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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
80/144

27-2話

「オクト、どうかしたのか?」

 宿舎で机に向かい、研究をしていると、アスタが背後から声をかけてきた。その声に私はビクリと体を震わせた。


 それほど大きな声でもないし、タイミング的に、唐突でもない。もちろん、やましい事をしているわけでもないのにこの反応。

 ああぁぁぁぁ、どうしたらいいんだろう。

 こんなあからさま態度をとったらアスタだって不審がる。しかし自分自身、すでに何が何だか、よく分からなくなっていた。

 そんな状態で今言える事は、ただ一つ。私がファザコンかもしれないなんて残念な事で悩んでいるのは、アスタにだけは知られたくないという事だ。


「いや……。えっと、時魔法用の蓄魔力装置だけど、これでどうだろう?」

 私は咄嗟に誤魔化す為に今仮で作った、魔法石を見せる。蓄魔力装置なんていっても実際は、板状の石に魔方陣を書き込み、とりあえず3枚を接着剤でくっつけ合わせたその場限りのモノだ。これは実験用であり、ちゃんと発動するかの確認を終え、形や使用する石の枚数正式に決定したら、石の扱いが得意なドワーフ族に発注をかける予定になっている。もちろんお金は図書館持ちだ。そういう予算はあらかじめ組んでもらっている。

 きっと魔法石作りの専門家の方が見栄えも、耐久度もよりよいモノを作りあげはずだ。自分の能力ではインクでとりあえず魔方陣を書き込むくらいしかできず、石に魔方陣を彫りこむなんてできない。


「良いんじゃないか?それにしても良く魔法石を重ねて繋げるなんて方法を思いついたな」

 偉い偉いとアスタに頭を撫ぜられると、恥ずかしさで逃げ出したくなった。

 駄目だ。意識し過ぎである。アスタは私の頭を撫ぜるのが好きみたいだし、こんなのいつものことだ。いちいち気にしていたらやっていられない。

 落ち着け自分と、頭の中で九九を数える。無の境地にならなければ。


「……うん。まあ」

「これも異世界の知識なのか?」

「そんな所」

 前世にあったエネルギーは魔力ではなく電気なので、若干違う。しかしそれを上手く説明するのは難しいし、参考にして思いついた事には違いない。

 しかし私の言葉に納得がいかなかったのか、アスタがジッと私を見つめてきた。何だか嫌な汗が背中を流れる。ママに聞いたネタは、そろそろ潮時かもしれない。

 

 アスタに引き取られて、これで6年。あの頃の倍以上の時間をここで彼と過ごしている。そろそろアスタになら、前世の記憶がある事を言ってもいいだろう。きっと私が困るような事はしないはずだ。

「あ、あの。アスタ――」

「オクト、何を怯えてるんだ?」

 私が喋りかけると同時に、アスタも口を開いた。

 何を?

「大丈夫だから」

 

 そう言って、アスタは困惑する私を抱きしめた。

 大丈夫って……何を怯えていると聞いている時点で、私がどうして混乱しているか知らない癖に。それなのに簡単に言ってくれるものだ。


「大丈夫だ」

 無茶言うなと思う。何が大丈夫なのだというのか。混乱原因のくせに。なのにその言葉に、声に、安堵する自分もいて、すでに自分は末期なのだと理解した。


 私はアスタが好きだ。


 うん。もう諦めよう。ファザコンであるなら、仕方がない。

 後は、その感情を上手くコントロールして、表面に出さないようにすればいい。例え誰かに嫉妬しても、それを見せなければ問題はないのだ。アスタが一番だと思うなら、アスタの幸せを一番に考えるようにしていけばいい。

 いつかアスタから離れる時がきても、アスタが困らないよう、未練なんて絶対見せない。そしてアスタの為にできる事をしよう。それが今まで大切にしてもらった恩返しであり、私のプライドだ。


 ……だから今日だけは。

 私は小さな幼子のように、アスタにしがみついた。




◇◆◇◆◇◆◇




「時よ。我が声に従い、動きを止めよ」

 コンユウの言葉に従い、時魔法が発動した。

 魔力を目に溜めている為、時属性の紫の光が魔方陣へそそがれ魔法陣が紫色に発光するのが見える。魔方陣を輝かせた紫の光は、今度は徐々に透明なクリスタルを己の色で塗りつぶしていった。

 そしてコンユウがクリスタルが紫に染まったところで魔力を注ぐのを止めたが、色が抜けて行く事はない。良し、ここまでは成功だ。


 今度は、時属性を持っていないエストが魔法石を持ち上げ、別の時魔法の魔法陣に触れさせる。その瞬間、クリスタルから今度は魔法陣へ魔力が流れ出て始めた。そして出て行くたびにクリスタルは再び透明に変わっていく。


 しばらくの間ジッと魔法陣を観察していた私は、透明に戻った所で、バッと顔を上げた。そしてコンユウの顔とエストの顔を見る。すると2人も、笑みをこらえたような微妙な表情で私を見ていた。

