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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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24-1話  不完全な世界

 季節は春へと移り変わり、とうとう神様との面会が明日に迫った。


 とはいえ、その為に何かするわけでもない。服装は学生服を着ていくつもりだし、最低限の身だしなみとして、髪の毛はこの間ペルーラに肩のあたりで切りそろえてもらった。

 なので今日は普通に図書館で仕事である。

 私は1人で新書に追跡魔法陣入りのラベルを貼っていた。相変わらず新書は、月に何冊も入ってくる。そういえば資金源とかどうなってるんだろう。相変わらず、この図書館は疑問がつきない。

 ちなみに、新書がどんどん増えるという事は、本棚も圧迫される。そこであまり読まれない本は、地下にしまいこまれる仕組みになっていた。もしも読みたい時は、リストから探し出し、召喚魔法で取り寄せると最近先輩に教えてもらった所だ。 


「おいっ。カウンター入れ」

「嫌」

 コンユウが事務作業中に珍しく声をかけて来たと思えば、受付業務をやれなんて面倒な事を言ってきた。私は小さくため息をついて、顔を上げる。

「仕事だろうが」

「これも、仕事。大体、何で?」


 受付業務というのは、レファレンスなどの対応も迫られるので、基本上級生達がやっていた。学年と図書館で働いた年数だけで言えば、私がやっても問題はない。しかし私が受付をする事は今までなかった。

 というのも、混ぜモノがカウンターにいると、怖くて借りれない利用者様が世の中には居る為である。

 地下にしまいこまれている本について教えてもらったのが最近だというのもその所為だ。地下から本の召喚をする業務は基本受付のみがやる仕事である。なので本来知る必要はない。ただ今は時魔法の再構築という仕事がある為、教えてもらったのだ。

 受付をする為ではない。


「皆、出払ってるんだよ。俺1人でできるわけないだろ」

「えっ?全員、居ないの?」

 受付業務は最低3人でまわす。メインはアリス先輩が多いが、先輩だけでやっているわけではない。

 ……ん?1人?

「あれ?じゃあ今は?」

「しばらくお待ち下さいの札を出しておいた」

 駄目じゃん。

 確かにそれは緊急事態だ。一体、皆、どこへ行ってしまったのか。

「他に応援できそうなヒトは?」

「エストがもうすぐ来るけど、それでも足りないから仕方がないだろ」


 仕方がないねぇ。

 私がいると借りられない人と、混ぜモノでもいいから借りたい人、一体どっちの利用者が多いのか。

 やれと言われれば、たぶんできなくはない。一応借りるまでの流れは覚えているし、この図書館内の事も把握しているのでレファレンスだってできる。……もっとも、私から借りたい、又は何かを聞きたいという事が前提となるわけだが。


「あのさ。コンユウは何故私の事が嫌いなの?」

「はあ?」

 何でそんな事を今聞くとばかりの顔をした。確かにこれでは説明不足で唐突な感じだ。

「私は周りから嫌われたり、怖がられるからカウンターに入らないだけ。そこが解決できるならば、別に入っても問題はない」

 まあ、混ぜモノでなければ即解決なのだろうが、流石にそんな事はできない。だとしたら、少しでも周りの嫌悪感を除く方法を考えるしかないだろう。

 

 今までは嫌われているならばそのまま関わらないという選択をしてきた。実際その方が楽だし、努力したところで全てのヒトと仲良くなるなんて、絶対無理だという事も分かっている。もっとも産まれた時から誰かかしら理解してくれるヒトが居たから、そんな横着な結論が出せたというものあるだろうけど。

 しかし現在それで困っているわけで。

「言いたくないなら、別にいい。……手探りで解決方法を探るから」

 私は椅子から立ち上がった。カウンターに行くために。


 面倒だ。ヒトに関わるってとてつもなく疲れる。

 でも例え山奥に隠居したところで、まったくヒトと関わらずにいられるはずがない。だとしたら嫌われているから、避けるなんて方法の方が面倒なはず。

 苦しくても、やるしかない。


「混ぜモノが……俺の家族を奪ったからだ」

「……そう」

 コンユウの口から語られた言葉は思った以上にディープだった。


 ずどんと肩のあたりが重くなる。うん。これは会話の選択肢を間違えたかもしれない。

 これがゲームだったら、セーブポイントに戻るとかできるのにと、現実逃避に近い言葉が頭をめぐる。聞かなければよかったという後悔の念もチラリと脳裏をよぎって行くが、ここまできたら進むしかない。逃げたいけれど、ここで逃げたら駄目だ。

 ここで逃げたら、コンユウと友人にはなれないんだぞっといい聞かせてみたが、そもそも私はコンユウと友人になりたかっただろうか?うーん。ツンデレ寂しんぼう。できたら関わらず、遠くから観察をしたい――いやいや。


