再出発へ
試合後、大村高校のスタンドからも、
温かい拍手が送られた。
選手の両親の顔も見える。
OBや仕事を休んで応援に来てくれた
町の人々の顔も多くあった。
「よく、やったぞ」
「来年は勝ってくれ」
選手達の耳に様々な声が飛び込んできた。
宿舎に帰り着いてから、
安田は主将の佐々木や上級生を労った。
「よく、ここまで、頑張って、
チームをまとめてくれた。
きっと、最後のお前のホームランを
後輩達も無駄にはしないはずだ。
今まで、ありがとう」
佐々木も他の3年生部員も涙を流していた。
佐々木は、何も言わないで、ただ、
雄介たち下級生一人一人と、
握手をしていった。
何も言わなくても、
(後は頼んだぞ)
という佐々木の思いを、
雄介も西城も、皆が感じていた。
学校に帰ってから、安田は雄介たち
新チームになるメンバーを集めて
言った。
「部長とも話をしたんだが、明日から三日は、
野球の事も含めて、いろんな事をお前達に
考えてほしいと思っている。
時には、休むのも練習だ
とにかく、明日は完全休養日にする。
各自、思い思いに家族孝行でも、
普段、出来ない遊びでも、好きにして
過ごしてほしい
明後日の朝、ここに集合だ」
雄介は、帰り際に西城に声を掛けた。
「西城、明日、俺の家に来ないか。
お前と話したい事もあるし、
照子も喜ぶだろう」
「ああ、そうするよ。
でも、朝は、久しぶりに親父の
仕事を手伝ってやりたいと思っているから、
昼過ぎに行くよ」
西城も笑顔で答えた。
翌日、朝から、母親の静子は、
どうしても行かなければいけない用事が
あるからと言って、一日、留守にしていた。
雄介は妹の照子に言った。
「お前も、学校では周囲の目もあるし、
西城とゆっくり話をする時間もないだろう。
今日は、いろんな事を話すといいよ」
雄介の言葉に、照子も嬉しそうな
表情をしていた。
他に、雄介には西城に
言っておきたい事があった。
昼過ぎ、約束どおり、
西城が雄介の家に来た。
雄介は、春の星村学園の対戦以降、
考えていた事を西城に言った。
「俺はあの時から、ずっと考えて、
伊藤にも言っていたんだが、
西城、お前、本格的に投手を
やってみようという気持はないか」
「俺がか?」
「ああ、昨日も外山のボールを打席で見ていて、
お前の球質とすごく似ていると思ったんだ。
お前には、天性の肩の強さもあれば、
投手に必要な冷静沈着な性格も持っている。
それに、俺達は子供の頃から気心もしれているから
俺もリードがし易いし」
西城は、少し、考えるような表情をしていた。
雄介は言葉を続けた。
「田所や坂本にとっても、
お前が真剣に投手をやる姿を見れば、
いい刺激になると思うんだ。
この話は、もちろん、伊藤に言ったから、
監督にも伝わっている。
監督も同じ思いだそうだ」
雄介はそう言いながら、西城の表情を見つめた。
「わかったよ。俺も投手をしている時が、
一番楽しいと感じているのは、
前にも言った通りだ。
皆のためになるなら、そうするよ」
西城も頷き返した。
雄介は、それから傍らにいる照子に言った。
「俺、少し、自分の部屋にいるから
二人で、話をするといいよ」
雄介はそういうと二人に笑いかけて、
席を立った。