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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
69/144

23-3話

 カンナという風の精霊と会ってから大分と経った。


 今回は正式に神様から手紙を貰えたので、私はカンナと別れてから、さっそくアスタやカミュに神様に会う事を相談した。とはいえ、正式に招待されるのは春。手紙を貰った時はまだ冬に入ったばかりだったので、特別何かをするという事もなく、時間が過ぎていった。カンナが言った通り、神様に会うからといって、何かしなければならないという事はなかったようだ。

 一応忠告通り、カミュについていってもらう約束にはなっていて順調だ。


 館長の方も順調に体調は回復している。最近はベッドに縛り付けられている様子はいない。ただし年齢も、年齢だという事で、時魔法の管理はコンユウに移行する方向性で決まった。もっともコンユウはまだ時魔法の練習中なので、もうしばらく館長が中心となって古書の管理を行うのだけれど。


「オクトさん、今度はどんな魔法の設計をしているんだい?」

 図書館で一人もくもくと作業をしていると、隣にカミュが座ってきた。どうやらライは一緒ではないようだ。授業も休んでいたし、きっとカミュに何かやらされているに違いない。


「図書館の時魔法を、もう少し簡易にできないかと考えてる」

「簡易?具体的にどういう事?」

「魔法陣の集中管理と、魔力の蓄電」

 私の言葉に、カミュはキョトンとした。流石にこれは説明不足か。私は少し考えて付け加えた。

「今の時魔法の魔法陣は一つ一つ独立している。その場に行って魔力を込めないといけない。だからそれをとりまとめて集中管理できないかと考えている」

「魔力の蓄電というのは?」

「魔力が途切れたら魔法が解けてしまう。だから普段から別の場所に溜めておいて、もしもの時はそっちから魔力供給ができた方がいいと考えた」

 館長は24時間休む事ができないのが現状だ。館長の魔力総量から考えるとどうって事はないらしいが、やはり病気の時などはしっかり休んでもらいたい。

 それにもしもの時も、この蓄電……いや魔力を溜めるのだから、蓄魔があれば、しばらくは猶予ができるはずだ。


 ただし実際にそれをしようと思うと、流石に私の知識だけでは足りない。そこで図書館で本を隣に平積みにしてあーでもない、こうでもないと紙に書きこんでいるわけだ。

「凄い構想だね。やっぱりオクトさんの場合、アスタリスク魔術師と同じ、魔法学科の方が向いている気がするけど、やっぱり魔法薬学科に進学するのかい?」

「もちろん。山奥で薬師をするなら、その専攻しかない」

 魔法の事を学ぶのは楽しいがそれだけだ。将来を考えれば、楽しいだけでは問題である。

「まだ、そう思ってるんだ」

「まだって……」

 どうして私の考えが変わると思うんだろう。

 混ぜモノである自分は、人里を離れて住んだ方が楽に生きられるに決まっている。それでも外貨が欲しいなど考えれば、周りに材料がいっぱいある事だし、薬師が一番効率がいい。


 ふと、そういえば私はカミュがどうして、考えを改めるように言うのか聞いた事がなかったなと思う。前からそれっぽい事は言われていたが、その方が私を扱いやすいとか、そいう事だろうと勝手に考えていた。しかし実際にカミュから聞いたわけではない。

 カンナにカミュとの関係を聞かれた時も、何と言っていいか分からず困った事を私は思い出した。

 どうにも私は周りへの興味が薄いようだ。

 人生の半分の付き合いとなるが、私はカミュの事をほとんど知らない。性格とかそういった事はある程度掴んでいるつもりだし、好きな食べ物も分かる。でも家族構成とか、カミュが将来どう考えているかとか、私の事をどう思っているかとか、深い話はさっぱりだ。


「えっと……カミュって何人兄弟?」

「へ?正室だったら僕を含めて4人だし、側室を含めたら、6人かな?」

「側室?」

「つまり異母兄弟ってこと」

 マジですか。

 想像以上にディープな家庭環境だ。王子様なのだし、側室がいたっておかしくはない。でも母親違いの兄弟って、やっぱり血と血を争うような泥沼劇を繰り広げたりしているのだろうか。