 思考がどうしても逃避の方へ向かっていく。


「ちょっと待て。反応それだけかよ」

 ぼんやりと考え事をしながら歩いていくと、コンユウに肩を掴まれた。

「反応?」

 現実逃避する以外にどんな反応を求めてるのか。私はコンユウの目をまっすぐ見返した。

 コンユウが苛立っているのは分かったが、混ぜモノが家族を奪ったと言われても、私に何かできるわけではない。そもそも私はその混ぜモノとは別人なのだ。かといって嫌いな相手に慰められたとしても、コンユウが嫌な思いをするだけだろう。

「えっと、奪ったってどういう意味だとか、何があったんだかとか興味ないのかよ?!」

「あー……」

 

 しまった。

 ついこの間、もっと相手の事を知らなければと思ったばかりなのに。……あれ?でもそれは友人相手だけか?ちゃんとした友人になりたいから、相手の事を理解したい。ならばコンユウのように関係が今一分からない相手はどうするべきなのか。

 うーん。なぞは深まるばかりだ。


「お前ら、混ぜモノが暴走した所為で、俺は家族を失ったんだよ」

 私が困惑していると、先にコンユウが自分自身のディープな話題を暴露した。聞いていないんですけどなんて言えない雰囲気だ。

「はぁ」

「はぁじゃねーよ?!」

 ですよね。今の受け答えは自分でも選択肢を間違えたなと思ったよ。でも咄嗟に言葉がでてこなかったのだから仕方がない。今まで厄介事には関わらないようにして全てスルーしてきたので、こういう会話は慣れていないのだ。

「えっと……じゃあ、家族が居ないなら、今はどうやって生活を?」

「たまたま居合わせた魔法使いが拾ってくれたんだよ」


 なるほど。コンユウは混ぜモノの所為で家族を失った孤児で、魔法使いに拾われたと。うわぁ。そりゃ悲惨な人生だ。恨みたくなるのも分からなくはない。ん?でも孤児を魔法使いが拾ったってどこかで聞いた事があるような……。

「だからアンタに同情なんかしないから」

 へ?何で同情?

 恨んでいるのに、同情?いやいや同情はしないのだから、正しい流れか。だけど何で同情という言葉がでてくるんだ?駄目だ。内容が高度過ぎる。


 カミュに言われた、対人関係音痴の意味が今分かった。確かに私はこういう事に鋭くない。はっきり言って経験不足だ。


「えっと……」

「でも……アンタの恩人の事を悪く言ったのは……悪かったと思ってる」


 何の話をしているのでしょうか?

 どうしよう。コンユウの言葉が宇宙語に聞こえてきた。恩人の事を悪く言ったって、いつの話をしているのか。私の恩人って、話の流れ的にたぶんアスタの事だろうけど、今の流れの中に貶す言葉が入っていただろうか。いや、入ってないはず。そもそも、どうしてそんな話をする事になったのか。

 私は円滑に受付業務をする為に、どうして混ぜモノは嫌われ、怖がられるのかを聞いて、対策を立てたかっただけのはずなのに。


「……私は混ぜモノだけど、コンユウの家族を奪った混ぜモノじゃない」

 色々考えたが、私に言える事はそれぐらいだった。というかそれぐらいしか、話の流れについていけてなかった。

「そんなの知ってるっ!!じゃあ俺の怒りは何処に向ければいいんだよっ!!」

 何処でしょう。

 さあ?なんて言ったら不味い事ぐらいは対人関係音痴な私でも分かる。とりあえず、真面目に考えてみた。不用意な発言は自分の首を絞めるのは今の会話で学習済みだ。


「私でいい」

「はあ?」

「いや……えっと」

 コンユウが困惑したような顔をしている。面倒になったから適当に答えたわけじゃないよという意味で、私は笑った。一応これでも、真面目に考えた上での結論なのだ。


「私は混ぜモノだから……嫌っていい。でも、私は私だという事は覚えていて欲しい」

 だって、嫌うななんて言えないのだから仕方がない。私だってアスタや友人が傷つけられたら、同じ種族というだけで嫌うかもしれないのだ。もしくは嫌いはしなくても、絶対避ける。きっと見るたびに、傷つけられた事を思い出してしまうから。

 それに私が嫌われているのは今更だ。コンユウとの関係が今のままでも特に問題はない。


「とりあえず、カウンター行こう。客を待たせるわけにはいかない」

 さて受付業務を駄目元でやってみようか。色々考えたが、結局のところ、コンユウに言った通りの事しかできない事に私は気がついた。

 あれだ。私は私。危険じゃないですよーという事を、私を見て分かってもらうしかない。もちろん、危なっかしい混ぜモノには違いないので、完璧にそう思ってもらうのは難しいだろう。それでも千里の道も一歩からである。


「あー。コンユウ、居たっ!!ちょっと、オレは新人なんだから、一人で受付業務なんてできるわけないだろ?!オクトも助けてよ」

「うん。ごめん。今行く」 

 受付業務なんて、気分が重いだけだ。しかしヘルプにやってきたエストの言葉が後押しになった。エストが助けを求めるなら、助けなければ。友人を助けるのは当たり前の事だ。


 私は少しだけ軽くなった足取りで、エストの方へ向かった。

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