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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
62/144

21‐2話

 どうしよう。今日も言えなかった。


 第一王子と会ってから何日か経ったが、いまだにアスタにその事を言えないでいる。

 最初は心配されるのが嫌だなという所から始まった。そこから言うタイミングをずるずると逃し、今は今さら言ったらどう思うんだろうという不安からやっぱり言えないという状態だ。こうなったらうやむやにしてしまえと思うのだが、それには1点大きな問題があった。


「……神様に会う準備って何をすればいいんだろう」

 どうしてそんな爆弾発言を残していくんだこのやろうと文句を言いたいが、できれば二度と会いたくないので、やっぱり言えなくていい。

 今のところ、神様からの招待状は届いていないが、届いてから準備して間に合うものなのか。何かお布施的なものがいるのか、はたまたしばらくは精進料理を食べなければいけないとかあるのかさっぱりだ。神様とか正直言って良く分からないので、アスタに相談したい。しかし相談したら最後、何故そんな事を尋ねるのかという話になり、芋づる式に王子に会ってしまった事がバレてしまう。

「本当に、どうしよう」


 私は図書館に向かいながら、ため息をついた。

 一応図書館で神様については調べてみたが、結局ほとんど分からなかったといっていい。神様に会えるのは王族のみなので、文献があまりなかったのだ。龍玉神話というものはあったが、私が知りたいのは、そんな過去に本当にあったかどうかも分からない話ではない。

 ならば王族であるカミュに聞けばいいのだが、カミュに聞いた場合も同様にアスタに筒抜けになりそうで、聞くに聞けなかった。

「やっぱり神様のご不興を買ったらマズイのかなぁ」

 神様は政治などには一切口をはさまないが、王族よりも立場は上だ。第一王子を伝書鳩代わりにできるあたり、権力の強さを物語っている気がする。

 それにしても、そんな王子を顎で使える存在が、平民の私にいったい何の用なのか。


「……まさか結婚ネタじゃないよね」

 第一王子が、弟と結婚させようと思っていたなんて、とんでもない言霊を発してくれたのは記憶に新しい。もしもそれを神様が真に受けて、ちょっと見てみよう的な感じで会いたいと言っているのだとしたらどうしよう。

 王子の中でその話は、なかった事にしてもらえたっぽいが、訂正が神様の所までいっているとは限らない。

「王子のホラでした、すみませんで済むだろうか……」

 私が悪いわけじゃないのに、どうして神様のご不興を買うのが私になるのか。理不尽すぎる。どうかこのまま招待状が来なかったというオチにならないだろうか。


「オクト、そんな大きなため息をついてどうかしたの?」

 フラフラと歩いていると、声をかけられた。振り返ればエストとコンユウがいた。コンユウが飛び級してしまった事により、クラスがバラバラになってしまったはずだが、今も一緒に行動しているらしい。

「あー……ちょっと考え事」

 正直に言うわけにいかず、私は曖昧に笑った。

 エストは言わないでと頼めば言わないでいてくれるとは思う。しかし彼はライの家に居候しているのだ。下手にライへの秘密を抱えてもらうのは悪い。

「辛気臭い顔で歩くな、鬱陶しい」

「オレじゃ力不足かもしれないけれど、言ったら楽になる事もあると思うよ?無理しないでね」


 うわぁ、目の前に飴と鞭がいるよ。

 もちろん飴がエストで鞭がコンユウだ。見事に分かれている。ただしどちらの言葉も今の私には、針でチクチク刺すようなものだけれど。自業自得なので仕方がない。

「エストは、オクトに甘過ぎる」

「そう?オレはオクトの事が好きなんだから当たり前だと思うけれど」

「ありがと」

 エストの優しさが、今は苦しい。ゲロってしまえば楽なのだろうが、やっぱり混ぜモノの自分を友人だと言ってくれる少年に不必要な苦労はかけたくない。やはりここは自力で頑張るべきだ。


「てっ?!ちょ、アンタ、何平然と――むがっ」

「俺はコンユウがオクトに厳し過ぎると思うんだよね。そうやって酷い事言うから、クラスから浮くんだよ」

 エストはニコニコ笑いながらコンユウの口を塞いでじゃれ合っている。仲いいなぁ。少し羨ましい。

「むがむがぁっ!!」

「何言っているか分からないなぁ」

「そういえば、ミウは?」

「むぐむがっ!!」

「ミウは補習中なんだよね。この間、テストで赤点だったから」

 なるほど。

 ミウは相変わらず、勉強が苦手らしい。何とか進級はできているようだが、大丈夫だろうか。

 最近会った時は、ファンクラブの活動の一環なのと言って、私の似顔絵を描いてくれた。どこかアニメタッチな画風だが、凄く上手だったのでよく覚えている。でも赤点をとってしまうほど学業がマズイなら、ファンクラブの活動をしている場合じゃないのでは……。今度、ちょっと説得してみた方がいいかもしれない。


「そういえば、エストも……。エスト、このままだとコンユウが死ぬ」

 気がつけば、コンユウの顔色がかなり悪くなっていた。このままだと、死因は鼻と口を押さえられた事による窒息死になってしまう。

 コンユウはその通りとばかりに、必死にエストの手を叩いた。体格と腕力、どちらもエストに負けている為、手をはがす事ができないようだ。


「ああ、ごめん。ごめん」

「こ、殺す気かっ?!」

「まさか。そんな簡単に自分の人生を棒に振ったりしないよ」

 エストはアハハと笑っているが、コンユウは本気で苦しかったようだ。必死に呼吸を繰り返している。


「ただコンユウはね、余計な言葉は言わないという選択肢が世の中にはある事を覚えた方がいいと思うんだよね」

 あ、それは分かるかも。

 コンユウって、馬鹿正直というか、思った事を包み隠さず言うところがある。私の事が嫌いだと前面に押し出してくるのはいいとしても、それが度を行き過ぎてイラッとさせられる事もしばしばだ。ある意味裏表がないという事なので美点でもあるのだろうけど、迷惑には変わりない。

