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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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17-2話

「オクトちゃん。こちらの方々は誰?」

「ああ。彼らは私のクラスメイトの、カミュエルとライ」

 

 偶然にもラウンジで再会を果たしたミウは、そのまま私の隣の椅子に腰かけた。このまま別れる気はないという顔をしている。結構意思が強そうだ。

 ミウと一緒に来た2人は、上級生だしどうしようといった顔をしていたが、ミウが動きそうにない事を感じてか、『すみません』といいつつ隣の席とくっつけると座った。


「初めまして、先輩方。私はオクトちゃんの友達のミウと言います。えっとこっちは――」

「すみません。突然同席してしまって」

「別に、空いてるんだしいいさ。学校は慣れたか?」

「はい。おかげ様で」

 ん?

 チョコレート色の髪をした少年はどうやらライと面識があるようだ。ミウも知らなかったようで、目をぱちくりしている。

「えっと、ライの知り合い?」


 どこかの貴族の子供だろうか。

 ライ達は腐っても貴族なので、何かとパーティーとかに参加しているはずだ。かくいう私も一応それなのだが、魔力の制御が完全ではないという事を理由に、今のところアスタが全て断っていてくれている。混ぜモノが出席しても、ただの珍獣扱いがいいとこなので、正直ありがたい。

 ただそうやってサボっている所為もあって、私は貴族の名前を覚えるのが苦手だった。顔と名前を一致させるなんて夢のまた夢である。是非とも早く写真やカメラを発明してもらいたい所だ。

「あー……オレの事分からないかな?」


 おや?私もどうやら会った事があるらしい。

 髪と同じチョコレート色のまつ毛に縁取られた緑の瞳が私を映す。中性的な外見だが……はて。色としてはそれほど珍しい彩色でもないので、該当する人間は多そうだ。

「オレというか……僕だよ。本当に忘れちゃった?混ぜモノさん」

「えっ。もしかして、エスト?」

 混ぜモノさんという呼び方に、記憶を刺激された私は一人の少年の名前を上げた。その言葉に少年はにっこりと笑う。どうやら大当たりらしい。


「よかった。思いだしてくれたんだ」

「いや、思いだしたというか。全然違うというか」

 配色は変わっていないので、全部が違うというわけではない。でも以前会ったときよりも身長が伸びているし、一人称だって、僕じゃなくてオレだ。

 ずっと文通しかしていなかったので、会うのは2年ぶりである。

「そりゃオレも、成長期だから、背も伸びたしね。それにライさんの家で武術を習っているから、あの頃よりも筋肉もついたんだ。ほら」

 エストは二の腕をとりだすと力瘤をつくった。

 私が出会ったころのエストは、病気の所為で部屋にこもりがちだったので、もっとモヤシッ子だった気がする。人間変わるものだ。


「ちょっと、私の分からない話ばかりしないでよ。オクトちゃんは、エストと知り合いだったの?」

「えっ、ああ。うん。まあ……」

「オクトはオレの命の恩人なんだよ」

「それならミウもオクトちゃんに助けてもらったもん」

 何故だろう。見えないはずの火花が2人の間で見える気がする。


「オクトさん、モテモテだね」

 この野郎。人事だと思って。

 それにしてもこの2人は友達ではないのだろうか。共通の友達がいたら普通嬉しいと思うのだが……、何故睨みあう。

 下手したら引っ張り合いになりそうな2人の意識を変えようと、私はミウ達と一緒に来た、もう一人の黒髪の少年に目をやる。

 そこで初めて、紫の瞳が印象的な少年が、眉間にしわを寄せ、私の事をジッと睨んでいる事に気がついた。……えっと。


「俺、先に教室戻るから」

「えー、ちょっと。コンユウ。まだ次の授業まで時間あるよ」

「混ぜモノと同席なんて、お前らどうかしてる」

 おお。珍しくまともな意見。

 私はちょっと拍手をしたくなった。嫌われたいなんてマゾ見たいな考えは持ち合わせてないが、こっちの方が正常な反応に感じる。もっとも、こうもはっきりと言ってくるヒトも珍しいけど。


「コンユウ、態度悪いぞ。それに先輩に頼まなくちゃいけない事があるから、わざわざここまで来たんだろうが」

「俺は混ぜモノが一緒にいるなんて知らなかったんだ。誰が混ぜモノと仲良くしている奴の力なんか」

「コンユウ」

 立ちあがったコンユウの手をエストは握った。

 コンユウは忌々しげに私を見て舌打ちすると、再び席に座る。座った後は私にガンを飛ばしてきた。……嫌いなのは分かったから、できたら穴があくほど見るのではなく、いないものとして扱ってくれないだろうか。


