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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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23-1話  謎だらけな神様

 こっくりさん。エンジェルさん。お狐様。

 色々な呼び名はあれど、やっている事は同じだ。目に見えず、声も聞こえない相手と交信するのが目的の遊びの名前である。


 私はその遊びをする為、机の上に、『はい』と『いいえ』、それと龍玉文字を書いた紙を用意した。その上に、コインを置く。『はい』、『いいえ』の場所には○と×という記号も書きいれ、分かりやすくしておいた。


「これがこっくりさん?」

 エストの言葉に、私は頷いた。

 ただしこっくりさんは、幽霊とかそういった類の目に見えず、わけが分からない何かとの交信になってくるので、今回とは少し違う。精霊族という、目には見えないが、わけが分からない生物ではないモノと会話するのだ。

 正確にいうなら、フェアリーさんとか精霊さんという名前になってくるだろう。

 とりあえず、相手が精霊ならばとりつかれたや呪われたなんてホラー的なオチはないはず。……ないよね。

「何だか占い部とかが好きそうな形だね」

 確かに、こっくりさんは占いの進化系のようなものだ。学生が『A君の好きな子を教えて下さい』みたいな事をお願いして、キャーキャー騒ぐようなイメージがある。

 もちろんイメージだけで、実際にやるヒトがいるかどうかは分からない。


「そういえば、どうしてこっくりさんって呼ぶの?」

「えっと……居眠りしそうだとか?」

 つまらなくて、こっくりこっくり、船をこぐ的な。……うん、たぶん違うな。

 しかし私の前世の記憶には、名前の起源の知識は入っていなかった。あったのは、こっくりさんの大雑把なやり方ぐらい。実際に1度でもやった事があるとは思えない知識量だ。

 きっとテレビか何かで手に入れた知識だったのだはないだろうか。

 そもそも通りすがりの幽霊が、どうしてA君の好きなヒトを知っているのか。たまたま偶然A君のストーカーだったのか。それだと違う意味のホラーだ。謎の多い遊びである。

「えーっと、それ本当に大丈夫?」

 エストが私の適当な発言に不安になったようだ。うつろな目で紙に視線を落とす。


「今回は精霊を見る事ができるし、たぶん大丈夫」

 形式はこっくりさんと同じだが、ようは精霊と筆談をしていると考えればいいのだ。普通の筆談だと、手があるかどうかも分からない精霊では大変だと思うので、コインを動かしてもらうだけにしたのだ。

 また幽霊とは違い、ちゃんと視覚で精霊を見ることができるので、何かよく分からないものがコインを動かしていますよ的な怖い事も起こらない。


「ただ問題は、精霊にする御礼」

「やっぱり、魔力がいいのかなぁ。お金を使う事はなさそうだし、お菓子とかは食べられないよね」

 昔読んだ、精霊魔法の本には、精霊との契約の危険さが書いてあった。

 今回は精霊に魔法をお願いするわけではないが、情報提供に対して、どれぐらいの魔力を要求してくるものなのか。私は比較的、魔力が多い方なので、ある程度は答える事ができそうだが……。

「まあ、聞いてみるしかないか」

 考えたって、私は精霊ではないので、分かるはずもない。

 

 そうと決まればと、私は目を閉じ、瞼の上に魔法陣を思い浮かべた。

「我が声に従い、異なる世界を見せよ」

 再び目を開けると、相変わらず電飾いっぱいな世界が広がった。ちなみに精霊の姿は今回も電球である。……想像力が欠如していたって、生きていく上では問題ないと私は開き直る事にした。ないものはないので、仕方がない。

「こんにちは、精霊族の方々。私と少し話をしませんか?」

 気を取り直して、私は精霊に声をかけた。

 精霊達は突然声をかけられて驚いたらしい。私の方をマジマジと凝視し、精霊同士で相談しているようだ。電球の動きがピタリと止まっている。

「よろしければ、そちらのコインを動かして、教えて下さい」


 精霊達は動かなかった。

 いい考えだと思ったが、やはり駄目だったか。そう思った時、黄色の電球がすっとコインの方へ動いた。コインは黄色の電球に押され、ずりずりと紙の上を滑る。そして『はい』のところで止まった。

「オクト」

 エストが感極まったように私の名前を呼んだので、私はコクリと頷いた。成功だ。

 黄色ということは、きっと風の精霊なのだろう。


「ありがとうございます。いくつか教えてもらいたい事があるのですが、よろしいですか?」

 コインは、『はい』の上から動かなかった。たぶんいいという事だろう。

「貴方は風の精霊ですか?」

 この質問でもコインは動かない。

「貴方は神様にお逢いした事がありますか?」

 先ほどまで静止していたコインは、再び紙の上を滑り、『いいえ』の方へ移動した。うーん。やっぱり精霊ならば、誰でも神様に会う事ができるというわけではないらしい。


「神様について、一族の方に聞いた事はありますか?」

『はい』

「高位の精霊の方にお逢いし、話した事はありますか?」

『はい』

 高位と低位という差はあれど、同じ一族ならば話しはするようだ。そうなれば、神様については、私達よりはよく知っているはずである。


 今度は実験的に、『はい』と『いいえ』以外で答える質問に私は変えることにした。全てを2択で答えられる質問にするのは少々骨が折れる。しかし精霊が龍玉語を読み書きできない可能性もあるので、その場合は頑張るしかない。