「オクトさんが社会が苦手だという事は知っていたけど、自分の国なんだし、現王室ぐらい覚えておいた方がいいと思うよ」

 私が衝撃の事実にビビっていると、カミュからそう諭された。うん。確かにその通りである。よく考えれば、今の話はカミュに聞かなくても、普通に教科書に載っている話だ。

 日常生活で使わないから、すぐに忘れてしまうだけで。

「あー……。それで、カミュは正室の次男であってる?」

「合ってるよ。僕の兄弟は兄上と姉上、それと弟だから。側室の子供2人は、1人が姉上でもう1人が妹かな。側室は全部で4名いて、今いる子供は母親が違うよ」

「側室ってそんなに居るんだ……」

「歴代の中では少ない方だと思うけれど?」

 王家って凄い世界だと改めて思う。

 側室なんて言葉を使うとピンとこないが、ようは王様には5人の奥さんが居るという事なのだ。それなのに、少ない方。……一夫一妻制だった日本の常識だと考えにくい。いや、待て。江戸時代には大奥があったわけだから、あながち変ではないのか。

 それを自分自身だったら、受け入れられるかどうかは別としてだ。


「昔は今よりも出生率が低かったし、産まれても上手く育つかどうか怪しかったからね。だから側室制度ができたんだよ。それに貴族たちも自分の娘を王の嫁にしたかったわけだし、その方が嫁にできる確率が高くなるからね。もっとも、比較的栄養状態もいい王宮で上手く育たなかったのは、色んな思惑が絡んでたりもしそうだけど……」

 やっぱり、そこから暗殺とかディープな話題に繋がっていくわけですね、分かります。正直そんな恐ろしい世界には関わりたくな――いやいや。

 ここは友人と名乗りたければ、理解はしないまでも、少しぐらいカミュの世界を知っておくべきではないだろうか。端から無理の一点張りというのもどうかという――。


「……あのさ、今日はどうしたわけ?」

「へっ?どうしたって?」

「いつもはそういう話は聞かないようにしてるでしょ?」

「あー……聞かれたくない話だった?」

 もしかしたら、カミュ自身、あまりそういう王家の話には触れて欲しくないとかあるかもしれない。カミュにとって私は、王家とは無関係の人間だ。そういう王子ではない自分を見てくれる友人が欲しいと言う事ならば、私がこういう内容を聞く事はタブーだろう。

 カミュがその方がいいというなら、私もやぶさかではない。実際今まで、全く聞いてこなかったのだし、これからも知らなくて済むなら、絶対そのほうが楽だ。


「いや、聞かれる分には全然いいというか、今話した事は一般常識に近い内容だし」

「えっ?一般常識?」

「うん。少なくとも貴族にはね」

 王族って、マジで個人情報保護とかないなと改めて思う。家庭環境を皆に知られているのが一般常識な状態ってどうなんだろう。自分なら、ストレスでそのうち円形脱毛とか、胃炎を起こして寝込みそうだ。

 知られて何が困るというわけではないが、知らない誰かに自分の事を知られているというのは背筋が冷たくなるような話だと思う。

「……大変だね」

「そうかな。別に僕が覚えるわけじゃないから、知っておかなければならないオクトさん達の方が大変じゃないかな?」


 どうやら、カミュには家系図というか家族環境の情報が、個人情報であるという認識がないようだ。

 微妙な受け答えの違いに私はそう結論づけた。ある意味その方が幸せな気はするが、やっぱり違う世界のヒトなんだなと思う。これだけ価値観違って、私もよく友人だと思えるものだ。

「僕が聞きたかったのは、わざわざ僕の家庭環境を聞いてきたのが純粋に不思議だったからだよ。オクトさんってあまり他人に興味がないからね」

「興味がないって……」

 その言い方だと、私が冷たい人間のようだ。まあ、あながち間違えてはないけれど。

 私は自分の事だけで精一杯な部分もあって、正直他人の事まで面倒を見る事はできない。面倒見のいいエストとか、カミュの為なら火の中水の中なライは凄いと思う。


「ああ。ないって言いきるとちょっと語弊があるかな。でも深く関わろうとしないよね」

「まあね」

 面倒だなと思ってしまう、冷めた自分が居るのだから仕方がない。私が抱えられる量などたかが知れているのだ。でも少しそれが寂しいなと思ったのも事実。だからもう少しだけ頑張る気になったのだ。

 すでに挫折しかけてはいるけれど。


「この間、神の使いに、カミュとの関係を聞かれて。その時少し反省したから」

「えっと。どういう意味だい?」

「友人と言いたかったけど、言えなかった。私はあまりカミュの事を知らないから……カミュ?」

 隣にいたカミュが珍しく目に見えた落ち込み方をしているので私はぎょっとした。

 えっ、何?何か不味い事言っただろうか?あれか。王子を友人と言いたかったとか、不敬過ぎるとかか?!