「何だ?俺らに頼みたい事があったのか?」

 どうやら偶然私達と居合わせたわけではなく、わざわざ探していたらしい。いや、話を聞く限り、私に会ったのは偶然なんだろうけど。

「はい。ちょっとオレらの力ではどうにもならない事がありまして。できたら口添え願えないかなと」

 ……この3人にある接点と言えば、同級生なんだろうなとは思ったが、どうやら同じ悩みを抱えているらしい。それにしても珍しい組み合わせだ。

 ここに通ってまだ日が浅いが、同じ種族同士の方が友人になりやすいという事に私は気がついた。しかしミウは獣人族だし、エストは翼族。コンユウと言う少年は、人族の大きさの耳が尖っているのでたぶん魔族だろう。赤目が多い種族なので珍しい配色だけど。

 3人ともてんでバラバラである。それに名前の感じからして、出身地も違いそうだ。少なくとも確かミウは赤の大地とか言っていたし――。


「口添え?」

「お手数をかけて申し訳ないんですが、図書館の利用で、何とか力を貸してもらえないかと思って来たんです」

「図書館の利用?」

 私はラウンジからでも見える、一番高い塔に目をやった。

 まだ私は利用した事はないが、確か世界で一番の蔵書を誇っている場所で、学校のシンボルともなっている。何処までも続きそうな塔は、まるで神に挑戦するバベルの塔みたいだなと思う。


「はい。実はオレたち、図書館の利用を制限されていて。でも、今後の授業を考えると、できたらその制限をなくすとまでは言わなくても、緩めてもらいたいんです」

 利用を制限?一体、何故だろう。

 1年はきっと図書館の利用について説明があったのだろうが、編入扱いになっている私には、一切説明がない。それにしても利用を制限されるなんて、前世では聞いた事がない話だ。


「あのね。私は獣人族だから、本を壊す可能性が高いって言われて、借りる事ができないの。読む為に図書館に入るのだって、学生証を提示して不審物を持っていないかチェックされなきゃだし。それに時間も決められていて、放課後は警備員が減る関係で、1時間しか入れてもらえないの」

 それは……何というか、酷い差別だ。

 インターネットのないこの世界では、図書館が利用できないのは学生にとっては死活問題である。それに他にある図書館は王宮図書館ぐらいで、町には貸本屋があるだけだ。王宮図書館なんてもちろん利用できないし、貸本屋も識字率の高くないこの国ではほとんどないに等しい。あったとしても魔法に関する専門書なんて持っていないだろう。


「私図書館で、いきなり暴れたりしないのに」

「オレは姉が犯罪者ですから。厳しくならざる得ないんでしょうね。コンユウは珍しい属性の魔力の持ち主だから、危険だと判断したらしいです」

 なるほど。一般的に魔力の低い獣人族は、ほとんどこの学校にいないに等しいので、ミウのように声を上げても小さすぎて取り合ってもらえないのだろう。コンユウもまた同じ属性のヒトがいないから、ミウと同じだ。エストは……エストが悪いわけじゃない。それなのに割り切ったように話すエストをみると、なんだか悲しくなる。

 同情しては逆にエストに悪いと思い、私はできるだけ顔には出さないよう気をつけた。


「そこは僕も失念していたなぁ。だとすると、オクトさんも図書館の制限が厳しそうだね」

 あ、本当だ。

 むしろ何の説明もないし、利用制限どころか、そもそも使用をさせてもらえないんじゃないだろうか。何と言っても混ぜモノだし。

「やっぱり図書館が使えないと困る?」

「調べ物が教科書に載っていない事もあるしな」

「アスタリスク魔術師が結構蔵書を持っているから必ず困るとは言えないけれど、やっぱり図書館にしかないものもあるからね」

 うん。確かにうちには本が山ほどある。宿舎にはもちろんだが、子爵邸にも伯爵邸にも図書室がおかれており、そこには山ほどの本が詰め込まれていた。

 アスタに言えば、なんだかんだで読ませてくれそうだが……。できればそこまで迷惑をかけたくないし、心配もかけたくない所だ。


「とりあえず、ますは館長と話をしてみないと始まらないね」

「じゃあ」

「俺らに任せておけ。今日の放課後にでも行ってみようぜ」

 これはやっぱり私もだよね。

 とりあえずアスタが迎えに来る前に何とか終わらせないとと、私は放課後に使える時間を逆算した。 


 

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