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クローズドプラン

一時間ほどの補給を済ませると、その部隊は再び戦地に向かった。

一度補給を済ませると彼らは三日三晩不眠不休で破壊の限りを尽くす。

特殊合金で造られた彼らのボディは地上のありとあらゆる弾丸を弾き返し、核の炎でも燃え尽きはしなかった。

彼らを倒す手立ては人類には無かった。


だがある日、瓦礫に埋まり身動きが取れなくなっているそれを見つける。

諦め掛けていた人類は再び立ち上がった。

彼らを倒す唯一の方法は、補給をさせないこと。たったそれだけの事だったが、全ての希望を失っていた人類にとっては願っても無い突破口だったのだ。

例え完全無欠の破壊兵器だとしても、電池が切れてしまえばただの人形に過ぎない。

人々は降って湧いた希望に奮起した。


彼らは突如として円盤のような輸送船で現れる。

生き残りの人類達はそこに目をつけた、移動手段さえどうにかできれば一個小隊を全滅させる事ができるのだ。

アバンギャルド隊と名づけられた特殊部隊が、現れた彼らの輸送船を襲撃する。

彼らが街を破壊しに出払っている時を狙って一気に詰め寄った。


だが入り口らしき物が見当たらない。彼らと同じ素材でできているこの船には外からの攻撃は一切効かないのだ。

どうにか中に入り込めればと思っていたアバンギャルド隊だったが、目標を前になす術がなかった。


目標を目前に手を拱いていたアバンギャルド隊。

だがしかし、隊員の一人が何かを発見する。

それは船体の裏、ぽっかりと開いた穴ぼこだった。そういえば別の戦地からの報告で、敵船からロボットが空爆のように降り注いだという報告があったと、アバンギャルド隊の隊長は思い出した。


そう、この人一人がようやく入り込めそうな穴ぼこがこの船の入り口であることは間違いなかった。

誰が言うわけでもなく、精鋭ぞろいのアバンギャルド隊の隊員達は電子爆発を引き起こす特殊爆弾を抱えて穴ぼこ目がけて突撃する。

細い三本の足で、地面から3メートルほどの高さに固定されているこの船。その底辺に存在する入り口から入り込むのは至難の技ではあるが、優秀なアバンギャルド隊は号令もなしにテキパキと手組み足組み、組体操の要領で、自分達の体を使って足場を作ってしまった。

このままでは自分の立場が無いと焦った隊長が「突撃ー!」と絶叫したが、既に隊員は船内に潜り込んでいた。

入り口は全部で三つ、その下にそれぞれ屈強な男たちがピラミッドの形を作っている。

銀色に輝くUFOの様ないでたちの輸送船の下で、男たちが組み体操。一見なんとも言いがたい不思議な光景ではあるが、これは今後、人類史で必ず語り継がれるであろう感動的はシーンなのだ。


間もなく船内に入り込んだ隊員が穴から転げ落ちてくる、それを受け止めるかのごとくピラミッドはドサドサと崩れ落ちた。

今度こそはと意気込んでいた隊長はまたしてもそのタイミングを逃した。


戻ってきた隊員3人は、皆一様に青白い顔をしており、そのうち一人が泡を吹いて倒れた。

報告によれば、船内はほぼ無酸素状態であったらしい。

つまりこうやって人間が入り込んだ時の為にその対策としてそうしていたのだろう。


爆弾は設置できたとの事、重病者もいる手前、急いでその場から撤退する。

すると数秒の後、凄まじい音が響き渡る。

輸送船の下から炎が噴出し、船体が空に向けて高く浮き上がった。


映画のラストシーンのような派手な爆発だった。

アバンギャルド隊は後退しながらも歓声をあげ、居ない観客たちに愛想を振りまいた。

中に浮き上がった船体はガランゴロンとまた同じ位置に着地する。


そしてこのアバンギャルド隊の作戦は見事成功し、輸送船に戻った彼らは疑う余地も無く、発射の時をじっと待ち続け、二度と動き出す事は無かった。


それは彼らの電池が切れてしまったからだという確証は無かったものの、とりあえず人類は初の勝利を手に入れたのだ。この戦法は瞬く間に世界中に広がり、人類の反撃が始まった。