 

「オクトさんって、たまに不意打ちでこっちが傷つく事さらりと言うよね」

「ごめん」

「分かって言ってないよね、それ」

「いや。分かっている。友人と言いたかったなんて、馴れ馴れし過ぎた。カミュは立派な王子だと思う――って、何でさらに落ち込む?!」

 机に頭を打ち付けんばかりの姿に、私はビビった。

 何がいけなかったのか。


「友人だよ」

「ん?」

「友人だよね?ちょっと、何でそこでキョトンとした顔をするかな。相手の家庭環境とか、色んな事を知らないから友人じゃないって、どういう発想なのさ」

 ……そういうものなのか?

 よく分からず前世の記憶に頼ろうとしたが、検索結果は0件。まったく、私の頭の中にはそういった知識が入っていなかった。えっと。もしかして前世の私は友人が居ない可哀そうな人種だったのだろうか。

 自分の性格は、アウトドアではなくインドア。さらに引きこもり万歳な部分があるし、あながち間違いではなさそうなのが怖い。

 それに親とか兄弟がいたのかどうかも覚えていないし……結構薄情なヒトだったのだろうか。


「それで、精霊にはなんて答えたの?」

「腐れ縁」

 カミュは深くため息をついた。間違ってはいないよね?

「まさか、アスタリスク魔術師とこんな所が似てしまうなんて。確かに、家に引きこもりがちで、あのアスタリスク魔術師に育てられたなら仕方がない気もするけれど……」

 何だろう。この似ているは、褒め言葉には聞こえなかった。むしろその逆のような……。

「どういう意味?」

「人間関係音痴って意味だよ。せめてそこは幼馴染って答えようよ」

 幼馴染ねぇ。

 たしかにライとカミュは幼馴染って感じだが、私の場合、ちょっと違う気がするのだ。家族ぐるみの付き合いではないからというか……彼らより一歩離れているというか。


「ちなみに、ライは何?」

「腐れ縁?」

「獣人のあの女の子は?」

「えっと……後輩?」

「コンユウは?」

「ツンデレ?」

「エストは?」

「……いい人?」

 カミュはさらに深くため息をついた。

「腐れ縁や後輩以外はそもそも、関係を表す言葉じゃないから」

 ですよね。

 気持ちとしては友人といいたいのだが、彼らの事も私はあまりよく知らない。本当に友人といっていいのか困る。特にコンユウの場合は何だろう。同僚、後輩、ライバル、知り合い。……適切な言葉を選ぶって難しい。


「ああ。でもエストは友人。そう言っていいと言われた」

「言われなくても、言っていいと思うよ。少なくともライはそう言わないと怒るから」

 そういうものなのか。

 私はとりあえず分かったと頷いておく事にした。でないと、またカミュが落ち込みそうな気がしたからだ。そうか。友達だったのか。


「まあ、僕たちの事に興味がでてきたのは悪い事ではないと思うけどね」

 カミュは仕方がないなという顔で私を見ると頭を撫ぜた。

 ……カミュは友人じゃなかったのだろうか。これではまるで保護者のようだ。

「よく考えたら、オクトさんはまだ10歳だったね。しかもエルフ族の血が入っているし。話をしていると忘れそうになるけれど」

「もしかして、馬鹿にしてる?」

 年齢の話を出してくるという事は、まだ小さいと言いたいのだろうか。それにたしかエルフ族は成長が遅いという事で有名な種族のはずだ。

「まさか。尊敬してますよ、僕らの小さな賢者様。ただオクトが10歳だって事を思い出しただけで」

「やっぱり、馬鹿にしてるだろ」

 

 私は笑顔で頭を撫ぜるカミュを睨みつけたが、カミュは笑うだけだった。 


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