一年春
雄介達が入部して一月が過ぎた。
安田監督は新入部員にひたすらランニングを命じた。
もちろん、基礎体力を付ける意味もあるが、
雄介には、監督のもう一つの狙いが選手の振るい落としにある事は分かっていた。
(監督は、ここで、3年間付いてこれる選手とそうでない選手を
見極めようとしているのだろう)
絶対負ける訳にはいかない。
雄介と西城はお互いに声を掛け合って、黙々と走り続けた。
20人いた新入部員も、ランニングばかりの毎日に付いて来れない選手が
辞めていき、約半数になっていた。
春の大会も一回戦で敗れた
先輩達の関心は、早くも夏の県予選の抽選会に移っていた。
「一つぐらいは勝ちたいなあ」とか
「一回戦で星村とだけはやりたくない」などという
弱気な会話が、雄介たちの耳にも入ってきた。
「俺達はああはなりたくないなあ」
この頃になると雄介たちは気心の知れてきた仲間達と集まって、
自分達の夢に付いて、いろんな話をした。
一年生部員は
雄介、西城、田所、三島以外に
母子家庭で育った努力家で気の強い山中、
短気で多少自己中心的な所もある井口、
反対に内気で気持の優しすぎる面のある上田、
中学時代、田所のチームメイトで控え投手だった坂本
ムードメーカーでとにかく明るい伊藤の9人になっていた。
妹の照子と大塚由美子も先輩の女子マネージャーから、
監督のサポートやスコアの付け方、選手の世話まで、
様々なことを教わっているようだった。
6月になり、夏の大会のメンバーが発表された。
一年生では、唯一、将来性を買われた西城が7番でショートの
レギュラーポジションを勝ち取った。
そして、控え投手で田所には背番号10、
三島には18番とベンチ入りでは一番大きい番号が与えられた。
3年生で、ベンチ入り出来なかった選手からすすり泣く声が聞こえた。
監督の安田も涙ながらに、チームを強くするために我慢してほしいと、
涙をながす選手達を一人一人抱きしめていた。
ベンチ入りから外れた雄介たちはサポート役に回った。
この頃から、雄介はクラスメイトでもある大塚由美子と話をする機会も増えた。
大体は、練習の打ち合わせなどに関する他愛ない会話だったが、
それだけでも、雄介は心のときめきを感じずにはいられなかった。
そして、抽選の日、キャプテンが引き当てたのは優勝候補の本命の
星村学園だった。