人類の反撃が始まり早2年、唯一の戦法であった輸送船の破壊は功を奏し、その数は劇的に減っていった。

これらは一体何所からやってくるのか?ある国の軍部がそれを調べた。

つるりとした船体に特殊な発信機を取り着けて見たのだ。なぜ今の今までこのような単純な作戦を行わなかったのか、それは単に相手の特殊性に他ならない。

今まで何度もこの作戦を実行しようと試みたのだが、どうやっても船体のボディに張り付かないのだ。磁石も接着剤も、どういうわけかポロリと剥げ落ちてしまう。

そのためこの作戦は、新しい接着剤を開発するまでは実行できずにいたわけだ。


そしてあっさりとこの作戦は成功し、敵の本拠地は明らかになる。

それは大規模な砂漠のど真ん中、スパイ衛星が輸送船が出入りする時のみ現れる筒状の入り口を確認した。きっとその下には全世界を制圧するほどの技術が詰まった大規模地下秘密基地が存在するに違いない。

地球上の文明都市の大半が瓦礫の山と化し、ほとんどの国が軍事力を失いつつある今。まさにこの秘密基地は人類の憎むべき諸悪の権化であり、手にしたものは世界を制す力を持つロンギヌスの槍であった。


予想通り全ての国の軍隊がこの砂漠の真ん中に集まった。

これは全人類の敵を倒すために世界が一つになった感動的なシーンであることは間違いないのだが、この裏に隠れている各国の思惑は、今後の歴史のテキストにもバッチリ記載される事だろう。


人類の反撃により、輸送船の数は減ってしまっているので、当然、基地の出入り口が現れる頻度も減っているのだ。各国の軍隊は微妙な協力関係のまま、灼熱の砂漠のど真ん中で何日もキャンプを続けた。

それから二週間目のある日、ようやく輸送船が基地から飛び立った。



その輸送船は最後の一機であった。

輸送船は大陸を越え、海を渡り、南にある小さな島に着陸した。

その島に住んでいたのはたった一人の男。その男は人類史上最も優秀な頭脳の持ち主であり、同時に熱心な信仰者であった。彼は平和主義者であった。彼は人類愛に満ちた良心的な人間であった。

それ故に、戦争が許せない、さらに言えば、知恵の実を食べたバカップルが許せない。

知恵が神を遠ざけたと強く信じた。

そんな彼も歳を取り、耄碌し始める。そして妄想的狂言の趣くまま、これらの最強侵略兵器を造り始めた。

全ての破壊兵器撲滅をスローガンに掲げ、一人のテロリストが世界を相手に聖戦を仕掛けたのだ。

人類の知能をサル並にする細菌兵器も作っては見たが、あまりにも人道的ではないとトイレに流した事もあった。やはり、目には目を、武力には武力を。そしてこの長きに渡る人類対謎のロボット兵士という構図が出来上がった訳だった。

彼はプログラムの最後にこう書き加えた。もし世界中の武力を排除できた時、地球上で最強の兵隊を造った私を殺しに来いと。

彼は世界の行く末を見守るべく辺境の地にある小島に住み着いたのだが、この戦いが始まって半年としないうちに寿命でポックリと死んでしまっていた。

困ったのは最後のプログラムを実行に来た彼らである。

殺そうにも、既に彼は死んでしまっているのだ。彼のミイラ化した死体が風化し、骨も微塵に砕け散るまでただ何もできずに突っ立ていた。

やがて彼らの電池も切れた。


自分達が戦っていた相手は何者だったのか、生き残った人類はこのようは裏の事情が有ったなんて知る由も無い。

今後、人類がどんな歴史を歩んでいくのか、彼も彼らも知る由も無い。



ただ一人の男が何かを成し遂げたという事だけは、疑いようの無い事実だった。


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