「成功……だよね?」

 エストの言葉にコクコクと私は頷く。完璧だ。


「うっしっ!」

「よっしゃあぁぁぁぁっ!!」

「やったね、オクト!!」


 ガッツポーズを決める私の隣で、コンユウとエストが手放しでよろこんでくれた。

 よかった。ちゃんと電池と同じ役割を果たしている。後は耐久時間試験をして、上手くいったら保持魔力量をどれぐらいにするかを考え、魔法石の配置を決めればいいだけだ。

 長かった。ここまでとても長かった。


 私達は顔を再び見合わせると、ハイタッチする。基本のひな型を作ったりしたのは私だが、3人で頑張って作りあげた努力の結晶だ。まだ石にペンで魔法陣を書いただけという手作り感満載な拙い蓄魔力装置だが、ものすごく愛着を感じる。

 やればできるものだ。


「そう言えば、コンユウとオクトって、いつの間に仲良くなったの?」

 コンユウとハイタッチをしているところで、ふとエストが不思議そうに聞いてきた。いつの間に仲良くなったと言われても……なぁ。

「別に仲良くなんかないってのっ!!」

「……仲いいかな?」

 顔を真っ赤にさせてコンユウは否定したが、私は首を傾げる。確かに、以前に比べれば、マシな関係にはなってきている気がするが……。どうなんだろう。


「疑問形で答えるなっ!!」

「いや、ごめん」

 しまった。ここは私も全力で否定しておくべきだったか。しかし、前に比べて私はコンユウに苦手意識を持たなくなった。たぶん自分に突っかかってくる率が低下しているからだろう。それにコンユウを傍から見ていると、とても面白いというか、真っ直ぐだなぁと微笑ましい気持ちになるのだ。

 もしかしたら、コンユウは私の事が嫌いではなくなったのではなく、クラスもバイトも一緒なので、いちいちツンを発動するのに疲れたのかもしれない。そう考えると、一方的に私の認識が変わっただけか。


「謝るな……。まあ、悪くはない」

「へぇ……本当に、仲いいんだね」

 ぷいっと顔をそむけるコンユウに対し、エストは笑みを向けたが、微妙に怖い気がしたのは私だけだろうか。顔と声色があっていない気がしたのだ。

 何だろう。何がエストの気分を害したのか。


「えっと、コンユウは私よりエストと仲がいいから」

「は?」

 今までの会話の流れをぐるぐる考えたところで、私がアスタの友人に感じた物と同じではないかと考えた。

 エストとコンユウは、保護者とその子供のようだが、一応親友のような関係だ。それなのに、コンユウと急接近中な私にイライラとしたものを感じてしまうのだろう。

 その気持ちは、今なら良く分かる。

「だから嫉妬しなくても大丈夫」

 私がエストからコンユウを取り上げる事はまずない。というかコンユウは確実に私よりもエストの事が大好きだ。


「オ、オクトっ!!」

「ん?」

 そんな大きな声を出さなくったって聞こえるというのに。コンユウの焦ったような声に、私は顔を向けた。一体、どうしたというのか。

「アンタが厄介な思考回路だという事は分かったけど……――」

「コンユウ?」

 大きな口を開けて声を荒げたはずのコンユウは次第に声を小さくした。何が起こったのだろう。段々、顔色も悪くなっている気がする。


 何が何だか良く分からず、エストを見れば、笑みを浮かべたエストと目があった。若干困っているような笑みだ。

「オクトの意見は、半分はずれかな」

「違うの?」

 私は嫉妬だとばかり。

 やはり、いまだファザコンの後遺症から抜けきれていないというのか。最近は、開き直ったおかげで、少しマシになってきたと思うが……思考回路が未だにそのままだ。

 誰にでも当てはめるのは不味いのかもしれない。気をつけなければ。

 

 エストは私の質問にふと笑みを消した。

「どちらかと言えば、オクトが良く館長に言われていた方だよ」

 館長に言われたって……愛だの、恋だのの事だろうか。えっ。まさかのカミングアウト?!

「えっ……。いや。趣味は人それぞれだけど……」

 私は突然の言葉に口籠った。

 BLは2次元だからいいのであって、現実ではどうだろう……。でも、そういうのは人それぞれだ。ましてや大切な友人なのだから、ここは応援してあげるべきではないだろうか。


「何だかとても気持ち悪い方に勘違いして言っているのが手に取る様に分かるから言っておくけど、愛だの恋だのは、コンユウ相手じゃないからね」

「はあ?!どうしてアンタの思考はそうなるんだよ。変な勘違いするなっ!」

 私が続けて、何か言う前に2人から全否定を貰った。

 なんだ違うのか。それにしても、ホモではなくBLという言葉を真っ先に思いついた自分の前世は、一体どうなっているのだろう。もう少し、マシな知識を残しておいて欲しかったなと思う。


 でも、それならエストは一体何にイラッとしたというのか――。


「オレが好きなのは、オクトだよ」

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