「神様の名前を知りたいのですが、教えてくれますか?」

 コインが『はい』の場所から動かないので、答えてはくれるようだ。

「樹の神様の名前を教えて下さい」

 コインは中々動かなかったが、しばらくすると、ゆっくりと、『いいえ』ではない方へ動き始めた。

 成功かと思ったが、今度はウロウロと迷走しはじめた。

 識字率が高くはない世界だし、やはり精霊族も龍玉語をあまり知らないのかもしれない。これは2択で頑張るしかなさそうだ。


 『は』、『つ』、『゛』、『き』。

 ため息をつきながら迷走するコインの動きを追っていくと、突然すいすいと動き出した。

 何が起こったのだろう。よく見れば、ヒトの指がのっかっている。

 もしかしてエストだろうかと思い横を見たが、エストはぽかんとした顔で、私の前をみていた。エストの手は横にあり、コインの方へは伸びていない。

「コイツら、まだ龍玉語は知らないから、勘弁してやってくれないか?」

 話しかけられ前を向けば、黄色に発光する女性がいた。獣人族のような瞳孔の長い琥珀色の瞳でまっすぐ私を見つめている。

 ……いつの間に。


「代わりに、俺が答えるからさ」

「えっと、貴方は……精霊族の方ですか?」

 自分が答えるという事は、つまりはそういう事だろう。低位のような電球の姿ではないという事は、中位もしくは高位の精霊族に違いない。

「まあ、似たようなものだな。俺の名前は、カンナだ。よろしくな、オクト」

 そういってカンナは私の手を取ると、ぶんぶんと振りまわした。どうやらちゃんと肉体があるようだ。電球と彼女が同じ種族だと言われると首を傾げたくなるぐらい違う。瞳孔が長く、発光している以外は、人族に似た姿だ。


「えっと、何故私の名前を……」

 言いかけて、ふと理由が思い当たった。低位ではない精霊がわざわざ私の前に来る理由なんて決まっている。

「招待状を持ってきたんだよ。ほら。ハヅキのサイン入り」

 カンナがとりだした手紙の封筒には、確かに龍玉語でハヅキと書いてある。それにしても、神様を呼び捨てにしてはまずいのではないだろうか。それとも精霊は問題ないのだろうか?

 神様との関係が分からず、私はとりあえず封筒を受け取るだけにした。


「で、そっちの少年は何?」

「エストといいます」

 エストはこわばった声でカンナの質問に答えた。カンナはふーんと言いながら目を細める。まるで獲物を狙う肉食獣のように見えてぞくりとした。まっすぐに見つめられたエストの顔が青ざめる。

 しかしカンナは何をするわけでもなく、エストから視線を外すと、私に対してにこりと笑いかけた。その笑みは、まるで子供のように無邪気で、先ほどの危険な空気をまったく含んでいない。

 見た目は18歳ぐらいなので、どこかアンバランスに見える。なんだか不思議な女性だ。

「そっか。それで、なんでオクト達はコイツらと話しをしているわけ?」

「王子様に神様と会う準備をしておけと言われたのですが、……何をすればいいのか分からなかったので」

「準備?そんなの、いらん、いらん」

 私の深刻さを吹き飛ばすかのように、カンナはカラカラと笑った。

「は?」

「たぶんその王子とやらに、遊ばれたんだな」


 遊ばれた?

 誰が?私が?

 想定外な言葉に呆然とする。もしかして、いや、もしかしなくても、あれは第一王子の嫌がらせの一環だったのだろうか。

 ショックが大きくて、私は机の上につぶれた。

 私の悩んだ日々は何だったのか。


「そもそも、こっちが呼びだしているわけだし。恰好も、わざわざ改まる必要はないからな。その制服で十分だ」

「……はあ」

 適当だなぁ。

 悩んだ自分が馬鹿みたいに、あっけらかんとしている。

「精進料理を食べるとかは……」

「何で?」

「……ですよね」

 宗教で肉食を禁じられているわけではないので、神様に会いに行くからといって、肉断ちする必要もないだろう。

 うん。完璧騙された。


「まあ、元気出せって。折角だし神の事だったら、何でも聞いていいぞ。今ならハヅキのスリーサイズも教えてやる」

「……結構です」

 神様のスリーサイズを聞いて私にどうしろというのか。カンナの何処かずれた発言に方の力が抜ける。教えるにしても、もっと色々あるだろう。

 とりあえず言える事は、精霊族は変だという事だけだった。






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