先を見据えて
竹村と安田が去った後、
主将の佐々木が口を開いた。
「もう一度、俺達の野球を自分達自身で
考えようじゃないか。
上級生も下級生もない。チームを強くする
ヒントがあるなら、これから、誰でも
俺に意見を言ってくれ。
皆で、練習の仕方を工夫しよう。
後で、俺から監督に相談するから」
佐々木の言葉に西城が口を開いた。
「皆、今日、始めて外山のボールを見たはずだ。
確かにすごく速い。
でも、感心していても、
何も始まらない。
明日から、もっと、打撃練習の時に投手に
近くからボールを投げてもらって、
目を慣らしていくとか、
何か考えないといけないよな」
最後に主将の佐々木が締めくくるように言った。
「もう、夏の大会まで2ヶ月を切っている。
万が一、このチームで星村学園に勝てなくても、
今の一、二年生が最終学年になった時には、
外山を打ち崩して甲子園に行く。
そんなチームになっていくような、
土台作りになる練習を今から考えようじゃないか」
佐々木がそういうと、他の部員も自主的に、
守備位置に散っていった。
翌日、雄介たちが部室に来ると、
部屋の脇に、
「心静かに、大海原を目指そう」
という張り紙がしてあった。
副主将の伊藤が、女子マネージャーの大塚由美子や、
雄介の妹の照子と考えて作ったスローガンだという。
「昨日、監督と部長の言葉を聞いて思ったんだ。
とにかく、どんな時でも、冷静に自分達のやるべき事が
出来るチームにならないといけないんじゃないかって、
その先に、大海原のような甲子園があるんじゃないかって。
大塚や照ちゃんと自分達も何か考えようと話し合って、
張り紙を作ったんだ」
と伊藤が頭をかきながら言った。
「ありがとう、俺達もこの言葉を肝に銘じて、
練習するよ」
雄介も西城たちも他の部員も伊藤の言葉を胸に刻んだ。
6月になり、雄介たちにとって、2年生としての、
夏の県予選が一月後に迫ってきた。
打撃では外山の速球を頭に入れて、
各自、バットスウィングを早くするために、
懸命にバットを振り続けた。
投球練習場では、田所、坂本、西城、三島が並んで、
星村学園やK大付属戦を意識した投げ込みを、
ひたすら続けた。
守備練習では、安田がノックバットを持って、
選手のグラブの届き難い所に、右に左に、
打ち続けた。
6月の終わりになり、県予選の組み合わせ抽選会が
行われた。
選手達は星村学園との対戦を望んでいたが、
違うゾーンになった。
抽選では、準々決勝まで勝ち進めば、
選抜の甲子園に出場したK大付属と対戦する事になっていた。
「絶対に、ベスト8に残って、去年の借りを
返そうじゃないか」
「リベンジだ」
「それに、準決勝まで進めば、再抽選がある。
そこで、星村学園と試合が出来るチャンスもある」
選手達は勢い込んだ。
ただ、外山の速球にあわせた練習をしてきた
チームにとって、K大付属の斉藤の切れのある
スライダーやフォークを想定した練習をするのは、
難しかった。