんにも許可をもらっているから、

 明日の朝、俺と病院に行こう」

 

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