西城の気持
翌日、昼休みに雄介は西城を校庭に呼び出した。
「最近、お前と照子が親しそうにしていると聞いたが、
本当なのか」
雄介は単刀直入に尋ねた。
「ああ」
西城は、真っ直ぐに雄介の目を見て、頷いた。
「俺は子供の頃から、照ちゃんが好きだった。
いつも、俺たちの野球の試合を一生懸命に応援し、
見守ってくれていただろう。
何か、彼女の声援が聞こえると、嬉しかったんだよな」
「よく言うよ、まったく」
雄介はそういいながらも、西城が好きなのが、
大塚由美子ではなく、妹の照子だった事が、
ホッとしたような寂しいような不思議な気持になった。
(西城なら子供の頃から、親友として一番信頼しているし、
妹とも真面目に付き合ってくれるだろう)
雄介は、西城の肩を叩いて言った。
「まあ、よろしく頼むよ。
俺はお前の事を一番の親友だと思っているから。
去年の秋、K大付属に俺のエラーで負けた事が
あっただろう。
あの時も、お前が一番に俺の所に飛んできて
くれただろう。
本当に嬉しかったよ」
それから、西城と照子は、チームメイトからも、
公認の仲である事が、暗黙の了解のようになった。
監督の安田も部長の竹村も、選手のプライベートな事には、
大きな問題が起きるとか、選手個人から相談されない限りは、
余り口を挟まなかった。
ただ、竹村は偶に、練習後のミーティングの後に、
選手の生活態度に触れる事があった。
「俺は君らに野球だけしていればいい、
というような人間にだけはなってほしくないと思っている。
学校の勉強も頑張ってほしいし、また、高校生なんだから、
誰かの事を好きになるのも自然の成り行きだ。
ただ、一つだけ言っておきたいのは、自分で責任を
取れないような無責任なことだけはするな、
という事だ。
それさえわかっていれば、後は高校生らしく礼儀正しく、
明るく元気にしてくれれば、それでいいさ」
竹村はそういうと笑顔を見せた。