7.あいつを救うためなら
自分がこんにも優柔不断だとは知らなかった。
芹那に負けらんねぇ、とか妙に意識してしまいプレゼントが決まった時にはショッピングモールも閉店の時間だった。
数時間前の自分の言葉をなかったことにしたい。
「まぁ買えたことだし帰るとするか。」
どうでもいいが芹那はもう帰っただろう。
広いとはいえ1度も芹那とはすれ違うことはなかった。
俺も早く帰るか。
携帯の液晶は午後10時を指していた。
家の最寄り駅についたのが10時半ー
あまり降りる人もおらず、人通りも少ない。
遅くなったこともあり、近道をしようと田んぼが広がる暗闇を急いだ。
…うちの町は裏に入れば結構田舎なんだよ。
田んぼといってもちゃんと道路もあるしびっくりするほどの田舎じゃないが街灯も少なく暗闇が続く。
その道路に沿って線路が続いており、その下をくぐれるようにトンネルになっている。
そのトンネルを越えれば俺の家が見えてくる。
そのトンネルで俺はもみじを見つけた。
いや…もみじだったものを見つけた。
そこには首から上がなくそこから湧き水の様に血が溢れている死体があった。
最初は誰だか分からず恐怖のあまり腰をぬかした。
でも見覚えのあるピンクのラインが入ったジャージに見覚えのある携帯…俺は恐る恐るその携帯を拾いボタンを押した。
液晶には芹那と一緒に笑っているあいつのプリクラがうつしだされた。
「嘘だ…ろ…」
血でよく見えなかったが頭がない分目を凝らせば分かった。
首筋に2つ並んだ黒子を見つけた。
もみじにもそれがあるのを俺は知っている。
あいつに電話をかければ目の前の携帯が光り、鳴り響く。
もう疑う余地もなく、目の前のそれはもみじだったものだ。
トンネル内に俺の嗚咽が響く。
再度、もみじだったものを見た。
そこで俺は気を失った。
気がつけば俺は自分の部屋のベッドで寝ていた。
寝起きにしては頭が妙に冴えていて昨日のこともすぐ思い出せた。
昨日のことと思ったのは窓から差し込む日差しが目に入った為、誰かが俺を運んでくれて、朝まで寝ていたのだと思った。
だから携帯を開き日付けを見たときは驚いた。
「日にちが戻ってる…?」
俺は急いでもみじに電話をかけた。
しかし、現時刻は携帯によると午前6時ー
生きていようが死んでいようがあいつは出ないだろう。
俺は着替えもせずあいつの家に向かった。
結果から言えばあいつは生きていて…ここからあいつを救うための時間を何度か繰り返した。
1回目はあいつの死体を見つけたところで待ち伏せしていたが、殺されたのは別のところだったらしく真っ黒なコートで全身を隠した犯人であろう誰かが死体を持ってきた。
俺は捕まえる前に前日に戻された。
2回目はあいつの家で待ち伏せた。
そして夜に出かけたあいつについていった。
その9月28日で犯人が分かった。
もみじの首もとをかっ切るそいつには躊躇などなく一瞬の出来事でもみじを助け出すことができなかったが犯人をこの目で見た。
見たところでまた昨日に戻された。
犯人は見間違いもなく芹那だった。
3回目から10回目は芹那の説得に費やした。
「私はほんとに本当にもみじちゃんが大好きなんだよ…親友とかじゃなくて…もみじちゃんがいないと生きていけないの…」
「じゃぁなんで殺すなんて…」
「いつかもみじちゃんは誰かのものになっちゃうもん…
もみじちゃんってね…意外とモテるんだよ?もみじちゃんの下駄箱に12回ほどラブレター入ってたんだ。」
きっとこいつは毎朝確認して破棄してきたのだろう…
ラブレターって…古典的だな…
「だからもみじちゃんを殺して私も一緒に死ぬの…じゃましたら佐々倉君でも許さないから」
狂気の沙汰だ…でも声は震えていた。
正直、芹那のもみじを思う気持ちは形は違えど俺に似ているものがあった。
だから何度か説得しているうちに分かった。俺なんかじゃ説得なんてできやしない…
その後、いろいろあって17回目で芹那を殺すことを決意した。
あいつを救うためなら何度だって繰り返してやる。
何だってやってやる。
決意した9月28日ー
その日の朝、もみじに屋上に呼び出された。