 私はうんうんと頷いた。


「納得するんじゃねえよ。俺は、アンタが平然と――うぐっ」

「だから、余計な事は言わないように。ね?それにオレはこのままで良いんだよ。変わるにしても、魔王を倒さないとだし」

 エストの拳が、コンユウの鳩尾辺りに決まった。ライほどではないが、エストも武術が得意である。雉も鳴かずば撃たれまいにという言葉が頭に浮かんだ。


「魔王って?何かのボードゲーム?」

「まあ、似たようなものかな。そうそう。オレも今日から図書館で働く事になったんだ。これから、よろしくね」

「えっ、あ、うん。そうなんだ。よろしく」


 そうだったんだ。

 たぶん図書館のアルバイトをする事になったのは、自分から志願してだろう。図書館よりも、警備のアルバイトの方が給料もいいのに。勿体ないと思ってしまう私は、守銭奴だろうか。


 エストが図書館でアルバイトをする事になったのに驚きつつも、図書館ではどんな仕事をするのかを話しながら歩いているうちに、私達は塔についた。

「こんにちは」

 私達は図書館の中にはいるとまっすぐにカウンターの方へ行き、先輩にあいさつした。

 ざっと見まわした限り、今日もそこそこ利用者が居るようだ。新しく新書も入ると言っていたし、さて何からすれば良いだろう。


「やっと来たのね。貴方達、私と一緒に館長室へ来なさい」

「はあ」

 また呼び出しだろうか?

 図書館に着いて早々、お茶に呼ばれるのは珍しい。何かあったのだろうか?

「館長が、倒れたのよ」


 一瞬何を言われたか分からなかった。倒れた?誰が?何が?

 その単語がどういう状況なのかがしっかり分かると、すっと血の気が引いた。胸のあたりに冷たいものを押し込まれたような気分だ。

「館長は……大丈夫なんですか?」

「ええ。命に別状はないという事で、今は館長室で寝ていらっしゃるの。貴方達が来たら呼んで欲しいと仰ったのよ。来てくれるわよね?」

 命に別状はないという言葉にホッと息を吐き、私は頷いた。良かった……。

「テノっ!私は今から館長室行くから、ここよろしくね。さあ、行くわよ」


 先輩に言われて、私達は急いで館長室に向かった。

 それにしても、命に別状はないと言っても本当に大丈夫なのだろうか。倒れた後に続くものが頭に浮かび、不安で気が重くなる。

 誰かが消えるのは初めてではないけれど……慣れるものでもない。

「まあ、館長もお歳を召しているからね。いつ何があってもおかしくないんだけどね」

 ついこの間会った時は、元気だったのに。

 私が館長に会ってから2年は経ったが、その時は初めて会った時と全く変わっていないように思った。確かに見た目は真っ白だが、高齢だと言われてもあまりピンとこない。


「お幾つなんですか?」

「まだ1000歳まではいってないと思うけれど、500歳は超えているらしいわ」

 1000?!

 エストが聞き出した数字に私は慄いた。もこもこして良く分からなかったが、まさかそんなに高齢だったとは。館長が何の種族なのかは知らないが、長生きなエルフ族でも1000歳までは、まず生きられない。

「そろそろ寿命が近いのも分かっているけれど、館長が倒れてしまうと、これから大変ね」

「なんで?館長はあんまり働いてないだろ?」

 コンユウがすぱっと言い放った。

 おいおい。いつもお茶ばっかり飲んでいるなとは思うけれど、そんなはっきり言っちゃ駄目だろう。しかし先輩はケラケラと笑うだけで、咎めようとはしなかった。


「まあ雑務は私達の仕事なんだし、それでいいのよ。私は館長には遊んでいてもらって、そのぶん長生きしてもらった方がずっといいと思うわ。ただね、古書管理だけは別ね。現在保存状態が良いのは、館長が時魔法を使っているからなの。館長が居なくなったら管理が大変よ」

「時魔法?」

「ええ。館長は珍しい、『時』の属性の持ち主なのよ」

 時の属性。時魔法。

 普段は使わない単語に、はてどんな物だったかと脳内の辞書をパラパラとめくる。確か時の属性は、レアもレアなもので、お目にかかれる事はまずない属性だったはずだ。そして時魔法は時の属性を持っている者しか使えない、これまたレアな魔法だ。

 確かその属性は先天性ではなく、後天的に身につくもので、何か特殊な方法で身につくと文献にあった気がする。


「俺と同じ……」

「ええ、コンユウ君と同じよ。もっとも、貴方よりもずっと力を使いこなしていらっしゃるけれどね」

 へ?コンユウも時属性?

 そういえば、珍しい属性だという事で、コンユウは図書館で働く事になったのだ。まさか、それが時属性だったとは。

 時属性はレアな分、情報が少なく扱いも難しい。確かに危険視されても仕方がない。

 それにしてもそんな珍しい属性の持ち主が2人も図書館で働いているなんて、偶然にしても凄い確率だ。同じ属性同士引きあいやすいとかあるのだろうか。


「あっそ。所で、館長は俺らに何の用なんだ?」

「あー、これは私の予測であって、たぶんなんだけどね」

 先輩は少しいいにくそうな顔をして前置きをした。何か難しい頼まれごとでもするのだろうか。


「エスト君は初めての仕事だから呼ばれたんだけど、2人はその……。館長はたぶんコンユウ君かオクトちゃんのどちらかを後継者にしようと考えているんだと思うの」 

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