監督の決意
翌日から新チームでの本格的な練習が始まった。
雄介は、いよいよ、自分達が主役になる年に
なったんだと思うと武者震いがした。
選手たちは、練習でも大きな声を出す事を
心がけて、必死にボールを追いかけた。
新チームとしての
一日目の練習が終わってから、安田が
選手を前にしていった。
「これをいうべきかどうか随分迷ったんだが、
お前達と何の曇りもなく野球をするために
言うことにした。
俺は、来年の夏で監督を退任する事に
したよ」
選手達の間にどよめきが起きた。
「最初は、このチームで甲子園に
行けなかったら、という気持だった
んだが、最近はノックバットを持つのも
重く感じるようになって来たんだ。
今の一年生には、卒業まで直接指導が
出来なくて申し訳ないが、
もちろん、出来る限りのサポートは
するつもりだ。
そこは、わかってほしい」
安田は静かに言葉を続けた。
「俺は、20年以上監督を続けてきた。
小さな町だし、有望選手もなかなか、
出てこない。
だから、よく甲子園の常連校の
監督などが、
今年は秀でた選手がいなくて、
弱いチームです、なんて
言うだろう。
それを聞く度に腹立たしく思ったもんだ。
何言ってやがるんだ。
そこら辺から、リトルリーグや中学時代に
投手で4番を打っていたような
選手達ばかりをかき集めておいて、
とな」
安田はそういうと笑顔を見せた。
「まあ、それがほころびとなって、
今の特待生制度の問題などにも
つながっているとは思うが。
今、俺が言いたいのは、
そんな事じゃない。
結局、どんな言い訳をしたって、
何も変わらないという事なんだ。
前にも言ったかもしれないが、
今、与えられている戦力で、
戦う以外にないんだよ。
自分達にやれる事を精一杯
やっていく以外にないんだ。
そして、俺は長い監督生活の中で、
それを一番やってくれる可能性の
高いのが君達だと思っている」
安田は語気を強めた。
「とにかく、今日、新チームは
始まったばかりだ。
君達に、自主的に野球を考えて
自分達で考える野球を実践してほしい
という気持に変わりない。
主将も副主将も自分達が信頼の
出来る選手を決めてほしい。
今日は以上だ」
選手たちは、安田の覚悟を聞いて、
「絶対に、俺達が監督を甲子園に
連れて行こうじゃないか」
と言い合った。
そして、新主将には、性格的にも
明るくチームをサポートし、
下級生にも、よき相談相手として、
慕われている伊藤を全員一致で選んだ。
副主将には雄介と西城が選ばれた。