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ものぐさな賢者  作者: 黒湖クロコ
学生編
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15‐1話  科学な魔法学

 魔法学校の試験を受ける事を認められてから数ヶ月。季節は夏を超えて秋へと変わり、私は8歳になった。


「筆記は大丈夫かな?」

 解いた問題を思い出しながら、私は持ってきた参考書で答え合わせをする。

 魔法学校の入学試験は年に1回。もちろんそのタイミングに会わなければまた来年というわけではなく、編入試験というものもある。こちらはいつでも受けられた。ただし編入なので、授業は途中から聞く事になる。

 私はアスタに試験を認められたこともあり、1から授業を受けたいと考えた結果、年1回の試験を受ける事にした。そしてタイミングをはかっている間に年齢が一つ上がったのだ。


「オクトさん、筆記は終わったんだから、食べる方に集中したらどう?」

「何度見たって、同じだろ」

 サンドウィッチを咀嚼しながら見ていた本を取り上げられて、私は顔を上げる。するとそこにはブレザーの制服を着たライとカミュ王子が居た。試験の日は学生は休みのはずなのに何でいるんだろう。

「それにしても、見事に避けられているな」

「仕方がない」

 ライに言われなくたって分かっている。

 受験にきた学生同士仲良くなったりしておしゃべりをしているが、私から半径5メートルぐらいまでは誰もいない。チラリチラリと視線は感じたりもしたが、そちらを向くと、皆が一斉に視線をそらした。

 ……普通に考えて、混ぜモノと一緒の空間にいると言うのは結構なプレッシャーだっただろう。よく試験官も同室での受験を許したものだ。


「仕方がないじゃなくて、もう少し努力しろよ」

「努力?」

 努力といってもなぁ。

 避けられている理由は混ぜモノだから。そんなのどうしようもない。それに下手に近づいて、他の受験者のコンディションを狂わせたくもなかった。できるならば、空気になりたいぐらいだ。

「例えば、もう少し笑ったらどうかな?」

「楽しくもないのに笑うのはちょっと……」

 営業スマイルぐらい、できなくはないが、あまり気がのらない。それにいつ暴走するか分からない私の周りにヒトが居ないのは、かえって好都合ではないだろうか。幸い、独りでいる事を苦痛に感じる性格もしていない。

「それで、試験は順調なのか?」

「おかげさまで。何とか受験票を貰って試験を受けれているよ」


 私が受験の申請をすると、王侯貴族が通う学校に混ぜモノが通うのはどうかという問題が学校側で生じた。優秀ならばだれでも受け入れるというスタンスの元で運営をしているので、特別教室を作るやら色々物議を引き起こしたそうだ。

 その時カミュ王子達が、私の身の保証をしてくれた事により、特別教室は保留となり、無事に受験を受ける事ができるようになった。やはり持つべきものは王侯貴族の友人だ。

 もしも海賊の根城で泊まって一人で頑張るもんプランだったら、アスタの言う通り、職業海賊にジョブチェンジだった可能性大だった。危ない、危ない。


「そうじゃなくて。受験の調子はどうかって意味だよ。俺らとアスタリスク魔術師がバックについているんだから、断られるはずがないだろ」

「試験は簡単だった?」

「筆記は問題ないと思う」

 苦手科目である社会も、受験までの間に必死に頭に叩き込んだおかげで、一応空欄は全部埋める事ができた。……すぐに忘れそうだけど。

「なら残るは実技を兼ねた面接だね」

 

 カミュ王子の言葉に私は頷いた。そう、問題は実技だ。実技といっても魔法を使わせるのではなく、魔力の有無を確認するだけと聞いたが……魔法センスがあまりない自分でも大丈夫かいささか不安だ。

 風を起こす事ができたので、魔力がないという事はないのだけど――。

 

 私は考えれば考えるほど不安になっていくのを止める為、サンドウィッチを口の中に放り込んだ。お腹が満たされれば、きっと何とかなるはず。

 昔ならば2食で問題なかったのだが、カミュ王子達とお茶の時間をするようになってから、どうにもこの時間にお腹が空くようになってしまった。休憩が入ると言う事もあって今日は弁当つきである。


「まあ、頑張れよ」

「期待しているから」

 くしゃくしゃと私の頭を撫ぜると、2人は教室を出ていった。……一体何しに来たんだ?

