準決勝に向けて
雄介は試合終了のサイレンを聞き、
チームメイトと抱き合いながら、
大きな充実感を感じていた。
幾多の先輩達がやれなかった実績を
自分達が上げることが出来た。
それは、新たな挑戦への
スタートでもあった。
試合の後に、グラウンドでは、
準決勝の組み合わせ抽選が、
行われていた。
主将の佐々木が、
「星村学園を引いたよ」
と苦笑いしながら戻ってきた。
選手達にどよめきが起こった。
星村学園と対戦する事は、県内外を問わず、
様々なチームの大きな目標になっていた。
既に、2年生エースの外山と4番打者の前島の
名前は全国に拡がっていた。
高校野球関係の雑誌のインタビューなどで、
外山は、後一年の間には必ず、150キロを
超えるスピードボールを投げると
公言していた。
前島もプロ野球への強い希望を抱いている
ようだった。
だが、県予選がテレビ中継
されていることもあって、この頃から
2年生部員の多い大村高校も、
勝ち上がっていくにつれて、
地元などのマスコミの注目を
浴びつつあった。
安田は選手に言い続けた。
「どんなに騒がれても浮かれるな。
誰に対しても礼儀正しく
接する事だけは忘れるな。
絶対に、思い上がったり、
自分を見失ったりしてはならない。
思う存分野球が出来る環境に
感謝して、高校生らしく過ごしてほしい」
雄介たちにとっても、主将の佐々木を初めとする
3年生部員と野球が出来るのは、
この大会が、最後である事に変わりはない。
(一つでも勝ちたい。
相手が星村学園であっても)
雄介は、今から、準決勝の日の来るのが、
待ち遠しいような気がしていた。
しかし、誰が見ても、星村学園の優位は
明白だった。
主砲の西城も怪我で欠いている。
新聞を見ても、大村高校の
勝利を予想している所はなかった。
そして、準決勝の日の朝を迎えた。
安田は、前日まで、先発を誰にするか、
迷いに迷っていた。
田所は、炎天下での試合で、
疲労はピークに来ている。
安田は思い切って、最近、調子を上げている
坂本の先発を決めた。
とにかく、総力戦で行くしかなかった。