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プロローグ

 

 7月の太陽は眩しい。

 夏の日差しが燦燦と降り注ぎ、グラウンドの土の一粒一粒を、文字通りダイヤモンド

 のように輝かせていた。

 ここは、N県の県庁所在地にある県営球場。

 1塁側のベンチ下の通路で、大村高校副主将の沢田雄介はただ、目を閉じていた。

 決勝戦を前に、ざわめいているスタンドのどよめきが海鳴りのように聞こえる。

 徐々に上がり始める気温。

 (後、数時間後には甲子園代表校が決まっているだろう。

 ここまで来て、負けるわけにはいかない)

 雄介は、目を開けて、対戦相手の星村学園の選手達を見つめた。


 今、雄介の故郷のM町は沸きに沸いている。

 まるで、甲子園に縁のなかった町の高校が県予選の決勝戦にまで駒を進めたからだ。

 雄介は、チームの副キャプテンとして、背番号2を付けている。

 捕手としての自分を磨くためにどれ程、苦しい練習に励んできた事か。

 町の期待も充分に感じていた。

 

 雄介の生まれ育ったM町は小さな漁村だ。

 雄介の父親の沢田博は、中学校の国語の教師をしている。

 母の静子は、おおらかで、何でも子供のしたい事をさせてくれる母親だ。

 双子の妹照子、おてんばで一家のアイドル的存在である。

 

 雄介の幼い頃からボール遊びが好きだった。

 一人で家の前のブロック塀にボールを当てて遊んでいた。

 時には、妹を連れ出して、無理やりキャッチボールの相手をさせた。

 母親の静子が、玄関脇にある小窓を開けて、

 「ご飯よ」と呼びにくるまで、夢中で壁から跳ね返ってくるボールを追いかけた。

 やがて、小学校に入ると、放課後、帰宅するとランドセルを脱ぎ捨てて、妹も引き連れて

 裏山で2、3人の友人と玩具のボールを持って、野球の真似事をし続けた。

 

 小学校の高学年になり、雄介は当然のように地元のリトルリーグに入った。

 雄介は、そこで、運動能力の違いというものを実感させられるチームメートに出会う。

 高校まで野球生活を共にする西城孝の存在だ。

 西城は、小学生でありながら、運動神経でも卓越したものを見せていた。

西城は、子供の頃から漁師の父親の手伝いをして船に乗っていたためか、

 抜群のバランス感覚とバネを持っていた。

 ショートで四番、文字通り、チームの柱だった。

 小学校の6年生になっても、レギュラー番号を貰えない雄介にとって西城は

 眩しい存在だった。

 ただ、そんな二人だが、不思議と気があった。

 西城は、野球に対する愛情なら誰にも負けない雄介の性格を一番理解してくれていた。

 いつからか、

 「二人で、協力し合って、甲子園を目指そう」が合言葉になった。

 

 雄介と西城は同じA中に進み、野球部に入った。

 チームそのものは、西城のワンマンチームで余り強くなかったが、

 地元のB中学に、雄介と西城に甲子園を意識させる二人の選手がいた。

 B中のエース田所英雄と外野で俊足巧打の三島和也だ。

 田所の速球は、A中のバッターを切り切り舞いさせ、三振の山を築いた。

 一度、代打で打席に立った雄介も、その速さに目を見張った。

 そして、野球センス抜群の三島。

 一番バッターとして、相手チームを走塁でかく乱し続けた。

 

 中学3年の大会が終わって、雄介と西城は二人に声をかけた。

 「同じ地元の大村高校で野球を続けないか」

 三島は直ぐにOKの返事をしたが、

 投手の田所は、答えを渋った。

 県内の甲子園の常連私学 星村学園からの誘いがあったからだ。

 星村学園は、夏の大会過去10年の間に7回の甲子園出場を決めていた。

 田所が、星村に行きたいというのも無理はなかった。

 

 雄介と西城は二人で田所を説得した。

 「俺達の力で、このM町を有名にしようよ」

 「絶対に出来る」

 「そのためにはお前の力が必要だ」

 あらゆる言葉で、田所の気持を揺さぶった。

 最後には田所の気持も傾いた。

 こうして、4人の甲子園を賭けた高校生活がスタートする。

 

 

 大村高校野球部監督の安田正も、その年、入部してきた新入部員に

 手応えを感じていた。監督生活20年の中で、やっと、甲子園を狙える

 チームに巡りあえたという実感だ。

 もちろん、今までだって、手を抜いてきた訳ではない。 

 どのチームも精一杯指導してきた。

 しかし、ほとんどの大会が一、二回戦止まり。

 最高でも、ベスト8。

 何かが足りなかった。

 それが何なのか、今年の新入部員達とこの目で確かめてみたい。

 (もしも、こいつらが3年になった段階で結果が出なかったら潔く監督を辞めよう)

 安田は密かに監督としての覚悟を決めた。 


 大村高校入学の日

 1年B組の教室に入った雄介は、生まれて初めて心を揺さぶられる少女に出会った。

 彼女の名前は大塚由美子。

 周囲に人を引き付ける笑顔と底抜けの明るさが印象的だった。

 

 そして、放課後、雄介と西城は野球部の新入部員が集まるグラウンドに向かった。

 2、3年生は既に、春季大会に向けての仕上げの練習を行っていた。

 一年生部員は全員で20名。

 雄介が驚いたのは、女子マネージャーとして双子の妹の照子と共に、

 大塚由美子が現れた時だった。

 由美子は、中学時代はソフトボール部をやっていたが、この高校にソフトボール部が

 ないので、野球部のマネージャーになる事にしましたと自己紹介をした。

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