「まあ、いいか」

 考えても仕方がない。彼らの行動が無意味なのはいつもの事だ。逆に意味がある時は、詮索せず関わらないのが一番いいと彼らと出会ってからの数年間で学んだ。


 私は変なフラグを立てないように、疑問を頭の片隅に追いやると、食べ終わった弁当箱を鞄の中にしまった。

 そして弁当の代わりに、お守りを取り出し首にかける。筆記の時はカンニングと間違えられると面倒だったので取り外していたが、終わったのなら問題ないだろう。小さなお守りの中には、クロのサインが折りたたまれ入っている。

 

「クロ……頑張るから」

 目をつぶり、お守りに祈る。

 アスタに引きとられてから、私はクロに1度も会っていない。私がこの広い世界からクロを探し出す事はまず無理なので、きっとこのまま会う事もないだろう。小さなころの記憶なんて曖昧なので、クロはもしかしたらもう私の事など忘れているかもしれない。

 それでも私にとって大切で、忘れたくもなかったので、お守りとして持ち歩く事にしたのだ。


 その後のんびりと参考書を読み返していたのだが、しばらくすると受験生達が各々の席につきだした。見渡した限り、10歳くらいの子供が大半だ。たまにそれよりも大きな子供もいるが、私と同い年はいないようだ。成長が早いだけとも考えられるが、成長が早いのは魔力が低い証でもあるので、そもそも受験をしないだろう。


「受験番号100~110番まで来なさい」

 ぼんやりと眺めていると、いつの間にか教室に入ってきていた試験官が、番号を読み上げ始めた。試験官と呼ばれた子供たちがでていくと、教室は残った子供たちの話声でざわめく。

 まあ10歳そこそこの年齢の子供が詰め込まれているのだから、教師もいないのに黙っていろという方が無茶だ。そもそも小学校のないこの世界では、そういう教育を受けていない子供ばかりだろう。

 子供たちも実技と言う名の魔力検査が気になるようで、もっぱらその話題で盛り上がっている。


「受験番号111~120番まで来なさい」

 あ、自分だ。

 私の番号は119番。立ち上がり廊下にでた。

 廊下に出たはいいけど、どうしようかなと試験官を見た時、嫌なものを見る目で私を見ている事に気がついた。えっと……。

 悪意を持たれるのは慣れているが、ずっと睨まれても困るんだけど。どうするべきかを考えた末、銀髪をひとくくりに縛り、メガネをかけた試験官の顔を私もジッと見返す事にした。すると薄い水色の瞳が動揺したように揺れ、すっとそらされる。

 

「し、試験場所に移動します。番号順に並びなさい」

 睨んだら睨み返されるとか思わないのかなぁ。と言ったら喧嘩になるので、ここは黙っておく。試験官と喧嘩して落第した日には目も当てられない。

 

 というか、それは困る。さて、どうしよう。カミュエル達の言い分を信じるならば、人間関係はまず笑顔から。

 ……笑えばいいのかな?

 営業用笑顔を久しぶりに作り、笑いかけると試験官がぎょっとした顔をする。そして慌てて廊下を歩き出した。混ぜモノに産まれてしまった上、中身が私なので残念極まりない生物だが、見た目は結構かわいらしいと思うんだけどな。  

 やはりゴキブリが可愛い動きをしても、キモイのには変わらないと同じ事なのだろうか。愛想振りまいて損した。


 小さくため息をつきつつも、私も廊下を歩きだした。

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